「オファーを受け、驚きと喜びの感情しかなかったです。“できるかな”と一瞬考えましたが、5秒で決断しました。断る手はないでしょう。あの『大岡越前』ですから」
人生3つ目の代表作に
6月23日にスタートした『大岡越前7』。江戸庶民の暮らしを守る名奉行は事件と人間の真実を見つめ、公正かつ人情味あふれる“大岡裁き”が実に鮮やか。
そんな大岡忠相を古くは加藤剛さん、北大路欣也らが演じてきた。NHKのBS時代劇では前シーズンまで主演した東山紀之から、バトンは高橋克典(59)へ。
「やっぱり長い間愛されてきている作品。僕が自由にできるものでもない。みなさんの中には型のようなイメージがあると思います。僕も子どものころに祖母と見ていました。
『大岡越前』という作品には、家族との温かな時間が共有できる感覚がとてもあるので。みなさんにそんな温かさを感じながら、楽しんでいただけるような作品になったらいいなと思っています」
完成作を見た感想を尋ねてみると、
「評価はみなさまに委ねますが、どんどん良くなると思います。最初は本当に試行錯誤で。とにかく思いついたらやってみる。そんな挑戦の連続でした。スタッフやキャストのみなさん、僕もそのひとりですけど全員で今回の越前を作り上げた実感がありまして。それを思い出して、胸が熱くなりました」
今シーズンは全8回。大岡忠相役をつかんだ感覚はあるのだろうか?
「最初のころは余裕がなくて。でも4回くらいから、少しずつなじんできたかな。役と自分の魂が少しずつ融合していくというか、身体に浸透していく感じはありました」
すでにクランクアップしているという。できることはやりきったと振り返りつつも、
「課題は自分の中に山積していて。もっともっと奥深く、彩り豊かに、楽しい作品にしていける要素はまだまだあると思っています」
高橋といえば、『サラリーマン金太郎』シリーズ('99年〜'04年)、『特命係長 只野仁』シリーズ('03年〜'12年)がやはり代表作。
「そう言ってもらえてうれしいですね。放送が始まった今でも『大岡越前』の主演は、まだ信じられないような感じがしていて、ずっとチャレンジャーのような気持ち。『大岡越前』が一生のうちの3つ目の大きな作品、大きい役になればいいなとは思いますし、もし続けられるものならば頑張りたい。
完成度や自分のやることに期待はしますが、今まで(次回作に)いろいろ期待して悲しい思いをしたこともありますし。だから先のことは考えずに、とにかく今を精いっぱいやっていけたらいいなと思っています」
そもそもは演技なんて考えたこともなかった
叔父は梅宮辰夫さん。子どものころには撮影現場を見学させてもらう機会も。事務所に所属する前から『さすらい刑事旅情編』('90年)などに出演している。
「それはちゃんと俳優デビューする前で、たまたまちょっと出してもらった感じで。そもそもは演技なんて考えたこともなかったし、俳優になりたかったわけでもなかった。歌をやりたかったんですよね。俳優デビューをして、意識にスイッチを入れてからはまだまだ30年くらいなんです」
“まだまだ30年”。その言葉からは謙虚さと前向きさが感じられる。夢でも希望でもなかった俳優業。選んでよかったと思うかと、改めて聞いてみると、
「思っています。僕は最初から俳優ではないし、ものすごく抜きんでてやってきたわけでもない。そんな中であの『大岡越前』をやらせてもらえることは本当にすごいことだと思っています。俳優としての今後ですか?
よく聞かれるんですが、答えに困る。ビジョンは全然ないんです。とにかくその都度、一生懸命やるしかなかった。それが今でも続いているというか(笑)」
その誠実なスタンスは、きっとずっと変わらないー。
新作時代劇を作る意味
「新作時代劇がなかなか作られない時代ですが、時代劇って今の時代にすごく合わない部分もあって。SNSの発達により今はみんなが数字を見ていて、はっきりとした答えを求めたがる傾向があるというか。
曖昧なもの、目に見えないもの、うまく言葉や形にできないものは認められにくくなっている気がします。でも、人間はいろんな面を持っているし、言葉にできないものは素敵だと思う。大岡裁きは、まさに温情。
そんな優しい大らかな空気感が伝わったらうれしいし、ニュースや他のドラマにはない温かさを感じていただけたらいいなと思っています」
BS時代劇『大岡越前7』
毎週日曜夜6時45分〜(BSP4K/BS)