6月も値上げの波は続いている。帝国データバンクの調べによると、カルビー〈かっぱえびせん〉(77g入り)の店頭想定価格(税込み)は160円から170円に。健康飲料としておなじみ〈ネスレ ミロオリジナル〉は、内容量が240gから200gに減る一方、希望小売価格(税込み)は478円から547円に。
その他、高野豆腐や油揚げ、海苔(のり)などの価格もアップ。一般家庭の台所事情は厳しくなるばかりだが、こうした値上げは円安の影響が大きい。
“円安値上げ”が今後も続く可能性
「日本はエネルギーや食料品の多くを海外からの輸入に頼っています。近年は異常気象やウクライナ問題・中東情勢の緊迫化により、原油や小麦などの原材料価格が高騰。そこに追い打ちをかけたのが円安でした」
と解説してくれたのは、ファイナンシャルプランナーの有田美津子さん。
「円安とは他国通貨に対して日本円の価値が低くなること。例えば〈1ドル=100円〉が〈1ドル=150円〉になった場合、100ドルの商品は1万円から1万5000円に値上がりします。その結果、輸入価格が押し上げられ、そのコストが小売価格に反映されます」(有田さん)
為替に詳しい東短リサーチ社長の加藤出さんは先行き米国での景気が再上昇を始め、再び金利を上げる局面を懸念する。
「その場合、日銀が金利を十分に上げられていなければ、日米の金利差が再び拡大して、円安が進むことになる。そうなると、1ドル=200円の円安になる可能性も高くなるでしょう」
日本の金利は世界で圧倒的に低い状態にあり、今のままでは、円安も止まらない。
「現在の日本のインフレ率は2%台後半ですが、これは政府による電気・ガス料金を抑制するための補助金があったためで、それを除くと3%台前半。ガソリン代の補助を除けば、それ以上に跳ね上がります。
しかも、3年前の水準と比べると、消費者物価全体で9%も上昇しています。食品に限れば18%、エネルギー価格も14%上昇。3年前と比べた物価上昇率は、生活実感としてそれらに近いでしょう」(加藤さん)
家計を守る基本的な3つの方法を着実に
今秋にかけて“円安値上げ”の割合がさらに高まる局面も予想される。家庭でできる対応策はあるのか。
「家計を改善する手立てとしては、1)節約する、2)収入を増やす、3)今あるお金を運用する、この3つがあります。これらを組み合わせて、円安やインフレの影響を最小限に抑えましょう」
と、前出の有田さん。
テク1:節約する
円安対策としてSNSで聞かれるのは、〈値段が安いときにカップ麺など日持ちするものを買いだめ〉〈豚こま肉やもやしなどコスパのいい食材を選ぶ〉〈こまめに電気を消したり、続けて入浴してガス代を浮かせたり。地道に光熱費を削減〉といった声。
「家計の現状を確認して支出を減らすことは大切ですが、一般的な節約には努力や我慢がつきもの。そこで私がおすすめしているのが、毎月、決まった額を支払う住居費や保険料、通信費など固定費の見直し。ストレスなく節約ができる上に、大きな節約効果が見込めます」(有田さん)
例えば住宅ローンなら、借りた時期によって適用される金利が異なる。
「ローンの返済予定表を出して、今、何%の金利で返済しているのかをまず確認。現在の金利のほうが低い場合、融資手数料など借り換えにかかる諸費用を考慮しても、借り換えたほうが得になる可能性があります。
変動金利なら0.2%台で借りられるローンもあり、金利の優遇幅が大きくなれば、万単位で年間の返済額を減らせるかもしれません」(有田さん)
同様に、保険も契約内容を確認。特約を外したり保障金額や保険期間を見直したりすることで、保険料が減額できるケースがある。一方、通信費でチェックしたいのは、スマートフォンの料金プラン。
現在、携帯大手3社より安い価格で通信できるサービスが普及。月額料金はデータ使用料によって変わるが、スマホで動画視聴する習慣がないなど少ないデータ量でいい場合、月額料金が1000円以下になるケースも。
テク2:中古品に注目
円安には、〈海外に安く製品を売れるため輸出産業はもうかる〉などのメリットもある。そこで副業として個人輸出に挑む人も増えている。
なかなかハードルが高いと感じる人もいるかもしれないが、家に眠っている中古ブランド品を売って収入を得るのも手。海外の人は日本の中古ブランド品を安く購入できるので、需要が高まり価格も上昇している。
「当店での中古ブランド品の買い取り価格は全体的に10~20%上昇しています。人気商品なら30%上がったものも」
と話すのは、RKエンタープライズ〈ロデオドライブ買取サロン銀座〉店長の杉本直人さん。
「特に最近、買い取り価格が上昇しているのは、エルメスやロレックス。これら以外にも世界的に人気のブランドで状態が良いものなら、年数が経過していても高値がつく可能性があります」(杉本さん)
実際、中古ブランド品を扱う店では買い取り希望の客が急増。
「当チェーン全体の来客数は、2023年と比較すると150%増加。特に中古ブランド品買い取りのニーズは高く、400%増加した地域もあるほどです」と話すのは出張買取サービス『買いクル』を全国で展開する株式会社RCの島津大輔さん。
海外からも「ジャパニーズ中古」といわれるほど、日本人が使っていたきれいな状態のブランド品は人気が高い。実は買い取り価格が上がっているのは、ブランド品だけではないとのこと。
「円と金の相場には相関関係があり、円安になると金が高値になります。ですから現在、金を含む貴金属の買い取り価格が上昇しているのですが、それに比例してレアメタルや銅など資源となる金属の相場もアップ。
これらが使われているテレビ、エアコン、洗濯機、パソコン、携帯電話の買い取り価格も上がってきています」(島津さん)
これらの家電の買い替えを検討している人は、廃棄するのではなく中古品として売ると案外、高く売れるかも!?
テク3:お金を運用する
「インフレや円安は今後も続く見込み。例えば物価が毎年3%ずつ上昇したら、100万円で買えた車が10年後には約134万円に。
一方、長らく年0.001%に据え置かれていた大手銀行の普通預金金利は4月に0.02%に上がったもののまだまだ低く、物価上昇率に追いついていません。そこで、今あるお金を運用して普通預金より高い利回りで物価上昇分をカバーすることも一案です」(有田さん)
ただ資産運用は仕組みややり方がよくわからない、という声も多い。
「初心者におすすめなのは投資信託。値動きが違う複数の資産に分散して投資すれば、元本割れするリスクを下げることができます。
毎月一定金額ずつ投資信託を購入する積み立て投資にすれば、何もしなくても値下がりしたときに多くの口数を購入でき、値上がりしたときには購入する口数を減らせますから、よりリスクを下げることができるはず」(有田さん)
特に円安の今、狙い目なのはどんな商品なのだろう。
「外国の株式や債券などを織り交ぜた投資信託です。百円や千円単位での積み立ても可能ですから、新NISAを利用して、まずは少額から始めてみては」(有田さん)
教えてくれたのは……有田美津子さん●ファイナンシャルプランナー。家計や保険見直し、ライフプラン相談はもちろん、介護が必要になっても最後まで自分らしく住み続けるためのリフォームや、安心・安全に暮らせる住まいへの住み替え支援などにも力を入れている。
取材・文/中西美紀