東京都知事選が大きな話題だ。それも悪い意味で。政治団体による選挙ポスター枠の“転売”、卑猥な写真の掲載などなど……。
「これまでで最悪な都知事選などといわれていますが、以前にはさらに最悪だったものがありました」
そう話すのは“選挙マニア”で著書に『ヤバい選挙』がある宮澤暁氏。
“死者が立候補”
「1963年の都知事選では“死者が立候補”。選挙管理委員会が立候補資格の審査をすると、2か月も前に戸籍上で亡くなっていた。ところが候補者自身は“本人”だと言い、“戸籍がおかしい”“謀略だ”と主張。投票はすべて無効となり、得票数ゼロと記録されました」(宮澤氏、以下同)
死んだはずの立候補者は『橋本勝』なる人物。この都知事選は自民党などが支援する現職と、死んだ立候補者に名前の似た対立候補『阪本勝』氏の激しい争いだった。
「その中で阪本氏に対する選挙妨害が相次いだ。現職側による買収やポスターに貼る証紙の偽造などが発覚し、選挙後に自民党の選挙対策本部の事務主任が逮捕されています」
そのため、『橋本勝』の立候補も阪本勝氏への妨害だといわれた。
「橋本勝を名乗る人物は選挙以前にもこの名義を使っており、妨害を目的とした立候補だとしても、この都知事選のために戸籍を流用した可能性は低いことがわかっています。ただ、何者だったのかは最後までわかっていません」
今回の都知事選は、史上最多の56人が立候補。実は、人数が異様な多さだった選挙はこれまでも─。
「1960年の栃木県桑絹村村長選は、人口約1万7000人に対し、200人を超える大量の立候補者が出ました」
今回の都知事選では、立候補者の多さからこの村長選がよく引き合いに出される。
「立候補者多数という点は似ていますが、事情はまったく異なります。この村長選は村の合併問題が根底にあり、派閥の対立があった。一方の派閥が正攻法では勝ち目がなく、世間へのアピールで、大量立候補がマスコミに報じられることで、注目を集めようと考えたためでした」
「誰にも入れたくない」
今回の都知事選では、ポスター枠が事実上、販売されているが……。
「“偽造投票用紙”を販売するグループが現れたのが、1995年の岡山県勝北町町議会選。この選挙では投票総数が投票者数を上回る異常な事態に。開票すると、印刷が薄く、紙質も異なる不審な投票用紙が122枚も見つかった。結果、候補者17人中10人が起訴され、このうち当選者は9人。さまざまな陣営が、別の第三者の手を使って不正を行ったという点が非常に珍しい」
今回の都知事選を、マニアはどう見るか。
「ポスター枠の“販売”など、聞いたことがありません。日本の選挙の歴史に残る選挙になるかと。4月の衆院東京15区補欠選挙では選挙妨害が問題になったこともあり、今回をきっかけに公職選挙法の改正も考えられます」
「現職にも有力候補にも泡沫候補にも誰にも入れたくない」といった声も多数上がっている今回。はたして結果は。そしてそれより大事な結果の先にある未来は─。