桜金造 撮影/近藤陽介

 7月7日に投開票が行われる東京都知事選挙2024。現職・小池百合子知事の2期8年にわたる都政運営の評価が大きな争点になると目され、対抗馬として参議院議員の蓮舫氏、広島県安芸高田市の前市長・石丸伸二氏らが出馬。それに伴いなんと50人以上の候補者が。都知事選って一体……。出馬経験者の桜金造氏に話を伺いました。

桜金造氏「東京をよくしたいという思いは変わらない」

「石原慎太郎さん以外だったら誰でもよかったんですよ」

 そう話すのは、2007年に行われた都知事選に立候補した桜金造さん。出馬を決意したきっかけは、近所の顔見知りの高齢女性が孤独死したことだった。

「これからこういうケースが増えていくんじゃないかと思った。一度、石原さんの講演会に行ったことがあるんだけど、1時間半も遅刻してきたのにヘラヘラ笑って、謝りもしない。

 おまけに、東京にオリンピックを誘致して、いろんなものを壊して、ビルやらマンションを建てると話す。こんな優しさのない人が、東京のトップではいけないと思ったんです」(金造さん、以下同)

 金造さんは、公約に「生活保護申請はすべて受け付ける」を掲げ、ほぼ孤立無援で都知事選を戦った。結果は6位。有効投票総数の10分の1に届かなかったため、供託金も没収された。

「東京の場合、ポスターを貼る掲示場所が膨大にあるわけだけど、すべて自分たちで貼らなきゃいけない。選挙活動を手助けしてもらう人たちが必要だから、当然お金もかかる。

 僕は、選挙資金を持つ団体に推されて出馬したわけではないので、ポケットマネーの200万円くらいしかなかった。手弁当でやるしかないから、ほとんどの掲示板にポスターを貼れなかった。

 10番のところが僕だったから、『そこをじーっと見ていれば僕の顔が見えてきます』なんて怪談ぎみに話したけど、内心は『勝てるわけない』と思っていた。実際に出馬してわかったけど、お金を持っている陣営じゃないと勝てないんです

 さらには、嫌がらせのファクスが大量に届き、抗議の人が自宅に現れる事態にもなったという。

「『出しゃばるな』ということなんでしょうけど、ネガティブキャンペーンをされるわけです。玄関のドア前にゴミをぶちまけられていたこともあった。警察に相談したけど、SPは自分で雇わないといけないと言われた。『また金がかかるのかよ!』ってあきれたよ(笑)。

 最初からわかっていたら、絶対に出馬はしていなかった。勝てない、お金はかかる、嫌がらせも受ける……1000年くらい前の文書に、『まつりごとは悪人の仕業』って書いてあるそうなんだけど膝を打ったね」

 都知事選はもうこりごりだと苦笑する金造さんだが、東京への思いは今も強い。

「タワーマンションや商業施設ばかり建てたってしょうがない。東京の個性をなくして、似たようなものばかり造ってさ。東京には江戸の文化も残っているし、明治以降の近代的な東京の素晴らしさもある。再開発っていえば聞こえはいいけど、いいものを壊してまで開発する街づくりって何だろうね?

 僕が住む杉並区は、子どもの数が減っているからって児童館を壊してマンションを造っているけど、いつまでそんなことやってんだって思う。今だけ、金だけ、自分だけ──そういう政治が続いているけど、大衆の考え方は変わります。一気に変わることはない。だけど、着実に変わっていると思いますよ」

桜金造(さくら・きんぞう)●1956年、広島県生まれ。『ぎんざNOW!』でデビュー後、'75年にコメディーグループ「ザ・ハンダース」を結成。その後、アゴ勇さんとのコンビ「アゴ&キンゾー」でも活動。コメディアンとしてだけでなく、俳優としても活躍し、伊丹十三監督の映画『タンポポ』『マルサの女』などでも存在感を発揮。東京都杉並区在住。

取材・文/我妻弘崇 撮影/近藤陽介