「“紫式部(まひろ/吉高由里子)が主役の物語での清少納言? ほ、本当に!?”という驚きが何より大きかったですね。自分だったら注目する役。ライバルとして不足のないようなキャラクターになればいいなと思いました」
清少納言役に称賛の嵐
初の大河となる『光る君へ』で清少納言(ききょう)役が決定したときの気持ちを、ファーストサマーウイカはこう語った。
当初は多くの人同様に、その名や『枕草子』は授業で学んだ程度、実際にどういう人物なのか深くは知らなかったという。しかし『枕草子』を筆頭に、関連資料を多数読み進める中で、
「非常ーに自分と考え方や表現の仕方が近い人物だと思いました。大河ドラマの登場人物を演じて“自分のことみたい”って言う方、なかなかいないと思うんですけど。例えば“徳川家康、マジで自分そっくりです”とか(笑)。
最近、SNSでは“生まれ変わり”と言っていただくこともあり、“いやいや、言いすぎでしょう?”とも思わない、というか(笑)。かもしれない、くらいの親近感を持っています」
多くの歴史漫画で描かれたその顔は“私じゃん”。共感できないセリフは皆無。“この場面ではそれ以外、なんて言うの?”と思うほど、清少納言と自身が重なった。知るほどに“ほぼ自分”。気づけば、プレッシャーは消えていたと振り返る。
「『枕草子』には数々のエピソードがあるけれど、すべてを額面どおりには受け取らないようにしていて。普段から私は自伝とかエッセイは疑って読んでしまう。例えばブログとかSNSでも“ええかっこしい”な言葉選びや書き方をすることってあると思うんです。オシャレに締めたいとか(笑)。
何か一枚まとう瞬間が作家性。“またまたカッコつけて”みたいな(笑)。たぶん、紫式部は書き手としてそんな部分も見抜いていたんじゃないかなぁ」
定子の苦悩を書き残すわけがない
「私は今回、定子さまを“推し”と解釈しています。“強火の定子担”です」
一条天皇(塩野瑛久)の中宮・定子(高畑充希)に仕えた清少納言。初対面の際、思わず漏らした言葉は“きれい……!”。SNSでは《オタクの気持ちがわかってる》《まさにあれです》など共感を呼び、称賛された。
「音にするなら“ふわぁぁぁぁ”(笑)。みなさんもあそこに座ってみてください。ああなりますから(笑)」
定子の実家・中関白家のいいときも、そうでなくなってからも。忠実に定子に仕え続けた清少納言。『枕草子』は、生きる気力を失った定子に再び笑ってほしい。そんな健気で一途な思いでしたためられた。まひろの感想は“光の部分だけでなく、影の部分も読みたい”だったが、
「言いたいことはわかる、ドキュメンタリー性を持たせるならわかるけれども、『枕草子』は定子さまを元気づけるために書き始めたものだから。どれだけ悲しい思いをして、歯を食いしばられてきたか、清少納言は知っている。
定子さまがそれを表に見せず堪えてきたことを、書き残すわけがない。現代のアイドルと一緒で、その裏側を見たくない人もいらっしゃいますよね? やはりその“裏の部分”は推す側にとって必要ないと彼女は考えたんです」
そんなふたりだけの宝物は次第に役割に変化が。一条天皇の心を定子に引き留める鎖になればと願うようになり、
「定子亡きあとも“彼女がいかにすごかったか”を書き続ける。それが自分の最後の使命だと思ったんでしょうね。そんなふうに命がけで書いた作品が1000年後まで残っている。本当にかっけー!と思います」
マブからの軋轢『紫式部日記』には悪口
紫式部の対の存在で、ライバルとされることが多い清少納言。しかし本作では、友情をはぐくんでいる点が新鮮だ。
「友達というより圧強めの先輩と、基本的に苦笑いして聞いてくれる後輩みたいな(笑)。脚本の大石静先生のすごさですよね。ゴールがわかっているからこそ、最初は近づけておく。確実に『紫式部日記』には、清少納言の悪口が書かれているわけですから(笑)」
ギャップの幅を持たせる、そのアイデアに舌を巻く。
「やはりマブからの軋轢(笑)。きっとこれから“あれ、なんかちょっと空気悪くない?”と、その関係性は変わっていくと思います。まひろが強くなっていくのか、ききょうがどうなっていくのか。
ただ、ききょう目線から見ると本当に悪いのは藤原道長(柄本佑)ですよね。道長のせいで、清少納言は大変な目にあってますから。史実ではスパイ容疑もかけられたそうですし。マブの関係も変化していくことになるから、本当にマジで道長、許すまじ(笑)」
令和の『枕草子』を書くなら……
清少納言が敬愛する定子。演じる高畑充希とのエピソードを尋ねると、
「普段から飄々とされていて。愛くるしくも、さっぱりした方。そんなところも定子さまに重なります。
私が令和の『枕草子』を書くなら“揚げパン”という章段を入れます。NHKのカフェには、いつも売り切れている揚げパンがあるんですね。たまたまプレーン味を2個ゲットできたときに、ひとつを充希さんにプレゼントしたんです。
翌日、楽屋に行ったら抹茶味の揚げパンがさりげなく置かれていて。“これはもしや……定子さま!?”と思ったら、やっぱりでした。
『枕草子』には“山吹の花びら”が出てくる章段があるんです。スパイ容疑によって里に帰った清少納言のもとに定子から手紙が届くんですが、紙には何も書かれていなくて」
梔子(くちなし)とかけた、花びらが1枚だけ。そこには“いはで思ふぞ”。
「現代語に訳すなら“言わなくてもわかってるから帰っておいで”。なんだかそれに似ているなと、本当に感動して。“充希さま〜!”ってなりました(笑)」