長谷部誠

「ななふぅん!?」

 '22年にカタールで開催されたサッカー・ワールドカップ。日本代表選手たちのプレーはもちろんのこと、視聴者の心を奪ったのが本田圭佑による名(迷)解説だった。

好評だった本田圭佑の解説

本田圭佑

「7分という長めのアディショナルタイムに驚いた声だけでなく、“俺がラインズマンやろか?”“こいつの顔見てください。全然ファウルちゃうやん言うてます”など、本音で、そして熱く、さらにユーモアも混ぜた解説でした。それだけでなく戦術的な部分など、きっちり“サッカー的な”解説も忘れない。もちろん賛否はありましたが、多くの人に好評だったと思います」(サッカーライター)

 本田が解説を務めたのはネットテレビ局『ABEMA』の配信。近年サッカー中継に非常に力を入れている。世界的なスポーツイベントの中継はNHKや民放テレビ局が受け持つことが多く、ABEMAは新参だ。そこで配信の“目玉”として本田は起用された。

「本田さんはここ数年選手としての試合出場はありませんが、引退は宣言しておらず現役。'22年のワールドカップが初めての解説担当となりました。そして現在、本田さんと同様にABEMAで初めての解説者となったのが長谷部誠さんです」

 ABEMAは現在開催中の『ユーロ 2024』を配信中。ヨーロッパナンバーワンを決める同大会を全試合無料生中継するのは日本史上初となる。

「長谷部さんはドイツ1部リーグのフランクフルトに在籍。日本代表でも長年キャプテンを務めましたが、同チームでも日本人ながらキャプテンを務めることもありました。今後もフランクフルトに残って指導者の道に進みますが、引退後の最初の仕事がユーロの解説となったともいえますね」(前出・サッカーライター、以下同)

長谷部が解説した試合でまさかの立ち上がり

 長谷部は6月15日に行われた開幕戦のドイツ対スコットランドの解説を担当した。

「開幕数日前という急なオファーだったようですが、長谷部さんは快諾。今大会は長谷部さんが長年プレーし、“第2の故郷”とも語るドイツでの開催ということも大きかったでしょう」

 本田と同様にABEMAで配信される国際大会で初解説となった長谷部だが、これまた本田と同様に非常にウケている。

「配信開始当初は少し緊張している感じが伝わり、また長谷部さんは現地から、実況担当者ともう1人の解説者は日本からというリモートでの解説だったため、両者にどうしてもタイムラグがあり、初めての人にはやりづらい環境ともいえました。しかし、長谷部さんは口数はそれほど多くなかったですが、“ぶっちゃけ”トークも随所に出て、サッカーファンを中心に楽しんだ人も多かったと思います」

  試合開始からわずか2分、試合ではなく長谷部が動く。

「彼(ドイツ代表監督)とは一度、試合中に大ゲンカしたことあるんですけど……」

 試合中に大ゲンカ。長谷部がキャプテンを務めていた時代の日本代表では、まじめすぎるという意味の「長谷部かっ!」という言葉が、リスペクトを込めたネタ・ツッコミになっていた。そんなまじめさを学ぼうとした人が多かったのか彼の著書『心を整える』はベストセラーに。そんな心の整ったキャプテンらしからぬ(?)発言からスタートした。

「インタビューの様子などから長谷部さんはまじめなイメージが強いですが、わりと試合中は感情を出すことも少なくない選手。若いときはそれがさらに多かった。ただ、それを本人が解説者としてしゃべるとは思いませんでしたが(笑)」(前出・サッカーライター)

