4人でよくたむろしていた『餃子の王将』三軒茶屋店で

 同じ事務所でほとんど同期、プライベートでも親しいキャイ〜ンとずん。交友を綴った著書の刊行を機に、天野っち、ウドちゃん、飯尾、やすの4人に芸能界で30年以上、生き残ってきた秘訣を語ってもらった。

ウド鈴木「本当に好かれてないんです」

 お笑いコンビ「キャイ~ン」(天野ひろゆき、ウド鈴木)「ずん」(飯尾和樹、やす)は、大の仲良しだ。2組はほぼ同時期に所属事務所である『浅井企画』に入り、今に至るまで、ほとんどケンカをしたことがないという。いい意味で腐れ縁の、おじさん仲間である。

 そんな彼らがそれぞれの子ども時代、出会いと芸人デビューから現在までを1冊にまとめた書籍『キャイ〜ン ずん 作文集が発売されたが、この4人は、いったいなぜこんなに仲良しなのか。

 売れっ子になった時期も違う、それなのにお互いに嫉妬もなく、足の引っ張り合いもない。芸能界でも、彼らを嫌う人がほぼいないと聞く。今の時代を生き抜くためには、人に嫌われないことも重要だ。その秘訣を聞いてみた。

ウド 人から嫌われてないっていうけど、正直、僕は嫌われてると思うんですよね〜。

天野 そんなことはないと思うけど、ウドちゃんは人が自分のことをどう思ってるかをめちゃくちゃ気にするのよ。

やす 自分ではわからないですもんね、そんなこと。

ウド いえ、本当に好かれてないんです。だからみんなに好かれてる、いい人の近くにいることが大事なんですよね〜。そうすると、好かれてる気になりますもの。それで、天野くんのそばにいるんです。さらにこの3人は懐が深いですから。

飯尾 ほほぅー。

ウド 奥さんからよく言われます、「あなたはいつも人からよく見られようと考えてるわよね」って。僕の師匠の夢麻呂さんからも昔、「ウドは偽善者やなぁ」って言われたことがあります。

思い出の場所を旅する4人の座談会と、それぞれが綴った作文を収めたエッセイ集『キャイ〜ンずん作文集』(徳間書店)※記事の中の写真をクリックするとAmazonの購入ページにジャンプします

天野 さすがウドちゃんの名付け親、厳しいねぇ〜。

ウド でも、偽善というものは続けていれば本物になるんですよ。

天野っちの運転でやすの故郷・宮崎への旅も

《ウドちゃんは自分の信念をよくも悪くも貫く人間である。その信念に対して合う、合わないはあるが、信念そのものに悪がないのだ。だから今は本人の思いをしっかり聞いてから、自分の思いを伝えるようにしている。まるで獰猛な犬を諭すような気持ちである》(『キャイ〜ン ずん 作文集』天野の作文より抜粋)

やすが3人をお手本にしている理由は

やす そういう意味では、俺もこの3人はお手本ですよ。俺を常に気遣ってくれるんです。相方なんて自分のことよりも先に他人のことですから。俺は常に自分のことしか考えないのに。

飯尾 やすはいつも髪の毛のこと考えてるんじゃないの?

やす こらっ! こういう人の外見をちゃかす人は嫌われますよね。

ウド やすぼんは、自分の髪の毛と真摯に向き合っていることを今回、本に書いてます。

《私が26歳から30代半ばまで、明け暮れた戦いがある。それは抜け毛との戦いだ。この戦いは皆が経験するものではない。経験をせずに一生を終える人間のほうが圧倒的に多いだろう》(『キャイ〜ン ずん 作文集』やすの作文より抜粋)

天野 アハハ。

やす いやいや、髪の毛はさておき、この3人と一緒にごはんを食べに行ったら、3人はみんなにごはんが行き渡ったかな、とチェックしてから、自分が食べ始めるんですよ。もう思いやりの塊。

飯尾 家族が多かったからだよね。

やす 俺も家族が多かったけど?

ウド 4人兄弟だもんね、やすぼん。

天野 僕より多いじゃないか!

