「しまむら」グループの「バースデイ」が販売した衣料品が、SNS上では「男性蔑視では」と批判が殺到し、販売中止となった(「バースデイX@しまむらグループ」のXより)

 衣料品チェーン大手「しまむら」グループの「バースデイ」が販売した衣料品が、物議を醸している。現代美術作家の加賀美健氏とのコラボレーションで、子ども向けの衣類に「パパはいつも寝てる」「パパは全然面倒みてくれない」と書かれた商品が発売され、SNS上では「男性蔑視では」と批判が殺到。販売中止・謝罪したものの、「炎上」は続いている。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 筆者はネットメディア編集者として、10年以上にわたり、企業のSNS炎上をウォッチしてきた。そうした中で感じているのは、ここ数年とくに「男女の役割分担」を描いた作品などに対する、世間の目が厳しくなっていることだ。

 そこへSNSサービスによる「カルチャーの違い」が絡んだ結果、今回の問題が起きたのではないかと感じている。

「販売中止のお詫び」を各種SNSに投稿

 話題になっているコラボ商品は、2024年7月29日から、全国の実店舗やオンラインストアで販売された。

 子育てにまつわるフレーズが文字であしらわれ、「なくのがしごと」「イヤイヤ期です」など、子どもたちに焦点を当てたもののほか、「パパはいつも寝てる」「パパは全然面倒みてくれない」「パパはいつも帰り遅い」「ママがいい」「ママいつもかわいいよ」と書かれた靴下やTシャツなどが登場。ラインナップを見る限り、「パパ」には批判的で、「ママ」は持ち上げる文言が多いように感じさせる。

 バースデイのSNS投稿によると、加賀美氏は「社会現象や時事問題、カルチャーなどをジョーク的発想に変換した作品を発表している」。なおバースデイと加賀美氏のコラボは、今回が初めてではない。

(出所:「バースデイX@しまむらグループ」のXより)
(出所:「バースデイX@しまむらグループ」のXより)
(出所:「バースデイX@しまむらグループ」のXより)
(出所:「バースデイX@しまむらグループ」のXより)
(出所:「バースデイX@しまむらグループ」のXより)

Xでは批判が殺到

 この新作アイテムが、発売前日の7月28日にSNSで告知されると、Xでは「パパへのディス(侮蔑)がひどすぎる」「『パパ』と『ママ』が反対だったら大炎上している」「男性の育児参加が当たり前の時代に逆行しているのでは」といった論調から、批判的な反応が相次いだ。

 こうした世論を受けてか、発売翌日の7月30日夜に「販売中止のお詫び」が、バースデイの各種SNSに投稿された。

「この度、弊社で販売いたしました『加賀美健』さんとのコラボ商品の一部商品につきまして、ご不快な思いをさせてしまう表現がありましたこと、深くお詫び申し上げます。皆様から頂いたご意見を検討した結果、商品の販売を中止させて頂くことと致しました。今後この様なことがないように、お客様視点に立った商品企画を行ってまいりますので何卒よろしくお願い申し上げます」

 この謝罪を受けてもなお、Xでは批判が絶えない。「なぜ企画が通ったのか」「販売前に気づかなかったのか」「炎上は予見できたのでは」といった指摘が相次いでいる。

 しかし、インスタグラムに目を向けると、バースデイに好意的な反応が目立つ。謝罪投稿には「ネタに反応するなんて世知辛い」「販売中止はやりすぎでは」「これに反応する人は、心当たりがあるのでは」「いちいち謝罪するとクレーマーが増えるだけ」といった論調から、コラボを擁護するコメントが並んだ。

いまだ残る「パパなら皮肉ってもいい」という風潮

 今回のコラボ商品が炎上した、もっとも根幹にあるのは「男女の役割分担」に対して、社会の目が鋭くなっている点だ。つい先日も、大正製薬「リポビタンD」の広告が、女性イメージキャラクターの写真に「仕事、育児、家事。3人自分が欲しくないですか?」とのキャッチコピーを添えたことにより話題となったばかりだ。

 なかでも「育児は女性のもの」といった固定観念のもとでの発言は、すぐさま問題視されるご時世と言える。とくにバースデイは、育児まわりの業種だからこそ、より「燃えやすい題材」であると気づけたはずなのだ。

 それでもなお、今回のような商品が出たのか。その背景には「パパなら皮肉ってもいい」という風潮が、一部存在していることがある。筆者が過去の炎上事例で思い出したのが、「牛乳石鹸」のウェブCMだ。

 2017年に公開された動画で、親子3人暮らしの夫を主人公にしている。息子の誕生日でケーキとプレゼントを買った主人公だが、会社の後輩をなぐさめるため、飲みに連れていくことに。帰宅した主人公に、妻は「なんで飲んで帰ってくるかな」。そして主人公は入浴し、妻に謝罪するーー。

