掛川花鳥園の感情豊かなハシビロコウのふたば

 大きすぎるくちばしと離れた目がユーモラスな、アフリカ原産の大型鳥、ハシビロコウ。「動かない鳥」として知られる。

CMを機に注目され、写真集も! 日本一有名なハシビロコウに

 2023年7月から放送された日清紡のCM『歌おう!ニッシンボー「ハシビロコウ」篇』のハシビロコウ自体はCG撮影だが、これをきっかけに注目を集めたのが、静岡県の掛川花鳥園にいる雌の「ふたば」。ふたばは動かないイメージを覆すおてんばぶりでたちまち人気に。昨年までに単独写真集が3冊も出版され、ふたばに会いに行くためのバスツアーが企画されるほど。女優の清原果耶も「大ファン」と公言するなど、日本一有名なハシビロコウだ。

「担当スタッフがそばに行こうとすると、遠くからでも見つけて、うれしそうにソワソワしてくれるのがとても可愛いです」と、飼育員の副島慎介さん。

 そもそも、ハシビロコウが“動かない”のは、魚などのエサを確実にしとめるため。園育ちのふたばは狩りをする必要はないが、それでもハシビロコウならではの習性から何時間も微動だにしないこともある。とはいえ一般的な個体に比べると、ふたばはとても感情豊かだ。

「当園では比較的、人間との距離が近いため、ふたばのこのような個性を引き出せたのではないかと考えています」(副島さん、以下同)

 これまで担当の飼育員は何人か代わったが、ふたばのお気に入りは一貫して“高身長”の男性。愛情表現であるおじぎや、くちばしを噛み合わせて音を出す“クラッタリング”などでうれしさを表現する

 ふたばファンの間では「好きな飼育員さんだとおじぎの角度が深い」「クラッタリングの音も明らかに大きい」と話題だ。逆に、嫌いなスタッフには飛びかかったり、にらみつけたり、噛みつこうとしたりと圧をかける様子がまた面白く、思わず笑ってしまう。

「特に、掃除で大きな音を出すスタッフや、ただ近くを通るだけのスタッフを嫌う傾向にあるようです」

 そんなふたばの好物はニジマス。毎日朝と夜に1匹ずつ食べている。大きな体に見えるが体重はわずか5キロしかないため、これがベストの食事量。ただし好物は時期によって変わり、鯉がマイブームだったことも。

「毎日の食欲や体重測定、羽のつやなどで健康状態を判断しています。体が大きいので翼や脚をぶつけてケガをしないよう、温室内に危険箇所がないかどうかも常に気を配っています」

 ふたば人気は今も続いており、イベントが行われる日はエリアが100人ほどの来園者で埋まるという。

「遠方からふたばに会いに来てくださる方も大勢いらっしゃいます。ただ、当のふたばはまったく気にしていない様子です(笑)」

 園ではふたばの公開8周年を記念して、9月1日までさまざまなイベントを実施中。ふたばのおちゃめなツンデレぶりを、ぜひ直接確認してみてほしい。

取材・文/植木淳子