前頭蓋骨まぶた欠損の障害がある息子の日々をYouTube「星のミライchannel」で配信している、星野さんご夫妻。妊娠22週で頭部異常が判明、それ以来ブログなどでも発信している。多くのサポートの手を借りながら、未来くん=「おもち」くんを見守る2人は「偏見のない、優しい世界になれば」と心情を語ってくれた。
子どもの顔をアップするのは親のエゴ?
「2人とも少し睡眠不足だけど、それは小さい子どもがいる家庭ならどこでもそうでしょうし、自分たちだけが大変ではないと思います」
そう話してくれたのは、星野孝輔さん(27)、しほさん(33)ご夫妻。しほさんは妊娠22週を迎えたあとに、お腹の中の赤ちゃんの頭部異常を指摘された。
不安の中で出産した長男、未来くんには、おでこの骨や頬骨が欠損。まぶたもない状態で、目を閉じることができなかった。その他、小顎症のため口鼻呼吸ができず、気管を切開して呼吸をするなど、さまざまな障害があり、1歳5か月を迎えた現在も24時間、365日、医療的ケアが欠かせない状態だ。
ご夫婦はそんな未来くんのことを少しでも多くの人に知ってもらおうと2023年10月からYouTubeチャンネル「星のミライChannel」を開設、希少な疾患の情報や日々の様子を発信している。
配信を始めてから外出先で温かい言葉をかけてもらうことも増えたという一方、ネットでは《サムネイルが上がっていると思わずぎょっとしてしまう、親は何も感じないの?》《物心つく前に子どもの顔をアップするのは親のエゴじゃないか?》といった批判的な意見もあった。
「そういう声が上がることは、ある程度想定していました。でも、未来くんや僕たちには、動画を通じて見守ってくれる仲間が増えることのほうが大事でしたし、発信しようとした決断は間違っていなかったと思います」(孝輔さん)
一方、妻のしほさんは胎児の異常が判明したときから現在までブログを続けている。
「両親や友人など近しい人への近況報告のつもりでした。私たち元気ですよって伝えられるし、ブログを読んだ相手が声をかけやすくなるかと思って。近しい人との壁を取り払ってくれる役割をしてくれていたんです」
ブログでは未来くんの顔を出してはいなかった。しほさんはYouTubeで未来くんの動画を公開することに関しては葛藤もあったという。
「YouTubeは誰が見るかわからないし、反響が大きくなることも予想していたので、公開に関して悩む部分はもちろんありました。でも、パパと話すうちに動画を通じて未来くんのことを理解してくれる方や、困ったときに手を差し伸べてくれる人が増える可能性は未来くんにとってすごく大事だと感じて。今は私が映像のテロップを担当しています」(しほさん)
発信したい意図が間違って伝わらないよう、慎重に言葉を選んだり、内容についてもかなり吟味しているという。
「心ない言葉を投げかけられた瞬間に、すべてが一転してしまう可能性はあります。みんなが他の人の幸せを脅かさない、そんな優しい世界になってくれたらいいのですが」
福祉的にもすごく恵まれた環境で育児できているほう
動画では未来くんの症状や病院での様子、日々の出来事、常に必要な医療的ケアも伝えている。例えば、一日数回の点眼と、夜眠るときには眼球に軟膏を塗ってラップで覆うケア、夜間は人工呼吸器で酸素を注入。
口からの食事が難しいので、4時間ごとのミルクや離乳食を胃ろう注入する。痰が喉につまらないように、こまめな吸引作業をするなどさまざまな細かいケアが必要。訪問看護による医療ケアやリハビリ、それ以外にも通院や検査の日も多く、2人は朝6時に起きて明け方は4時過ぎにベッドに入る日々を送っている。
「私たちは2人とも育休が取得できたり、信頼できる支援コーディネーターさんに出会えたりと、福祉的にもすごく恵まれた環境で育児できているほうだと思います」(しほさん)
しかし、2人の育休期間が年内で終了することもあり、今の生活が維持できるかには不安があるという。
「2人だから何とかなっている部分が大きいので、スケジュール的な不安は大きいですね。金銭的な面でも不安に思うこともあります。今のところは高額療養費制度のおかげで、治療や手術を保険適用で受けることができています。これは自治体にもよるのですが、中学生までは公的医療保険もあるので、病院での治療に自己負担は発生しません。
ヘルメットや補聴器などの装具類、呼吸器や吸引器、非常時のバッテリーなどは、自治体から何割か補助が出ます。なので今のところ驚くような金額の出費にはなっていません。ただ今後、例えば目を保護するゴーグルを特別に作るとか、海外で手術を受けるといった場合は保険適用外になってしまうと思うので、将来的な不安はありますね」(しほさん)
未来くんと同じ症例の子どもがいないため、未知数な部分は多い。しかし、そんな不安よりも、一緒に過ごしていて感じる日々の幸せが上回る。
「未来くんが来てくれて、僕はすごく幸せだなと思う瞬間がいっぱいあります。先日、家族で初めてディズニーランドに行ってきたのですが、『イッツ・ア・スモールワールド』に乗ったときも、未来くんがアトラクションを見つめている姿を見るだけで、本当に涙が出てくるぐらいうれしくて。今までまったく感じたことのない感情がこみ上げてきて……」(孝輔さん)
日常の小さな出来事にも感動できるのは未来くんが来てくれたおかげと話す。
「一緒にいるパパが愛情表現を惜しまず、すごくストレートに毎日のように『ありがとう』と言ってくれて。つらいときでも、そのたびに同じ気持ちでいてくれていることが確認できて、夫婦の絆を感じます。パパと未来くんと一緒だったら、それだけで幸せじゃないかと」(しほさん)
地域格差なく普遍的な福祉サービスを受けられるようになってほしい
結婚前から仲が良く、夫婦になってからも「会話は多いと思う」という2人。なんでも話し合ってきたからこそ、未来くんとの毎日も楽しく過ごせているのだろう。
発信するようになってから、多くの医療的ケア児のパパママとつながれるようになり、しほさんは障害のある子どもがいる家庭すべての幸せを考えるようになった。
「相談できるような人もおらず、孤立して一人で困っているパパさんやママさんが世の中には多いということも感じています。障害があるお子さんを育てるすべての家庭が、地域格差なく普遍的な福祉サービスを受けられるようになってほしいですね」
しほさんの言葉に大きくうなずく孝輔さん。
「綺麗事って言われるかもしれないですが、実現してそういう世の中になってくれたら、未来くんもより生きやすくなると思うから」
取材・文/諸橋久美子