「気温が上昇する時季が早まっているせいか、5月ごろから『汗あれ』の相談にみえる患者さんが増えてきていますね」 そう話すのは、つちやファミリークリニック浅草院院長の土屋佳奈先生。「汗あれ」とは最近増えている夏の肌トラブルのこと。
「夏の肌トラブルであるあせもと同じく、汗の刺激によって生じますが、症状は異なります」
どちらも汗が原因だが、発症の仕組みが異なるものなのだそう。
「あせもは、汗を排出する汗腺が詰まって生じる発疹です。汗腺が皮脂や汚れで詰まってしまうと、汗が排出されず肌の内側にとどまってしまいます。その汗が刺激となって生じる炎症があせもです。
一方、汗あれや汗かぶれは汗そのものが刺激となって、肌の表面に生じるかぶれや炎症を指します。あせもよりも広がりやすく、広い範囲に赤みや強いかゆみを生み出してしまうことがあります」
冷房は必須の酷暑、肌トラブルも増加
あせもは汗腺が未発達な子どもに多い。一方、汗あれは年齢を問わず、顔や首、ひじの内側など皮膚が薄くて弱い部位に生じやすい。ただ、自分の身体から発した汗にかぶれてしまうのはなぜ?
「汗には塩分やアンモニアといった、肌に刺激となる成分が少量ですが含まれています。夏はエアコンの冷房による乾燥や紫外線が原因で、肌のバリア機能が低下しています。普段なら炎症を起こさない方でも、汗をそのまま放置すると赤みやかゆみを生じてしまうこともあります」
土屋先生によると、汗あれは衣服が擦れる部位にも起こりやすいため、下着や衣類は通気性・吸湿性のよい素材を意識したほうがいいという。
「ただし、接触冷感のTシャツなどに使われている化学繊維でかゆみが発生してしまう方もいます。ポリエステルなどは吸湿性が低く、速乾性が高いため、汗が皮膚に残り、皮膚を刺激する場合があるので注意が必要です」
日常生活で汗あれを防ぐには清潔にしておくことが大切だが、気をつけなければいけないことも。市販の汗拭きシートや制汗スプレーの使用で、汗あれを悪化させる原因にもなることがある。土屋先生は「使用をあまり推奨していない」という。
「夏の過酷な環境で弱ってしまった肌は、普段だったら反応しない制汗剤や化粧品に含まれる成分の刺激に反応して炎症やアレルギー症状を引き起こすことがあります」
「汗拭きシート」も要注意
普段は平気でも、暑い日が続けば、寝不足や食欲減退から疲れが取れないなど、免疫力が低下することもあり、反応してしまうことがあるそう。
「例えば、汗の嫌な臭いを消すよういい香りのするタイプのシートは、含まれる香料の刺激が肌あれの原因になることがあります。つけた瞬間スッとするようなものだと、その刺激で炎症の原因になることも考えられます。
また、アルコールの場合は揮発性が高いので、拭いた瞬間はさっぱりしますが肌の必要な水分を奪ってしまう性質もある。すると、より乾燥が進み、さらに肌のバリア機能を失う可能性もあります」
外出時などで汗をかいた場合、どう対処すればよいのか?
「できれば、水を含ませたハンカチやタオルでこまめに拭き取ることがおすすめ。もしシャワーを浴びられる環境だったら、さっと流すことができればいいですね」
ただし、病院を訪れた人の中で肌あれの原因は“洗いすぎ”によるものも多いそう。
「汗あれに限らずですが、肌トラブルを起こしてしまっているケースでは洗いすぎている人が多いんです。肌を清潔に保つことが大切とはいえ、一日に何度も洗顔するのはよくありません。
洗顔しすぎると、肌に必要な分の皮脂まで洗い流してしまい、肌のうるおいが失われます」
洗顔や入浴の際でも、皮膚の表面を傷めてしまうこともあるので注意したい。
「汚れを落とそうと身体をゴシゴシ洗ってしまうのはよくないですね。特に洗浄力が強い石けんを使っていると、乾燥を引き起こして敏感肌になりやすい。結果的に肌あれを引き起こす可能性があります。また、石けんに含まれる成分が刺激になってしまうこともあります」
男性が使用する洗浄力の高いタイプは、女性の肌には強すぎる場合があるので避けたほうがよさそう。
肌トラブルで心がけたいのは洗顔や入浴後、しっかり保湿することだと土屋先生は話す。
夏でも欠かさず保湿を心がける
「夏はベタつきが気になったり、肌がうるおっているように感じて“化粧水だけで済ませてもいいのでは?”と考える方も少なくありません。
汗は保湿してくれそうに思えるかもしれませんが、皮膚表面の汗が蒸発するとき一緒に肌の水分も奪うため、かえって肌の乾燥を招く可能性があります。
皮脂の分泌量が多く、一見うるおって見えながら、実は肌の水分量が少ないインナードライ肌になっているというのも夏に起こりやすい肌トラブルです。おすすめはセラミドや天然保湿因子が配合された化粧品で、効率よく保湿できます」
夏こそ保湿ケアが重要だという土屋先生。ただ、さまざまな対策をしても、汗あれしてしまうことも。そうした場合は受診を。
「強いかゆみをともない、寝ている間などにかきむしってしまう人も少なくありません。爪でかきむしってしまうと、症状が悪化したり長期化したりする原因に。
当院にもかき壊してしまって、全身に広がってしまったり、患部からジュクジュクした液が出てしまった患者さんなどがお見えになることもあります」
病院でかき壊しを治療する際は、炎症を抑えるための外用薬(ステロイド軟こうなど)やかゆみを抑えるための内服薬(抗ヒスタミン剤など)を処方されることが多いよう。
汗あれなどの皮膚トラブルを放置したまま、こすりすぎて深刻なトラブルを引き起こしてしまう場合も。
「炎症が起こると、皮膚にメラニンが増えます。すると、治った後もメラニン色素が残ってしまい、肌が黒ずんでしまうことを色素沈着といいます。炎症を短期間で治療できれば、色素沈着になる可能性は高くありません」
特に更年期前後に女性ホルモンが減少すると、皮膚トラブルが長引くこともあるそう。若い時以上に普段からのケアを心がけることが肝心。
「紫外線対策もしっかりと行って肌を守りましょう。メラニンは紫外線の吸収で増えるので、普段から紫外線対策をすることが色素沈着予防にはとても効果的です。日焼け止めクリームもこまめに塗ってください。ただ、敏感肌の方はなるべく低刺激の肌にやさしい製品を選んで。
またビタミンCを摂取するのも効果的です。もし、肌があれてかゆみが治まらないような場合は早めに診察を受けて、炎症を繰り返さないようにしたいですね」
話を伺ったのは……土屋佳奈先生●皮膚科専門医。つちやファミリークリニック浅草院院長。東京医科大学を卒業後、東京女子医科大学の皮膚科に入局。現在は浅草に医院を開業し1日に100人以上の肌悩みと向き合う。著書には『美容皮膚科医が試してわかった!美肌・新常識33』(小学館)などがある。
取材・文/諸橋久美子