とある歌舞伎役者が不安そうに語る。
「市川猿之助さんが一家心中事件を起こして1年以上がたちましたが、相続問題がまとまっていないようなんです」
2023年5月、自身への告発記事が世に出ると知って将来を悲観した猿之助は、自宅で父親である市川段四郎さんと母親の3人で一家心中を決行。
その後、一命を取り留めた猿之助は両親に対する自殺幇助の罪で起訴され、2023年11月に懲役3年、執行猶予5年の有罪判決を受けた。
「現在、猿之助さんは事件現場となった資産価値4億円といわれる自宅に住み続けており、最近飼い始めた犬と散歩をするなど静かに過ごしています。しかし、自宅の登記上の名義は亡くなった段四郎さんのまま。父親が命を落とすきっかけをつくった息子が遺産を相続できるのか疑問ですし、自宅の相続税は莫大になるかと。今後トラブルに発展しないか、多くの歌舞伎関係者が心配しています」(同・歌舞伎役者、以下同)
猿之助に父親の遺産を受け取る資格はあるのか。
弁護士法人ユア・エースの正木絢生代表弁護士は、このように語る。
刑に処された者は相続できない
「民法には“故意に被相続人を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために刑に処せられた者は、相続人になることができない”という“欠格事由”という規定があります。“死亡するに至らせ”とか“至らせようとした”という条文ですから、殺人だけでなく、自殺幇助も含まれることになります。しかし“刑に処せられた”との文言ですから、執行猶予期間が満了した場合は、刑の言い渡しの効力がなくなり欠格事由には該当しない、とする見解が現在は有力なようです。猿之助さんも執行猶予期間が満了した場合には、欠格事由には当たらず相続人である、ということになるのではないでしょうか」
だが、段四郎さんの遺産を受け取る資格があるのは猿之助だけではないようだ。
税理士法人OGUの代表・小串嘉次信氏によると、
「段四郎さんの兄で事件当時存命だった市川猿翁さんにも相続権があります。しかし猿翁さんは2023年の11月に亡くなっていますから、その息子である香川照之さんにも、遺産を相続する権利が生じる可能性があります。仮に自宅が4億円だとしたら、1億5000万円前後の相続税が発生しますから、遺産を受け取る当事者が支払うことになるでしょう」
香川照之が相続権を主張した場合
つまり、執行猶予中の猿之助が相続するのは難しく、その鍵を握っているのが香川だというのだ。
「もし、香川さんが相続権を主張しなければ、現在の自宅は名実共に猿之助さんのものになるでしょう。逆に香川さんが猿之助さんの執行猶予が明ける前に相続権を主張して調停を起こせば、香川さんが段四郎さんの豪邸を引き継ぐ可能性があります」(小串税理士、以下同)
こうした背景が理由としてあり、自宅の登記を変更できないのだろうか。
「いまだ、猿之助さんが住む家の登記が段四郎さんのままなのは、相続の詳細がまとまらず、登記の準備ができていないためと思われます。とはいえ相続税は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に支払いを行う必要がありますから、相続人である猿之助さんか香川さん、もしくは両名が、とりあえず支払っていると考えるのが自然です」
表舞台から去って“心中豪邸”で隠遁生活を続ける猿之助。彼の居場所は守られるのか。それとも─。
◆弁護士プロフィール
正木絢生 弁護士
弁護士法人ユア・エース代表。第二東京弁護士会所属。消費者トラブルや借金・離婚・労働問題・相続・交通事故など民事事件から刑事事件まで幅広く手掛ける。BAYFM『ゆっきーのCan Can do it!』にレギュラー出演するほか、ニュース・情報番組などメディア出演も多数。YouTubeやTikTokの「マサッキー弁護士チャンネル」にて、法律やお金のことをわかりやすく解説、配信中。
弁護士法人ユア・エース 公式HP https://your-ace.or.jp/
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◆税理士プロフィール
税理士法人OGU(兵庫県芦屋市)
代表 小串 嘉次信
相続関係と法人決算業務を取り扱う税理士事務所である。富裕層の相談実績も多く、税務調査の立ち合いを始め納税者が納得できる税務調査の終結を導き出すことに定評がある。法人決算業務については「経営者の想いを美しくバランスが取れた決算書の形に仕上げていくこと」を信条としている。
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