 このドラマ仕立てのCMには、「そもそも意味がわからない」といった声に加えて、作中で描かれた「父親像」への違和感も指摘された。あれから7年がたったが、いまなお「父親は家庭をおろそかにする」といったステレオタイプは残っているのではないか。

昔と比べると、今の時代は「協力的なパパ」が増えているはずだが、広告表現などインパクト重視の世界では、まだまだイメージは変わっていないと考えられる。

 ちなみに、「しまむら」そのものは、男性の育児参加に前向きだ。本社所在地である埼玉県が運営する「働き方改革ポータルサイト」では、2017年度の事例として、社内報で育休取得した男性社員を紹介するなどの取り組みが紹介されている。

 ここでは経営者のメッセージとして、当時の社長による「男性・女性にかかわらず全社員が『安心して・楽しく・長く』働くことのできる環境の整備を進めています」といったコメントも掲載されている。

(出所:「株式会社しまむら 働き方改革ポータルサイト」より)

 そんな、しまむらグループのバースデイが、なぜ「炎上不可避」の商材を扱ってしまったのか。そこには、ブランド特有の事情が考えられる。謝罪をめぐる反応を見るとわかるように、インスタグラムにおける「しまむらコミュニティー」は、他のSNSとは若干異なる。そこにヒントがあるのではないか。

 しまむらを一躍ファストファッション大手に導いた要因のひとつに「しまパト」がある。「しまむらパトロール」の略で、店頭に並んでいる掘り出し物を見つけて、SNS投稿することを指し、企業も公式に使っているフレーズだ。これがインスタグラムを中心に広がり、コスパ志向の風潮と「映え」、そして宝探しのゲーム要素が掛け合わさって、しまむら人気の原動力となった。

 しかしながら、そうしたインスタ偏重の考え方が、世間とのギャップを生んでしまった可能性はないか。

 バースデイの公式インスタグラムの投稿動画では、今回のコラボ商品が「ユーモアあふれるデザイン」「かわいらしいフレーズ」と紹介されていた。謝罪投稿に並ぶ擁護コメントを見ても、「映え」や「エモさ」に寄り過ぎた結果、炎上に至った印象が拭えないのだ。

比較的、迅速な対応ではあった

 しまむらグループは、SNS時代を背景に成長してきたからこそ、炎上は避けなくてはならなかったし、そのセンサーを持っておくべきだった。Xで多く言及されていた「なぜ企画が通ったのか」といった疑問は、筆者も同感だ。アパレル業界屈指の大企業で、このような企画が通ってしまうことに、強い違和感を覚えてしまう。

 とはいえ、発売翌日に中止を決めたのは、全国展開するチェーン店としては比較的迅速だったと言える。バースデイは324店舗(2024年2月期末)を展開しており、各商品を店頭から回収するとなると、かなりの労力と損失が発生するだろう。

新たな失敗が…

 ただ、「延焼防止」の観点で、評価できないこともその後に生じてしまった。コラボ商品の紹介ページとSNS投稿の両方が削除されてしまったことだ。多くの炎上事案では、謝罪とともに投稿が消され、後から騒動を知った人は「なにが問題視されたのか」に行き着くまで、それなりの手間を要する。

 また投稿削除は、「問題をなかったことにしたいのでは」と、疑念を招く温床にもなる。SNSでは「消せば増える」が合言葉だ。削除で不信感が増すことにより、第三者による画像転載が増加することを指し、さらに企業側がコントロールしづらくなる。

(出所:「バースデイX@しまむらグループ」のXより)

「発売中止のお詫び」の投稿をトップに固定したし、これでいいだろう……と思ったかは定かではないが、公式投稿の削除は、余計な延焼リスクを生むだけだ。


城戸 譲(きど・ゆずる)Yuzuru Kido
ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー
1988年、東京都杉並区生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、ジェイ・キャストへ新卒入社。地域情報サイト「Jタウンネット」編集長、総合ニュースサイト「J-CASTニュース」副編集長などを経て、2022年秋に独立。現在は東洋経済オンラインのほか、ねとらぼ、ダイヤモンド・オンライン等でコラム、取材記事を執筆。炎上ウォッチャーとして「週刊プレイボーイ」や「週刊SPA!」でコメント。その他、ABEMA「ABEMA Prime」「ABEMA的ニュースショー」などネット番組、TOKYO FM/JFN「ONE MORNING」水曜レギュラー(2019.5-2020.3)、bayfm「POWER BAY MORNING」などラジオ番組にも出演。政治経済からエンタメ、炎上ネタまで、幅広くネットウォッチしている。
X(旧ツイッター):@zurukid
公式サイト:https://zuru.org/