商品にならない犬、あるいは商品を産めない犬をゴミのように扱い、捨て、殺す。そんな悪徳ブリーダーの問題を取り上げます

 先日、埼玉県毛呂山町の81歳の元ブリーダーの男が、動物愛護法違反の疑いで逮捕されました。

エサ代がかかるから始末する

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 報道によると、男は「繁殖犬はもらい手もいないし、エサ代もかかるので始末するのがブリーダーの責任。だから殺した」と話したそうです。自身の経営する犬の飼育場で、ポメラニアンやトイプードルなど小型犬3匹を、ケージごとビニール袋に入れたうえで袋を密封し、長時間放置して、高体温症を伴う窒息により殺した疑いがもたれています。

 この事件を知って「こんなひどいことをする人がいるのか!?」と驚いた人も多いと思いますが、筆者は氷山の一角だと考えています。

 発覚していないだけで、商品にならない犬、あるいは商品を産めない犬をゴミのように扱い、捨て、殺すという話をたびたび耳にします。同業者をかばうブリーダーも多く、なかなか実態がつかめないことに憤りを感じています。

悪徳ブリーダーの非道な行い

 前述した男のように利益目的の悪徳ブリーダーは、数多く存在しています。いくつかのケースを紹介します。

ケース1:商品にならない子犬は産まれてすぐに殺す

 知人のブリーダーは、指がない、脚が曲がっている、片目がない、口蓋裂(こうがいれつ)などの子犬が産まれると、首をひねって殺している。
「商品にならない子犬は一銭にもならず、エサ代や手間がかかるだけ。生み出したブリーダーの責任として殺している」と主張している。犬舎が近く、通報したら自分が真っ先に疑われるので、仕返しが怖くてできない(神奈川県で第1種動物取扱業を営むKさん)

ケース2:病気になった繁殖猫3匹を死ぬまで放置

 近所のブリーダーは、がん、急性腎不全、子宮蓄膿(ちくのう)症などの疾患にかかった繁殖猫3匹を、お金がかかるからと治療をしないままケージに閉じ込め、食事も水も与えず、放置した。
見舞いにいくと、死んだ猫を見せられた。その姿はまるでミイラのようで、病気で死んだのか、餓死したのかわからない状態だった(福岡県で第1種動物取扱業を営むMさん)

ケース3:所有する山の中に繁殖引退犬を係留し餓死させる

 近所のブリーダーが所有する山の前を通りかかると、普段と様子が違う犬の鳴き声が聞こえるので見にいくと、複数の小型犬がそれぞれ違う木に係留されていた。
既に死んでいる犬もいたためブリーダーに知らせると、「もう役に立たない犬たちなので餓死させている」と言った。見かねて生きている子たちを保護し、体調を整えてから新たな飼い主を探した(山梨県で第1種動物取扱業を営むSさん)

ケース4:スプレー行動がひどい繁殖猫に暴行

 知人ブリーダーを訪ねたところ、大きな怒鳴り声が聞こえるので猫舎を見にいくと、繁殖引退猫を暴行している最中だった。
叩いたり、蹴り上げたりしていたので、見かねて止めに入って理由を聞くと、「この金にならない雄猫がケージから脱走して俺の部屋に入り込み、部屋のあちこちにスプレーしたから頭にきてやった」と言った。
暴行された雄猫はぐったりしていたので、動物病院へ行くように勧めて帰宅した。翌日、その雄猫が死んだことを聞かされた。「役立たずなので、死んでよかった」と言っていた。(大阪府で第1種動物取扱業を営むNさん)

 筆者自身、犬や猫と暮らしているので、このような話を耳にすると「なぜこんなひどいことができるのか」と理解に苦しみます。

 2019年6月に改正動物愛護法が成立。それに伴い数値規制が定められました。飼育頭数や出産回数の制限、幼齢の犬猫の販売制限(56日規制)、虐待の罰則強化など、悪質なブリーダーやペットショップを抑制する目的で、明確な基準を設けたかたちです。

 しかし、前述したような事件やトラブルは後を絶たず、「法改正しても何も変わっていない」と憤りの声も上がっています。

劣悪な飼育環境でも営業を続ける

 法の運用は各自治体で格差があり、例えば、大きな事件があった自治体では、厳しい監視(立入検査等)や指導が行われています。また、飼育施設への抜き打ちの訪問をたびたび行い、違反があればそれが改善されるまで一時業務停止にしているところもあります。

 一方で、立入検査をしていてもその監視や指導がゆるく、劣悪な飼育環境のままずるずると営業を続けるケースも多々あります。

 実際、逮捕された男の飼育場は、以前から保健所に近隣住民からの通報があり、12回も立入検査を行っていたとのこと。「もっと早く逮捕できていれば、救える命もあったのに」と、対応を疑問視する声もあります。