やす 俺はこの3人をお手本にして、いろんな会食の席で周りに気を使うようにしているので、俺はいい人みたいに見えることがあるかも。

飯尾 そんな人間じゃないけどね(笑)。

《天野はやすのことを「やす」、もしくは「栗頭先生」。ウドは「やすぼん」。浅井企画の先代の浅井社長は、関根くん、小堺くん、天野くん、ウドくん、飯尾くんと呼ぶ中、やすには「やすさん」とさん付けでした》(『キャイ〜ン ずん 作文集』飯尾の作文より抜粋)

天野 でも、「いい人」の定義って何だろうね? 僕は前から思ってたんだけど、相手に嫌われてるんじゃないかなって思うことがあるでしょう? でもそれって、実は先に自分が嫌ってるんじゃないかなと思いますよ。自分が苦手だと思うから、相手も自分を苦手と感じてる。すべて自分発信なんですよ。

飯尾 あー、確かにそうかもしれない。俺も好きな人のところにしか行かないかも。好きな人には嫌なことはしないから、嫌な人にはならない。好きな人とは楽しいだけだから、相手から嫌な人にはなっていないかも。

天野 そうね。好きな人にちょっと嫌なことされても許せるしね。そうなると、許容範囲が広いねって言われるし、飯尾くんの考えが一番しっくりくるかも。つまり、好きな人に囲まれるのが好かれるコツ。

 4人を端的に表すのが、書籍の副題『ほぼ同じで、ぜんぜん違う』だ。ほとんど違う性格というが、考えていることも一緒、30年強、芸能界で生き残り続けていることも一緒だ。

やす 俺は、ギリギリです!

ウド アハハハハ。

やすの実家近くでのツーショット

天野 でも、この4人は好きなことをやれているでしょう? それが一緒なんですよ。

ウド 僕は、この3人におんぶに抱っこに寝んねで、みんながいなかったら、僕はいないのかなぁ〜。

天野 いないのかな〜って(苦笑)。

ウド 甘えさせてくれる3人がいるから、生きていられるんですよ〜。

飯尾 厳しく叱ってるんだけどな……。

ウド 全然わからなかったー。

3人 ワハハハ。

長く続けるコツは「やっぱり“好きだ”っていうこと」

《私の相方の天野くん! 親友の飯尾さん! やすぼん! この3人とお会いできていなかったら、人生の楽しみや笑いを、全身全霊で感じることはなかったと思います》(『キャイ〜ン ずん 作文集』ウドの作文より抜粋)

飯尾 例えば、俺はパンが上手に作れるとか、蕎麦打ちがうまいとかだったら、ここにいなかったかもしれないね。

やす でもね、やっぱりお笑いの仕事って1人ではできないから。

飯尾 よく、老舗の料理屋さんに仕事で行ったりするんだけど、みんな朝早く起きて、夜遅くまで働いてすごいよね。でも、それが好きってこと。

やす 「好き」は苦じゃないもんね。

天野 朝5時半にゴルフ行くのも大変だけどなー。でも、好きだから起きられる。

飯尾 ラーメンとかスイーツで1時間とか2時間並んで待つ人、いるじゃない? 俺は並ぶのは嫌だけど、好きだと並ぶんでしょう?

天野 まあ、そうね(笑)。おいしい料理と笑ってもらうことはちょっと違うかもしれないけど、どちらにしても、長く続けるコツは、やっぱり“好きだ”っていうこと。何度も言ってるけど、お客さんにウケてドカンと笑ってもらえたときはそれがうれしくて、一生かけて続けられる原動力になるよね。

やす 俺はなかなかウケないですけどね。

天野 よく続けてこられたな〜(笑)。もしかして、やすは「あそこ、何で儲かってるの?」って言われるお店?

やす はい。でも、好きなんですよ。

飯尾 やすさ、ここお悩み相談じゃないんだけど。

ウド アハハハ。楽しいですね〜。

取材・文/いくしままき

キャイ~ン 1991年結成、「キャイ~ンのティアチャンネル」がYouTube配信中。(右)天野ひろゆき『うまいッ!』(NHK総合)、『プレミアの巣窟』(フジテレビ系)ほかレギュラー出演。(左)ウド鈴木 『ななにー地下ABEMA』(ABEMA)ほかレギュラー出演。著書に短歌集『ウドの31音』(飯塚書店)。

ずん 2000年結成。(右)やす『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日系)ほか、ドラマ『#コールドゲーム』(東海テレビ・フジテレビ)などに出演。(左)飯尾和樹『さんまのお笑い向上委員会』(フジテレビ)、『飯尾和樹のずん喫茶』(BSテレ東)ほか、ドラマ『アンナチュラル』(TBS系)などに出演。