謝罪会見時(2020年)の渡部建

 お笑いコンビ、アンジャッシュの渡部建氏が6月21日、ゲストコメンテーターとしてTOKYO MX『5時に夢中!』に出演しました。2020年に複数の女性と多目的トイレで不倫していたことが報じられ、活動自粛。この度、4年ぶりに地上波で活動再開後初の生番組出演となりました。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 YAHOO!JAPANリアルタイム検索でここ1週間(6月24日付)の「5時に夢中 渡部」のポスト数グラフを見ると、53%のポジティブ、47%のネガティブ反応があることがわかりました。わずかにポジティブ反応が上回っていますが、4年経ても払拭されない多くのネガティブ反応があることに問題の深さを感じます。なぜここまで根深いネガティブ反応が続くのでしょうか。

根深く嫌悪が残る理由

 ネットの投稿を見ると、怒りというよりも、軽蔑や嫌悪反応が目立ちます。嫌悪に焦点を当てることで、根深さの謎が垣間見られます。嫌悪は「不快なモノ」を原因に生じ、「不快なモノ」を排除しようとするための感情です。具体的に見ると5段階のレベルがあります(Rozinら, 2008)。

 最も根源的な嫌悪は、毒物や腐敗物に対して生じます。次の2番目の嫌悪は、病気やウイルス感染の恐れがある身体接触や分泌物、食物摂取に対して生じます。

 3番目の嫌悪は、獣性に関わる嫌悪。セックスや死、身体表面の異常に対して生じます。身体と魂を守り、死を否定したいために生じ、動物と人間の境となる嫌悪です。

 4番目は対人嫌悪です。よそ者や望ましくない者に対して生じます。そして最後の5番目が、道徳違反に対して生じる嫌悪です。最後の2つは社会的秩序を守るためにあり、集団を形成する動物にも見られますが、その複雑な形は人間特有のものとなります。最初の嫌悪ほど受け入れることが難しくなります。

 渡部氏の不倫が「よくあるもの」ならば、私たちが抱く嫌悪感は道徳違反に対する程度となり、ここまで続くものではなかったでしょう。

 しかし、「多目的トイレ」かつ「金銭の授受あり」という特異性が、「身体と魂を守る」嫌悪の機能を不全にさせたと感じるのではないでしょうか。5段階中3段階目の嫌悪ですので根深く、「地上波ではなく、ネット配信で(渡部氏を)見たい人だけが見ればよいじゃないか」という意見にも頷けます。

 とはいえ、渡部氏は社会から完全抹殺されるほどの罪を犯したわけではないでしょう。芸能人が不道徳な行為をすることは社会に与える影響が大きく、一定の非難が向けられることは仕方のないことでしょう。しかし、最終的には関係者間の問題といえます。

渡部氏の緊張を読み解く

『5時に夢中!』の公式サイトに掲載されている渡部建氏の表情は、一見笑顔に見えるものの、緊張感が出ています(5時に夢中!』公式サイトより)

 21日(金)の『5時に夢中!』出演時、ゲストとして紹介を受けた渡部氏は、おかしなタイミングで立ち上がり、頭を下げ、「立ち上がろうと思ったんですけど、すみません、変な間になっちゃって……」と説明します。

 緊張から身体をスムーズに動かせなかったのだと考えられます。また、「生放送はそれこそ4年ぶりとかですね。長かったような、短かったような。全然まだフワフワしちゃって」と緊張している様子を述べます。

 さらに、『5時に夢中!』の公式サイトに掲載されている出演者集合写真の渡部氏の表情は、一見笑顔に見えるものの、目は笑っていません。口角は水平に引かれ、下まぶたに力が入り、上まぶたは引き上げられ、緊張のサインが見られます。

 渡部氏は明らかに緊張していました。なぜでしょうか。

 渡部氏の著作『超一流の会話力』に次のようにあります。

好かれようが嫌われようが、どうでもいいと思っている相手には緊張しないし、自分より格下だとナメている相手にも緊張はしないものです。緊張は相手をリスペクトしているからこそ生まれると言えるかも知れません。

また、自分で「緊張しています」と口に出すと、本人もラクになります。

最悪なのが、緊張しているのにそれを隠しながら話をしようとすることでしょう。その人が緊張しているかどうかは見ればわかります。

緊張を隠しながらしゃべろうとするとさらに緊張の度合いが高まり、話の内容が支離滅裂になってしまうことがあるので、最初から緊張していることを宣言してしまったほうがいいのです。

『超一流の会話力』P.190より

 また、

いい緊張とは、ちゃんと事前の準備をして、それでもうまくいくかどうかわからないときに感じるものです。

『超一流の会話力』P.191より

 とも書いてあります。

真摯に取り組もうとしたがゆえの緊張感

 これは、会話の相手に対する態度について説明している部分ですが、番組関係者や視聴者と言い換えることができるのではないでしょうか。

 以上のように渡部氏の緊張を軸に複合的に見ると、4年ぶりの生番組に真摯に取り組もうとした心情がうかがえます。視聴者の嫌悪感がどう薄まり、好感度を回復させられるかは、今後の渡部氏の頑張り次第でしょう。

参考文献:
渡部建『超一流の会話力』(2022)きずな出版
Rozin, P., Haidt, J., & McCauley, C. R. (2008). Disgust. In M. Lewis, J. M. Haviland -Jones & L. F. Barrett (Eds.), Handbook of emotions, 3rd ed. (pp. 757-776). New York: Guilford Press.

清水 建二(しみず けんじ)kenji shimizu
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役
1982年、東京生まれ。防衛省研修講師。特定非営利活動法人日本交渉協会特別顧問。日本顔学会会員。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』イースト・プレス、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』フォレスト出版、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』飛鳥新社がある。