「ご当地スーパーがここまでブームとなった背景には、コロナ禍の大きな影響があると感じています」
と話すのは、これまで全国各地のご当地スーパーを取材してきた、スーパーマーケット研究家の菅原佳己さん。外出もままならず、外食需要が大幅に低下したコロナ禍、人々の食を一手に担ったのがスーパーだった。
注目のきっかけはコロナ禍
「コロナ禍で、スーパーのお惣菜が軒並み注目されるようになったんです。これまで多くの利用者にとって、スーパーを選ぶ第一の基準は、生鮮食品の安さでした。それがコロナ禍以降では、お惣菜の豊富さやおいしさが重要な選択肢のひとつとなってきたのです」(菅原さん、以下同)
地域密着型の小規模なご当地スーパーが、品ぞろえの数や種類で大規模チェーン店と勝負するのは難しい。しかしお惣菜なら、工夫次第でいくらでも個性を出せる。
「小規模店では、新人さんやパートさんのアイデアも通りやすかったり、商品化がスピーディーに進んだり、突拍子もない商品案が実現できたりと、メリットがたくさんあります」
ご当地ならではの食材を生かした、その店にしかないお惣菜やお弁当がまず地元客に評価され、人気を聞きつけたメディアによって全国に紹介される。今ではこの流れが一般化し、小さなスーパーが旅行客の観光スポットにまで成長している例も少なくない。
「ふるさと納税が広まり、これまで知られていなかった郷土食や地元のお菓子に注目が集まっていることも、ご当地スーパーの人気を後押ししているといえるでしょう」
今やスーパーの惣菜開発部門は、商機を狙って独自色を競い合っている。ご当地スーパーブームはまだまだ続きそうだ。
“魅惑”の全国ご当地スーパー
【北海道】フクハラ 星が浦店
「食の宝庫・北海道だけあって、スーパーにもグルメがめじろ押し!道東を中心に展開している同店のおすすめは、帯広の洋菓子店『十勝トテッポ工房』とコラボしたオリジナル商品の『福ジェラート』。あずき、山わさび、カマンベール、ピュアミルクと地元の素材を使用した全4種で、いずれも道産生乳の風味が豊かです。
また、驚くほど大きな鮭とばが常時、店頭に並んでいるのも北海道ならでは。山わさびをしょうゆに漬け込んだ『山椒漬け』は、ご飯はもちろんジンギスカンの薬味としてもぴったりです。おみやげにも」(菅原さん、以下同)
【宮城県】フーズガーデンゆりあげ食彩館
「ご当地スーパーと産直市場が一体となった、広々とした大型店舗。海が近いことから、鮮魚コーナーの充実ぶりが評判です。店内のフードコート『閖上(ゆりあげ)マリンキッチン』でぜひ食べていただきたいのが『食彩五色丼』。生マグロ、生サーモン、いくら、いか、大きな有頭エビがのって豪華!
夏から秋にかけてのみ登場する、鮭といくらをたっぷり使った名物『はらこ飯』もおすすめです。おみやげには『宮城ゆりあげ麦酒醸造所』の地ビールを。青森のりんご果汁を使用した珍しい『りんごエール』など、種類も豊富です」
【福島県】マルト SC平尼子店
「常設のおにぎり専用ブースが大人気。なかでも『店内手作りおにぎり 又兵衛しまほっけ』は『お弁当・お惣菜大賞2022』で最優秀賞を受賞しました。具に使われているほっけの酒干しは、マルト鮮魚部オリジナルの人気商品。地元の地酒で仕上げており、身はしっとりほくほくです。
また、地元の高校生と共同開発した商品が豊富なのも同店の特徴。いわき米とくるみを使った焼き菓子『ナッチュー』や、いわき産コシヒカリ『いわきライキ』といわき味噌を使用した味噌ラーメン『大蒜女々麺(おおびるめめめん)』など、おみやげにもなる地元の人気食もいっぱいです」
【群馬県】とりせん 城西の杜店
「甘辛く濃い味が好まれるこの地域ならではの、茶色いグルメがてんこもり!マストは上州名物、焼きまんじゅう。小麦粉を発酵させた生地で作ったふわふわのまんじゅうに、甘辛い味噌を塗ったシンプルな逸品。開発者の方々が研究を重ねて何度も試作を繰り返しただけあり、専門店にも並ぶおいしさと評判です。
また個人的にも大好きなのがイモフライ。実はお隣の栃木県佐野市の名物ですが、佐野市に近い“城西の杜店”では取り扱いアリなのがうれしい。たっぷりしみた甘いソースがたまりません」
【富山県】アルビス 羽根店
「昆布の消費量が全国でもトップクラスの富山県。店内でも昆布関連商品を多く取り扱っています。同店ではなんと、細かく刻んだ昆布でおはぎを包んだ『昆布おはぎ』を開発。お彼岸のおはぎの売り上げが前年比160%になるほどの大ヒット商品に!
