『虎に翼』の主題歌『さよーならまたいつか!』が好評だ。過去には『梅ちゃん先生』、『マッサン』、『カーネーション』などの作品でそうそうたる顔ぶれが名曲を歌ってきた。視聴者が最も心に残っている2000年以降の朝ドラ主題歌は?
心に残る朝ドラ主題歌ランキング
《口の中はたと血が滲んで 空に唾を吐く》
放送当初は賛否を呼んだこの歌詞。今では作品と同様、視聴者に高評価を得ている米津玄師の『さよーならまたいつか!』。放送中の朝ドラ『虎に翼』が女性を中心に絶大な支持を集めている。芸能評論家の宝泉薫さんは、
「個人的には朝ドラの主題歌で“空に唾を吐く”フレーズは良くないと思っていますが(笑)、物語をちゃんと読み込んで米津さんなりに朝ドラに寄せて作ったと思います。
俯瞰で見て自身のメッセージ性を極力出さない、やはり彼はアーティストとしてうまいと思いました。朝ドラの主題歌はアーティストの色がつきすぎていると敬遠されがちな気がします」
と、朝ドラ主題歌人気の法則を分析。そこで週刊女性は、朝ドラを習慣的に視聴している読者2000人を対象にアンケートを実施。あなたの心に残った主題歌はなんですか?
夜っぽいイメージのアーティストが名曲を
「ヒロインの笑顔と、穏やかな沖縄の風景が浮かんでくる」(広島県・33歳・女性)
5位にランクインしたのは『ちゅらさん』('01年)の主題歌『Best Friend』。朝ドラで初めて沖縄がメインの舞台となった同作は、ヒロインの恵里(国仲涼子)、主題歌担当のKiroroが同県出身。沖縄ブームを巻き起こした。
現在、NHK総合で昼に再放送もしている同作。23年前の放送を見ていない新規ファンの票も多かった。
続く4位は、誰もがサビは歌えるであろうあの名曲。
「主人に対して歌いました(笑)。女房として支えてきた自分に酔いながら」(山形県・51歳・女性)
『ゲゲゲの女房』('10年)の主題歌『ありがとう』(いきものがかり)がランクイン。同作のチーフプロデューサーが、いきものがかりのファンであったことから、実現したという。
漫画家の水木しげるさんの妻・武良布枝さんの同名の自伝が原作の同作は、愛する夫と一歩ずつ明日へ向かって歩いていく布美枝(松下奈緒)が主人公。お互いを思い合うことの積み重ねがとても大きなことにつながるというメッセージが込められている。
宝泉さんは、
「『ゲゲゲの女房』は朝ドラ史に残る名作で、主題歌もそれにふさわしかった。翌年には選抜高校野球大会の入場行進曲にも選ばれ、幅広い世代から支持を集めた」
トークイベント『おしんナイト』を開催するなど、朝ドラに詳しいライターの成田全さんは同作について、
「放送時間がそれまでの8時15分から8時に繰り上がり、主題歌からではなくアバンタイトル(オープニング前の短いシーン)が入るようになったので“あれ? 主題歌は?”と思ったことが印象に残っています。また後枠の『あさイチ』が始まったのも同じタイミングで、朝ドラ受けもこのときから始まったんですよね」
朝ドラ改革となったのと作品の人気に一役買ったのは「ありがとう」効果もあったに違いない。
3位にランクインしたのは、
「最初は違和感を覚えたけど、今はこの曲なしにこのドラマは語れないと思っています」(千葉県・61歳・男性)、「聴くだけで寅ちゃんのいろんな顔が浮かぶ」(山口県・44歳・女性)
そう、現在放送中の『虎に翼』の『さよーならまたいつか!』が早くもランクイン。
多くの視聴者が最初は違和感を覚えたというこの曲。成田さんも同じだったようで、
「米津玄師は夜っぽいイメージが強く、米津本人もインタビューでそう発言していて、朝ドラにはどうだろうと思ったのですが、聴けば聴くほど歌詞の意味に引き込まれる。
さらに毎日使われている1番だけでなく2番の歌詞でもドラマの世界を奥深く描写していることを知って“なんてすごい歌なんだ!”と驚愕しました。ドラマの内容とベストマッチした曲として足跡を残すことになると思います」
と、太鼓判を押した。ドラマはようやく中盤に差しかかったところだが「さよーなら」するまで人気は衰えそうもない勢いだ。
2位は、昭和・平成・令和を生きる3世代のヒロインが演じたあの名作。
