2021年の東京五輪スケートボード競技で金メダルを獲得した(左から)堀米雄斗と西矢椛

 スケートボードのパリ五輪代表が決定した。直前まで代表の座を争った選手も含め、なぜかスケボー選手の名前は難しくて読めないものがいっぱいと話題だ。

《もれなくスケボーやってそうな名前》

 海龍(かいり)、心那(ここな)、凛音(りず)、夢海(ゆめか)、明夢(あいむ)、吟雲(ぎんう)、空良(そら)、雪聖(いぶき)、慧野巨(けやき)……字面だけ見ていると、なんだかいにしえの高僧たちの名前のようでもあるが─。

《選手の名前がルビないと読めない》
《スケボー選手、もれなくスケボーやってそうな名前なのすごいな》

 など、多くのネット民が“スケボー選手は難読ネームが多い”と認識しているようだ。

「中国では漢字は、基本的には一字に一音であるのに対して、わが国では、音読みでも呉音と漢音、唐宋音、慣用音などがあり、さらに訓読みもとなれば、漢字の意味によってどんな読みでも許される。そして、これが名前にも適用されるんです」

 こう教えてくれたのは、名前に関する著書を持つ作家の山口謡司先生だ。

「例えば“葵”を“メロン”と読ませて名前とするなどはその例です。もちろん、葵には果物のメロンの意味はまったくない。漢字をこのように好きに和訓することを、“暴走万葉仮名”、あるいは名前に限っていえば“キラキラネーム”というようです」(山口先生、以下同)

 よく例に挙げられる名前として光宙(ぴかちゅう)、姫星(きてぃ)などキャラの名前や、大熊猫(ぱんだ)、皇帝(しいざあ)、本気(まじ)、緑輝(さふぁいあ)など、そのキラキラ具合やバリエーションも多種多様!

キラキラネームの歴史

「2023年には、漢字本来の意味から外れた名前に一定の制限を設ける戸籍法改正の方針が示されましたが、実はキラキラネームの歴史は今に始まったことではありません。

 例えば織田信長は、11人の息子にそれぞれ、奇妙、茶筅、三七、次、坊、大洞、小洞、酌、人、良好、縁と名づけた。作家・森鴎外も留学先のドイツで本名“林太郎”が発音しづらいことを実感し、子どもたちに於菟(=Otto)、茉莉(=Marie)、杏奴(=Anne)、不律(=Fritz)、類(=Louis)といった西洋風の音を持つ名前をつけました。

 もちろん漢学や古典の素養もあった鴎外のこと、『徒然草』《人の名も、目慣れぬ文字を付かんとする、益なき事なり。何事も珍しき事を求め、異説を好むは、浅才の人の必ずある事なりとぞ(人の名前をつけるのに、あまり見られないものにするのは、有益なことではない。何事につけても珍しいものにしようとか、変わったものにするのは、教養がない人にありがちなことである)》という吉田兼好の言葉を知らなかったわけではないでしょう」

東京五輪ではスケートボード男子パークで出場しした平野。予選14位の結果だった(JMPA代表撮影)

 なんと『徒然草』が書かれた鎌倉時代からキラキラネームがあったとは!

「鴎外の子どもたちは、自分の子どもにも、樊須(はんす)などといった名前をつけた。“海外に行っても困らない”ことを彼らは実感したのだと思います。そういう意味で、スケボー選手たちの親御さんも、わが子に世界で活躍してほしいという祈りを込めて名づけをしたのかもしれませんね」