暑い夏に食べたい、スタミナのつく中華料理。近年は“町中華”人気が続いている。そこで「日本の誇る食文化としての町中華について考え、食べ、記録していくこと」をテーマに活動するライターの下関マグロさんにその魅力を語っていただいた。
高齢化などで閉店が続く「町中華」文化を後世に
「僕が“町中華”という言葉を初めて知ったのは、2013年の暮れ。東京・高円寺にあった『大陸』という店が閉店しているという話をライター仲間の北尾トロさんにしたら、“ああいう町中華がどんどんなくなっていくね”と。なんだかストンとハマる言葉でしたね」(マグロさん、以下同)
翌年春ごろからは雑誌で町中華の連載開始、テレビでも取り上げられるように。そんな中、新宿にあったお気に入りの町中華の店が、店主の高齢化もあって閉店。
「“今のうちにどんどん食べに行かないと閉店してしまうのでは”と考え、トロさんが隊長、僕が副長で『町中華探検隊』を結成したんです」
その後は町中華の食べ歩き番組が始まるなど、ブームがすっかり定着。’22年には、いわば“町中華”の対極にある本格中華を表す“ガチ中華”が新語・流行語大賞にノミネートされるなど、熱は高まる一方だ。
ところで、改めて“町中華”の定義とは?
「もともとは、どこかしら懐かしいレトロな中華食堂をそう呼んできました。昭和の時代から続く個人経営のお店で、中華を名乗りながら、カツ丼、カレーライス、オムライスなど和洋メニューもある飲食店。ただ最近は、歴史は浅いけれどいい感じのお店も出てきて、町中華の盛り上がりを感じています」
町中華のレベルが高い地域などはあるのだろうか。
「ズバリ、関西です。お客さんの“ちょっと野菜多めに”なんて個人的な注文を聞いてくれたり、コミュニケーションの中で新たなメニューが生まれたりするのも町中華の魅力。全国各地いろいろ訪れましたが、特に大阪や京都はお客さんの要求度が高いからか、町中華の実力が高い!」
おいしい店を見つけるコツなどはある?
「やはり営業年数でしょうか。コロナ禍などあらゆる困難を経て長く営業しているということは、何か人を惹きつける魅力がある店ということ。味はもちろん、個性やクセ強めの魅力的な店主や女将さんがいたり、個人経営だからこそのドラマがあったり。店ごとにストロングポイントがあるのも町中華の醍醐味ですよね」
最近の町中華事情には、ある変化も見られるという。
「僕たちが町中華探検隊を結成したときは“未亡人中華”が多かった。夫婦で店を切り盛りしていたのがご主人が亡くなり、奥様だけで営業している町中華です。
最近は、親子2代で営む“親子中華”や料理人のお婿さんが来る“婿中華”なども出てきて、町中華文化の息の長さや盛り上がりを感じます。
あと、YouTubeで店そのものをじっくり紹介する例が増え、何度も行った店でも動画を見ることで新たな発見があったりしますね」
全国のお店を訪れた達人がお気に入りの3軒
マグロさんがお気に入りのお店も教えてもらった。まずは東京・浅草にある『博雅』。
「ここの女将さんはなんと元ミス日本! 90年以上続く老舗で、腕のいい料理人のお婿さんが来てくれた“婿中華”です。オススメは、創業当時の味を今のお婿さんが苦労を重ねて復活させた博雅のシュウマイ(5個550円)。これがたまらなく絶品」
続いて、同じく都内の新馬場にある『あおた』。
「店主とお母さんでやっている“親子中華”なんですが、店主が矢沢永吉さんファンでリーゼント頭! 僕たちは“リーゼント中華”って呼んでます(笑)。野菜たっぷりの中華丼(750円)やタンメン(700円)など、どれもガツンとうまい」
3軒目は横浜・阪東橋の『酔来軒』。
「80年以上の歴史を持つ王道の町中華。現在の3代目店主が作る名物料理、酔来丼(500円)が、おいしくてコスパも抜群。ご飯の上にネギ、もやし、メンマ、チャーシューといわゆるラーメンの具材と、揚げ焼きした目玉焼き。特製タレをかけて目玉焼きを崩しながらいただくのですが、これが最高!」
一方でマグロさんによれば、
「“この店のこの料理をぜひ食べて”というわけではなく、“あなたの家の周りにもこんな魅力的な町中華はない?”という提言です。町中華文化を後世に残すためにも、ぜひあなたも“ここだ”というお店を見つけたり、自然とお店に呼ばれたりして(笑)“食べ支え”のためにちょっとだけお金を使っていただきたいですね」
とのこと。最後に、夏の推しメニューはやっぱり、
「冷やし中華ですよね。店ごとでかなり特色があり、奥深いです」
今年の夏は、ぶらり町中華、探しに出かけませんか?
取材・文/住田幸子