食品にガソリン代、配送料金など、怒濤(どとう)の値上げラッシュが家計を圧迫し続けている。なかでも、これからの夏本番、大きな影響を及ぼすのは「光熱費」だろう。
5月には、再生可能エネルギーを普及させるための実質的な税金(再エネ賦課金)の単価が引き上げ。さらに、物価高の影響もあり、電気代やガス代は全国的に値上がりしている。
こうした状況を受け、政府は6月下旬に、「酷暑乗り切り緊急支援」として電気やガス料金への補助を今年の8月から3か月間、追加で実施すると表明。ただ、補助があるとはいえ、少しでも光熱費を下げようとエアコンの使用を控える人もいるのでは。
酷暑×光熱費値上げ、家計全体で見直して
気候も手加減してはくれず、5月に気象庁が発表した3か月予報によれば、6月~8月の平均気温は平年よりも高くなるそう。
「ただでさえ、エアコンの使用で電力使用量が増える夏。今年は対策なしに電気やガスを使えば、とんでもない額を叩き出すでしょう」
と話すのは、ファイナンシャルプランナー(以下、FP)の丸山晴美さん(以下、丸山さん)。
FPの伊藤江里子さん(以下、伊藤さん)は「『エアコンの設定温度を高めにすると電気代が下がる』と聞いて、実践している人も多いですが、別の工夫も一緒に行うことで温度を上げても快適に。我慢を伴う節約術はなかなか続かないので、ムリせずできる対策が必要」と話す。
お金を節約しながら快適に夏を過ごすために、「3人のFPが実践する光熱費削減テクニック」は見逃せない。
ただ、光熱費の節約ばかりを気にして家計のトータルでの出費を油断しがちな人も多いと話すのが、FPの安部智香さん(以下、安部さん)。
「エアコン代を節約したいと外出したものの、お茶代など、他の費用が高くついてしまうケースも。節約には家計全体のことを頭の隅に入れておくのが大事でしょう」
3人のFPのワザで、ムリなく家計を潤していこう。
家具の位置をズラして電気代を抑える
部屋に暖かい空気がこもっている状態でエアコンをつけると、余計な電力を消費して電気代が高くつくという。
「窓を閉め切っていた帰宅後は、3〜5分程度は窓を開けて換気し、部屋にこもった暖かい空気をまずは外に出しましょう」(伊藤さん、以下同)
窓とドア、換気扇などの空気の流れがスムーズでないと、換気に時間がかかってしまう。
「空気の流れを良くするには、窓の前にタンスや本棚など背の高い家具を置かないことです。エアコンの風も部屋に行き渡りやすくなり、温度を下げたり風量を上げずとも快適に過ごせて節約になります」
エアコン+扇風機で部屋全体のクールダウン
夏の消費電力で30%以上を占めているエアコン。1℃上げると10%以上も消費電力を減らせるといわれ、設定温度を上げる人も多いが、温度が高めだと冷房の効果が感じられないことも。そんなときは、扇風機の活用がマストだ。
「冷房の冷たい空気は部屋の下のほうにたまるので、足元だけが冷えてしまう人も多いでしょう。かつて主流だったAC(交流)モーター式のものと比べて消費電力が少ないDC(直流)モーターの扇風機を使って、冷たい空気を部屋全体に行き渡らせれば、エアコンの設定温度が30℃であっても十分涼しくなります」(丸山さん)
冷蔵庫の設定温度は変更しないで使用
冷蔵庫は外気温に合わせて夏は「強」、冬は「弱」に切り替えると節約になる……というのはひと昔前の情報。
「省エネ運転モードがない機種なら有効でも、最近の冷蔵庫に搭載されているエコモードなどの省エネ運転を活用したほうが効率的な節電につながります」(丸山さん)
ただ、20年近く前の冷蔵庫には省エネ運転機能がついているものは少ない。その場合は、新しい冷蔵庫にするほうが、はるかに電気代がかからないので買い替え時かも!
エアコンを入れるか迷うなら、いったん足を冷やすべし!