「母と一緒に見るのが幸せな時間だった。今でもあの主題歌を聴くとそれぞれの主人公に思いが及んで涙が出る」(岡山県・27歳・女性)、「君と君の大切な人が幸せであるそのために、という歌詞がドラマとリンクしてたまらない」(京都市・48歳・男性)
AIのパワフルな歌声が3世代続く女性たちの壮大な世界を描いた『カムカムエヴリバディ』の『アルデバラン』。
「印象に残っているのが稔(松村北斗)と身分違いの恋に悩む安子(上白石萌音)が彼との逢瀬のあと、電車でひとり涙したところで心情を表すように『アルデバラン』が流れた回です。放送開始から12分以上たっていたので、今日は主題歌がなかなか流れないと思ったら“ここで!”……と切なすぎて涙しました」(成田さん)
この手法は『虎に翼』でも使われ、好評を得ている。
数々の名曲を抑えての1位は、まだ記憶に新しいこの歌。
「主人公とヒロインがお似合いでとても良かった」(埼玉県・52歳・女性)、「やっぱり朝は穏やかな歌声がいいなと改めて思った」(長野県・62歳・男性)
神木隆之介と浜辺美波が夫婦を演じた『らんまん』から、あいみょんが歌う『愛の花』が多くの票を集めた。その理由を前出の宝泉さんは、他の主題歌とも比較して分析する。
「朝ドラの主題歌は週5日毎朝聴いていて嫌にならないことが重要になる。最初は好きな歌でも毎日だと飽きてくるんですね。『愛の花』はドラマとの相性もよく、ソフトでわかりやすい」
そうそうたるアーティストが担当してきた朝ドラ主題歌。ランク外となった歌の“敗因”はなんだろうか。
「歌詞を口ずさめるか、もあるでしょうね。『ひよっこ』主題歌の桑田佳祐『若い広場』は、放送当時のNHK会長が“歌詞が聴き取れない”“意味不明なところがある”と発言したことも(笑)。
個人的に歌詞が聴き取りにくいと思う朝ドラ主題歌はDREAMS COME TRUEの『晴れたらいいね』(『ひらり』)と『あなたとトゥラッタッタ♪』(『まんぷく』)。特に『晴れたらいいね』は、歌詞が聴き取れない方からの《ひらりの歌に毎朝イライラ》という投書が新聞に載ったほど(笑)」(成田さん)
宝泉さんは朝ドラ主題歌に求められる条件について、
「さわやかさ、わかりやすさ、手作り感のある曲が好感度が高いと思います。メッセージ性が強いものは朝には向かないんですよね。例えば、椎名林檎さん、中島みゆきさん、宇多田ヒカルさんは作品よりも“私が”感が出ちゃってるんですね」
ドラマの世界観に寄り添い、押しつけがましくない歌詞が支持されるようだ。
「心に残った」朝ドラ主題歌ベスト10(20代〜60代の男女2000人対象)
1位 『愛の花』あいみょん 128票
『らんまん』神木隆之介・浜辺美波
2位 『アルデバラン』AI 116票
『カムカムエヴリバディ』上白石萌音・深津絵里・川栄李奈
3位 『さよーならまたいつか!』米津玄師 93票
『虎に翼』伊藤沙莉
4位 『ありがとう』いきものがかり 87票
『ゲゲゲの女房』松下奈緒・向井理
5位 『Best Friend』Kiroro 85票
『ちゅらさん』国仲涼子・小橋賢児
6位 『さかさまの空』SMAP 82票
『梅ちゃん先生』堀北真希・松坂桃李
「SMAPが出演していないのに主題歌なのは画期的だった」(千葉県・46歳・女性)、「あまりの下手さにずっこけたけど朝から元気をもらった」(福島県・64歳・男性)
7位 『アイデア』星野源 76票
『半分、青い。』永野芽郁・佐藤健
「作品は好きじゃなかったけれど主題歌は良かった」(埼玉県・51歳・女性)、「“おはよう世の中”という歌いだしを聴いてから出勤していた」(東京都・33歳・女性)
8位 『優しいあの子』スピッツ 71票
『なつぞら』広瀬すず・中川大志
「スピッツの声とウッチャンのナレーションがすごくマッチしていた」(神奈川県・55歳・男性)
9位 『365日の紙飛行機』AKB48 68票
『あさが来た』波瑠・玉木宏
「AKBは嫌いでもこの歌はすごく好きでした」(大阪府・44歳・女性)
10位 『アイラブユー』back number 62票
『舞いあがれ!』福原遥・赤楚衛二
「高畑淳子さん演じるばっぱとヒロインの子役時代が素晴らしく、この歌の優しい感じと合っていた」(静岡県・64歳・女性)
※インターネット調査会社Freeasy調べ