心が整っていない長谷部

 “ケンカ”はさらに続く。

「僕、リュディガー(ドイツ代表選手)ともケンカしてるんですよ」

「すごい、なんかこう挑発されたんで……なんだ? と思って言い合ってました」

 続くケンカエピソードにABEMAの視聴者は沸いた(以下、《》はABEMA配信中に投稿されたコメント)。

《長谷部心整ってなくて草》

《心整えられてないじゃんw》

《喧嘩番長長谷部》

 本田ほど砕けていたり、熱いわけではないが、長谷部節は続く。

「アンドリッヒ(ドイツ代表選手)は気をつけたほうがいいですね。1枚(イエローカードを)もらってるんで。よく本当に退場する選手なんで。フフフ(笑)」

 と、よく意味のわからない笑みを浮かべる長谷部。と思いきや、

「今はうちの、アイントラハト・フランクフルトが、彼(ドイツ代表選手)を欲しがってて」

 所属クラブの内部事情をサラッと公開。《裏情報きたw》《それ言っていいやつ?》《長谷部砲》といった声が飛ぶ。

「リュディガー、よくこのシュートやりますけど、入ったことあるんですかね。ないですよね(笑)。でも打ちますよね」

 過去にケンカした選手を軽くディスる長谷部。

「“あの選手を狙ってる”ということについては現地では一部で報じられていましたが、とはいえチームの内部にいる人が決定前にこのような形でそれを認めるような発言は珍しいですね。長谷部さんなりのサービス精神でしょうか(笑)。ドイツ代表には実際に対戦したことのある選手も多く、“スタメンじゃないとこの選手はあからさまに態度に出る”など、対戦相手として身近で見たからこそ伝えられる情報が多かった」(前出・サッカーライター、以下同)

 とはいえ“裏事情”のようなものを暴露するに終始していたわけではない。

実際に戦ったからこその解説

「例えば“この選手はこういうボールの持ち方をする。対戦する守備側はこう見える”など、出場している選手と実際に対戦したからこそ可能な解説も多かった」

 事実、ドイツ代表の期待の若手選手・ムシアラに対し長谷部は、「懐が深いから飛び込みづらい、飛び込んじゃうとファウル取られる。自分もそれでPKを取られた」と言及。その“予言”は当たり、ムシアラに対峙した相手選手はペナルティーエリアで飛び込みファウルに(ビデオ判定でペナルティーエリア外というジャッジでPKにはならず)。

「今回は長谷部さんともう1人、元プロサッカー選手の林陵平さんが解説を務めました。林さんはサッカーについての“言語化”に長けていて、解説を担当する試合が非常に多い。今いちばん忙しい解説者といえる人です。解説と並行して東京大学サッカー部(ア式蹴球部)の監督も務めています。長谷部さんは試合中に林さんに対して、“林さんなら(この負けている状況を)どうします?”“こういうときってどうしたらいいんですかね?”などと質問攻め。常に学ぶ、隙あらば学ぼうとする、長谷部さんらしい姿に好感を持った人も多いのではないでしょうか」

 また、長谷部に“意図”があったかはわからないが、日本のスポーツマスコミに対しての言及に思える発言も。日本代表選手の伊藤洋輝がドイツの強豪バイエルンに移籍が決まったことについてだ。

「日本サッカーにおいてはとても大きな出来事じゃないかと。バイエルンのような世界のトップオブトップのクラブに日本人選手が行くっていうのは素晴らしいことだと思いますね」

 そう伊藤の移籍を称賛した長谷部だが、この言葉も付け加えている。

「日本でどう報道されているかわからないですけど」

 この発言について、前出・サッカーライターは、

「是非はともかく、サッカーでどれだけのビッグニュースがあっても、日本では野球のニュースが優先されることがあります。それに対して長谷部さんがチクリと言及したのではないかと捉える人は少なからずいましたね」

《長谷部さんの話ずっと聞いてたい》

《俺たちのキャプテン最高だぜ》

「長谷部さんの解説はサッカーファンを中心に大好評だったといえますが、現状はこの開幕戦と決勝のみの担当となっています。ただ、ワールドカップの本田さんの担当は初解説となった『グループリーグ・日本対ドイツ戦』でしたが、別の解説者の予定だった『決勝トーナメント1回戦のクロアチア戦』でも急きょ本田さんが解説を務めました。クロアチア戦の解説は当初、中山雅史さんと中田浩二さんで、発表もされていましたが、翌日の『モロッコ対スペイン』戦の解説に回りました。本田解説の反響を受けてのものと考えられます。

 そのためドイツが勝ち進めば、長谷部さんが解説する試合も追加されるかもしれませんね」(前出・サッカーライター)

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