甘いおはぎとしょっぱい昆布の不思議なハーモニーをぜひ楽しんでみてください。また、可愛らしいパッケージのコーヒー牛乳『カウヒー』も定番。地元のとやまアルペン乳業が、脱脂粉乳ではなく生乳を使用して製造。濃厚で懐かしい味わいです」
【福井県】ヤスサキワイプラザグルメ館 新保店
「越前がにが旬を迎える冬に、ぜひ訪れてほしいお店です。11月を過ぎると、越前がにのにぎり寿司やちらし寿司など豪華なオリジナル弁当がずらり。卵を抱いた雌の『せいこがに』が特に人気です。
また、福井では冬に『水羊かん』を食べる珍しい習慣が根づいており、秋の初めから冬の終わりごろまで水羊かんの特設コーナーができるほど。特に『えがわの水羊かん』は定番。昭和12年創業の老舗店で、黒糖のやさしい味わいを長年守り続けています」
【愛知県】ヤマナカ 則武店
「大正時代創業の、愛知を代表するご当地スーパー。地元民からしてみれば安定の地元食ぞろいのお店かもしれませんが、旅行者はその個性に驚かされること間違いなし。特に、名古屋名物の『えびせん』コーナーの充実ぶりは圧巻!
いろんなメーカーのものを食べ比べてみるのも楽しいですよ。そのほか、常温保存可能な味噌煮込みうどんや、八丁味噌を使ったさまざまな調味料、あんかけパスタのレトルトソース、スガキヤラーメンシリーズなど、定番の名古屋みやげがお得なスーパー価格でそろいます」
【岐阜県】ファミリーストアさとう 国分寺店
「山あいの高山市内に7店舗を展開しています。海が遠いため鮮魚が手に入りにくかった時代の名残から、地域ならではの魚介の保存食が人気です。おすすめしたいのは『煮いか』。火を通したいかですが、昔は“刺身”といえばコレでした。生姜じょうゆでいただくのが定番で、おかずにおつまみにと万能です。
また、しょうゆ味がついたお揚げ『あげづけ』も、昔からのご当地食。マツコ・デラックスさんがテレビ番組で絶賛したことから大ブレイクしました。フライパンでちょっとあぶるとより香ばしく、おいしくいただけます」
【大阪府】スーパー玉出 恵美須店
「近年、運営会社が代わり、オリジナルのユニークな商品がますます増えてきました。特徴は、大阪府内の店舗それぞれが独自にお惣菜メニュー開発をしている点。店舗ごとに少しずつ商品が異なるので、お客を飽きさせません。
名物は、なんと白ご飯の上にたれがかかっただけの『たれごはん』シリーズ。私が訪れたときは驚異の各149円でした。はんぺんと焼き海苔でうなぎを再現した数量限定の『うなぎもどき重』も売り切れ必至。おみやげには大阪ならではの『イトメンのチャンポンめん』やハウス食品の『好きやねん』をどうぞ」
【和歌山県】ハイマート Bハイマート
「アパレル出身の社長が2020年から展開している新しいスーパー。おしゃれな店内が印象的です。県の名物である、高菜の葉でご飯を包んだ『めはり寿司』を、地元のさんまを使ってアレンジしたオリジナル商品『めはりさんま寿司』は絶品。
『熊野産あまごのオイル煮(コンフィ)きゅうりのサルサ弁当』とともに『お弁当・お惣菜大賞2023』の優秀賞を獲得しました。地元野菜をふんだんに使った『熊野ピッツァ』など、独自に開発したお惣菜、デリカテッセンが人気です」
