かつて「イギリスで最も嫌われる女性」と呼ばれたカミラ王妃が、ここに来てにわかに存在感を増し、イギリス国内で大きな支持を集めている。
チャールズ国王とキャサリン皇太子妃という王室の主要メンバー二人が相次いで病に倒れ、公務から離脱するなか、76歳という年齢をものともせず、ウィリアム皇太子と共に奮闘する姿がカミラ王妃を「国を守る勇敢な女王」と礼賛されるまでに押し上げた。しかし、これは一朝一夕で得られた評価ではない。
“自ら開いた地獄の釜から続く道”を沈黙して歩き続けたカミラ王妃の逆転勝利だ。
ダイアナ妃との愛憎劇「醜く獰猛な犬」と呼ばれた過去
カミラ王妃といえば、誰もが思い浮かべるのはチャールズ皇太子(当時)を巡るダイアナ妃との三角関係だろう。泥沼の不倫劇の末、ダイアナ妃亡き後にチャールズ皇太子と公の場に登場するようになったカミラ夫人(当時)にイギリス国内はもとより、世界中が激しい嫌悪を示した。
生前のダイアナ妃が語った通り、世間はカミラ夫人を獰猛な犬「ロットワイラー」「一度食いついたら離さない攻撃的な女」と呼んだ。
1989年2月に行われたカミラ夫人の妹アナベル・エリオットの40歳の誕生日パーティーに乗り込んだダイアナ妃は、夫人にチャールズ皇太子との関係を終わらせるよう迫った。当時の心境をダイアナ妃は後に「結婚生活で最も勇気を振り絞った瞬間」と振り返っている。
これに対し、カミラ夫人が「世界中の男から愛されているあなたがこれ以上何を望むの?」と一蹴したエピソードはあまりにも有名だ。容姿もダイアナ妃と比べて決して美しいとは言えず、世間の評価も「皇太子をたぶらかす年増の醜い魔性の女」というイメージが強かった。1997年にダイアナ妃がパリで交通事故死したことにより、世間の憎悪は頂点に達し、カミラ夫人は「イギリスで最も嫌われる女性」となった。
苦難を乗り越え、見え始めた覚悟の真実
2005年にチャールズ皇太子と再婚した後も、カミラ夫人に対する批判は消えることはなかった。しかし、一切の反論をせず、寡黙にチャールズ皇太子を、そして英国を支え続けた。
2020年3月27日、コロナ禍において、自宅から出ることが出来ない女性たちを家庭内暴力から守るべきというメッセージをカミラ夫人は自身の公式インスタグラムアカウント「Clarence house」から発信した。ロックダウン下で見過ごされていた社会的弱者である女性たちの危機にいち早く気づき、警鐘を鳴らしたことで、それまでカミラ夫人に懐疑心、嫌悪感を抱いていた女性層からの支持を大きく得た。
国内外のさまざまな慈善活動にも力を入れており、特に、動物保護や教育分野への尽力は顕著だ。メーガン妃やヘンリー王子のように営利目的のお涙頂戴のアピールを行うことはしないため、決して目立つものではないが、確実に成果を上げている。
こうしたカミラ夫人の姿勢が生前のエリザベス女王の心を動かした。
2005年にチャールズ皇太子とカミラ夫人が再婚した当時は、将来「チャールズ国王」が誕生してもカミラ夫人に「王妃」の称号は与えられないことが条件として突き付けられたと言われている。
エリザベス女王は、2022年2月6日に発表した即位70周年を記念するプラチナジュビリーのメッセージの中で以下のように国民に語り掛けた。
「時が満ちて、私の息子チャールズが国王になったとき、あなた方は私と同じ支援を彼と妻のカミラに与えてくれると確信しています。そのときが来たとき、カミラが忠実に奉仕を続けながら『王妃』と認められることを私は心から願っています」
と、自分の死後、チャールズ皇太子が国王となった際にカミラ夫人が王妃となることを望むと国民に伝えたのだ。
このとき未来の「カミラ王妃」誕生に対し、イギリス国民の55%が賛成の意を示し、反対意見はわずか28%であった。こうして、2022年9月8日にエリザベス女王が死去、チャールズ国王が即位、カミラ夫人は正式にカミラ王妃となった。
2024年2月5日、チャールズ国王が癌と発表されて以降、6月27日現在までに、カミラ王妃が行った公務は明らかにされているだけでも60回を超え、うち単独公務は36回に上る(一部統計による)。こうしたカミラ王妃の奮闘に「イギリス王妃としての覚悟が見える」と評価は高まり続けている。
76歳という年齢を考慮して休養を求める声も上がったが、カミラ王妃は短期間の海外ホリデーを取った後は、現在も休むことなく公務に邁進している。母・ダイアナ妃を今でも深く愛するウィリアム皇太子も今では義理の母を「王妃」と認め、共に公務に励んでいる。
王室評論家の間では、チャールズ国王がダイアナ妃ではなくカミラ夫人を選んだ最大の理由について、カミラ夫人の「決して夫より目立とうとせず、王族としての職務を忠実に行っていく安定性と実用性にあった」とする声もある。
「国を守る勇敢な女王」となったカミラ王妃の未来
6月22日から天皇皇后両陛下を国賓としてイギリスに迎えたほどの回復を見せているチャールズ国王ではあるが、今後もがん治療は続き、さらにはキャサリン皇太子妃の公務復帰もまだ先が見えない。イギリス王室の未曽有の危機は当面続くだろう。
ダイアナ妃を愛する国民からの厳しい非難の目もおそらく生涯消えることはない。しかし、もうすでにカミラ王妃の逆転劇の続きは単なる大衆の興味関心事に留まらないところまで来ている。
「イギリスで最も嫌われた女性」から「国を守る勇敢な女王」になったカミラ王妃の一挙手一投足が、今後のイギリス王室の存続すら左右する事態になっている。それほどの責務が7月17日に77歳を迎える逆転の女王の双肩に重くのしかかっていることは間違いない。