 大半の自治体が業務多忙、職員や獣医師の不足などを理由に、法の運用がなされていないのが実情です。まずは、「監視の目」を強化し、警察との連携も密にし、法を順守できない悪徳ブリーダーを排除していかなければ、何も変わりません。

 男はペットオークションに子犬を卸していました。ペットオークションといえば、今年2月に環境省の一斉調査により、子犬や子猫の誕生日偽装が発覚したばかりです(関連記事:山中に違法な繁殖場「悪徳ブリーダー」偽装の手口)。

 ペットショップに並ぶ子犬や子猫の多くは、オークションから流れています。そして、オークションを利用して犬や猫を販売するブリーダーのなかには、犬や猫の命をただの「商品」としか考えない悪徳ブリーダーが多数存在しています。

 利益を得るためにやみくもに大量生産を繰り返し、命を奪ったとしても罪の意識はありません。

 そうしたブリーダーのもとでは、子犬や子猫は劣悪な環境で生まれ、幼い頃に親や兄弟姉妹と離され、オークションのために何度も移動を強いられ、全国のペットショップで展示販売されることになります。来る日も来る日も狭いケージの中で人の目にさらされ、挙句の果ては衝動買いした飼い主に捨てられるという悲しいケースも多々あります。

 流通過程(ブリーダーが出荷してから飼い主に販売されるまで)の間に年間約2.6万匹が死亡しているとの報道もあり、大量生産と展示販売は多くの問題を抱えています。

 健全なブリーダーは、オークションやペットショップに子犬や子猫を卸すことはありません。

 心身ともに健康な親から生まれた子犬や子猫は、健全なブリーダーに見守られながら、清潔な環境で親や兄弟姉妹とともに過ごし、社会性を身に付けてから飼い主のもとに直接譲渡されます。譲渡後も、その子犬や子猫の生涯にわたりサポートしていきます。

 それは、生み出した命に生涯かかわっていくという深い愛情と責任があるからです。

 近年は、健全なブリーダーが軒を連ねていた「紹介サイト」にも悪徳ブリーダーが流入しています。そこから迎えた飼い主とのトラブルも多く発生していて、もはやオークションやペットショップの大量生産と展示販売の問題だけにとどまらない状況になっています。

 悪徳ブリーダーがのさばる根本要因は、いくつかの要件はあるものの、誰でも容易にブリーダーを名乗ることができる現在の登録制度にあります。そこでは「繁殖の専門知識」や「命に対する責任や倫理」「動物に対する愛情」などは問われません。

 動物の権利や命を守るためには、悪徳ブリーダーを排除する仕組みの構築が必須です。例えば、ブリーダーに免許制度を導入するなど、ふるいにかけてその質を向上させる必要があります。

近隣住民や飼い主の「目」が果たす役割

 悪徳ブリーダーの排除には、「近隣住民の目」も大きな役割を果たします。臭いがひどい、鳴き声がすごい、犬や猫に暴行を加えている、死体を遺棄している……など、問題にいち早く気付くことができるのは、近隣住民です。

 何かおかしいと感じたら、管轄の保健所や動物愛護センターに通報しましょう。声を上げることで、近隣住民の生活を守り、同時にそこにいる犬や猫の命を救うことになるのです。

 もちろん「飼い主の目」も重要です。

 例えば、ブリーダーから直接、子犬や子猫を譲渡してもらう場合、事前に犬舎や猫舎を見学すると思います。その際、玄関の外まで糞尿のニオイがする、建物の周辺にも犬や猫の抜け毛が散乱している、窓越しにケージが2段3段と積み上げられているのが見えるなど、明らかに劣悪な環境とわかる場合は見学・購入を断り、管轄の保健所や動物愛護センターに通報しましょう。

 飼育環境や親犬・親猫を見せてもらえない場合は、それらに問題があることがほとんどです。通された場所がいくらきれいでも、それは表向きの姿。そうしたブリーダーから迎えることは避けたほうがよいでしょう。

 動物愛護の精神が広がるなか、もはや大量生産・展示販売という業態はそぐわない。ペット業界全体がそれを深く認識し、変わるべきときが来ているのです。


阪根 美果(さかね みか)Mika Sakane
ペットジャーナリスト
世界最大の猫種である「メインクーン」のトップブリーダーでもあり、犬・猫などに関する幅広い知識を持つ。家庭動物管理士・ペット災害危機管理士・動物介護士・動物介護ホーム施設責任者・Pet Saver(ペットの救急隊員)。ペットシッターや保護活動にも長く携わっている。ペット専門サイト「ペトハピ」でペットの「終活」をいち早く紹介。豪華客船「飛鳥」や「ぱしふぃっくびいなす」の乗組員を務めた経験を生かし、大型客船の魅力を紹介する「クルーズライター」としての顔も持つ。