お風呂の残り水など、ふくらはぎが漬かるくらいの水をバケツに入れて足を冷やすことで、体温が下がり、実はエアコンをつけなくても平気なんてことも。熱中症にも効果的な対処法として知られているものだ。
「エアコンが普及する前に、昭和15年生まれの父が猛暑のときにやっていたそう。足は太い血管が通っていて皮膚も薄いので、冷やすことで体温調節ができるのです。実際に試してみると、かなりの効果を実感できます」(伊藤さん)
家の中の電気はすべて“LED”に
省エネ効果はゼロ、使っているだけで熱を発して室温を上げてしまう、と実はデメリットだらけの「白熱球」。LEDに変更すると約86%も消費電力が減るので効果は絶大だ。
「初期費用はかかりますが、白熱球を使い続けるほうが電気代は高くつくので買い替え一択。
一気にお金がかかるデメリットもありますが、一定の条件はあるものの各都道府県で行っている省エネ家電補助金制度があるので、うまく活用して購入しておくのがおすすめですよ」(安部さん)
電気とガスの契約は生活に合わせたプランをチョイス
2016年の電力自由化によって、通信会社をはじめとした新たな企業が電力事業にも参入。電力とガス・スマホやインターネットの通信契約をひとつにまとめてお得な「セット割」など、選べるプランもめじろ押しだ。
「関西電力で電気とガスをまとめると、年間7000円もお得になるとの試算も。いきなり新しいところにくら替えするのは大変なので、まずは現在契約している会社のお得なプランにかえるといいでしょう。
日中、家をあけるなら、夜の電気代が安いプランを選ぶなど、ライフスタイルに合わせた検討もしやすく、変更も比較的簡単。それでいてお値打ちになるのだから、やらない手はありません」(安部さん)
見落とし厳禁!保温機能は徹底的にOFF
炊飯器やお風呂、トイレの暖房便座まで、無意識のつけっぱなしで電気やガスを消費し続けるのが「保温機能」。
「ついやってしまいがちですが、例えば炊飯器の保温時間が4時間を超えるなら、電子レンジで温め直したほうが使う電力も少なく済みます。
つけたままのトイレの暖房便座を切れば夏はひんやりと気持ちいいレベルでしょうし、ひやっとするのが苦手な人は100均の便座シートを活用すれば、電気代がかかりません」(安部さん)
ちょっとのお湯は太陽の力で作る
食器洗いや掃除など、夏場でもお湯を使用したい場面はあるが、ガスに頼らずにぬるま湯を作る夏ならではの方法が。晴れた日の朝、バケツにくんだ水を直射日光に当てておくだけ。
「さすがにお風呂に使えるほどの温度や量は難しいかもしれませんが、食器洗いや洗濯、掃除など、適度なぬるま湯でいいなら、これでOK!実はお湯を沸かすには思った以上にガス代がかかります。地道に節約していくのもひとつの選択肢です」(伊藤さん)
家の中でも1人1本水筒を持ち歩くべし
外出時には当たり前になった水筒を家でも取り入れてみたら、これが思いのほか効果大。電気代削減だけでなく、いつでも冷たい飲み物がサッと飲めて、結露も出ないといいことずくめの光熱費削減術だ。
「飲みたいと思うたびに冷蔵庫を開けなくていい分、庫内の温度を上げずに済むので余計な電気代を削減できます。また、夏場はコップに結露も出やすいですが、水筒ならイヤな結露に悩まされることもなく、一石二鳥です」(丸山さん)
お風呂の水量は最低レベルでOK
自動湯張りの量を変えていないなら、夏は見直すチャンス。身体を芯から温める必要もなく、短く済ませがちな暑い時季は水を減らしても問題なし。
「水量を最低ラインに設定してもほとんどのご家庭では浴槽の半分はお湯が入りますし、温める水が少ない分、使うガスも最小限に。例えば40℃でお風呂を沸かすとき、湯量を20L減らすと1回10円以上のガス代節約になるといわれています。温度も量も、足りないと思ったときに都度調整すれば、ガスのムダを防げます」(丸山さん)
教えてくれたのは……
丸山晴美さん●節約アドバイザー・ファイナンシャルプランナー・消費生活アドバイザー。節約や貯金、運用方法など、お金にまつわる著書多数。監修を務めた『知識ゼロでもまるっとわかるお金の基本』(宝島社)も昨年10月に発売された。
伊藤江里子さん●「ハナマルキャリア総合研究所」講師・カウンセラー。金融商品を取り扱わないファイナンシャルプランナーとして、ライフプランに合ったお金の相談実績多数。女性を対象にした講座の講師としても人気を集める。
安部智香さん●「安部智香ファイナンシャルプランニングオフィス」代表・ファイナンシャルプランナー。お金にまつわる個別相談・執筆業に加え、セミナー講師としても活躍中。著書に『幸せなお金持ちになるマネーレッスン♪』(パブラボ)などがある。
取材・文/オフィス三銃士