【鳥取県】エスマート 湖山店
「鳥取を代表するご当地食品といえば、江戸時代発祥とされる『とうふちくわ』。当時は魚が高級品だったため、ちくわを作る際に白身魚と豆腐を約3:7の割合で混ぜたことが始まりだとか。“蒸し”と“焼き”の2種類あり、今ではさまざまなメーカーから発売されています。
ふわふわの食感が特徴で、しそ味、ねぎ味、チーズ味、カレー味など種類も豊富。ぜひ店内の専用売り場をのぞいてみてください。最近は全国で人気の『白バラ牛乳』も鳥取がご当地。時期によっては、地元ならではのレアなコラボ商品に出あえるかも」
【高知県】サニーマート中万々店
「一度味わっていただきたいのが、高知の伝統的な調味料『ぬた』。葉にんにくに味噌、酢、砂糖などを混ぜたもので、にんにくのパンチがありながらもどこか爽やか。調味料売り場にて、常温保存できる便利なパック商品を販売しています。
店内の鮮魚コーナーに並ぶカツオのたたきや、ぶりの刺身にもよく合いますよ。おみやげには昭和レトロなパッケージが可愛い、甘い味つけのポップコーン『ジャイアントコーン』や『シュガーコーン』を。地元で愛され続けているお菓子です」
【福岡県】ダイキョー 弥永店
「現在の“ご当地スーパー”ブームを牽引するお店。見たことのないスイーツやお惣菜など、個性的な商品を開発し続けています。同店を一躍有名にしたのが、イタリアのスイーツ『マリトッツォ』とおはぎを合体させた『はぎトッツォ』。生クリームとあんこがマッチした新感覚スイーツとして、テレビでも大きく紹介されました。
チェーン店としては4店舗のみの展開にもかかわらず、オリジナルのPB商品の開発にも積極的。えのきをペペロンチーノ風に味つけした『ぺぺなめ』は想像以上に、にんにくたっぷり。ご飯にもパスタにも合う逸品です」
【鹿児島県】A-Z あくね
「“AからZまでなんでもそろう”がモットーのとおり、食品から自動車まで約40万点の商品を取りそろえる超大型スーパー!郊外を中心に全3店舗を展開、いずれも24時間営業です。しょうゆだけでも280種類以上と品ぞろえはとにかくバツグン。
食の安全にもこだわりがあり、県産の素材を使った商品を数多く取り扱っています。鹿児島らしく焼酎のラインナップもずらり。オリジナル商品の芋焼酎『牧尾』には、地元で採れた芋『黄金千貫』を使用しています」
【沖縄県】ジミー 那覇店
「米軍の統治下にあった沖縄で、パンや焼き菓子を販売する店として1956年にオープン。肉や魚などの生鮮食品を取り扱っていないため厳密にはスーパーとはいえませんが、お惣菜や加工食品など独自のオリジナル商品と、沖縄ならではのアメリカンな雰囲気が味わえる店として根強い人気を誇っています。
特に那覇店はビュッフェレストランも併設しており、ジミーオリジナルケーキはもちろん、肉料理やパスタ料理、沖縄料理まで食べ放題。定番おみやげの『アップルパイ』も購入できます」
教えてくれたのは……菅原佳己●スーパーマーケット研究家。『マツコの知らない世界』(TBS系)への出演をきっかけに、ご当地スーパーの火つけ役としてメディアへの出演・掲載も多い。新刊『すごいローカルチェーン100』(イカロス出版)が話題
取材・文/植木淳子