トップアスリートたちが日々熱い戦いを繰り広げているパリ五輪。日本人選手たちの活躍も目覚ましく、多くのメダルを獲得している。
そんな中、“金メダル候補”として挑んだ2度目の五輪で、まさかの2回戦敗退となったのが、柔道女子52kg級に出場した阿部詩(うた)だ。
「詩選手には、兄で男子66kg級に出場した一二三(ひふみ)選手とともに、きょうだいで五輪連覇への期待がかかっていました。7月28日に試合が行われ、2回戦でウズベキスタンの選手にまさかの一本負け。その後、畳を降りてからコーチにしがみついて泣き叫び、会場では“UTAコール”が巻き起こりました」(スポーツ紙記者)
この涙に、
《こんなに泣けるくらい今まで頑張ってきたんだ》
《この日に全てを注いできたんだというのがわかる》
などと、詩を称える声がある一方で、競技の進行を妨げてしまったこともあり、
《正直阿部詩のあの号泣はみっともない。相手への礼にも欠ける》
《柔道家なら泣き崩れるのは控え室に帰ってからにしてほしかった》
《涙堪えて毅然としてほしい》
といった、賛否を呼んだ。
《誰もわからんよな詩の気持ちなんか》
阿部詩、幼少期から積み重ねてきた努力
詩の試合後、自身のXにこう投稿したのは、吉本興業の女性ピン芸人・鮭田(しゃけだ)。学生時代から柔道選手として活躍していた鮭田は、2018年には『全日本実業柔道個人選手権大会』女子52kg級での優勝経験も。パリ五輪をハラハラしながら見守っていたという鮭田に話を聞いた。
とにかく負けず嫌いで誰よりも努力していた
「私が夙川(しゅくがわ)高校を卒業したときに、詩選手が夙川中学に入ってきました。なので、在学期間は重なっていないですが、詩選手は小学生のときから夙川高の練習に参加しており、その後も合同練習などで会っていました。私が『JR東日本』の実業団にいた際も、当時のコーチが詩選手も担当していたため、一緒に練習する機会がありました」
もともと詩は、兄・一二三の付き添いで来ていただけだったという。
「一二三選手が小学生のころ、自分より強い相手と練習をするために高校生の練習に参加していて、詩選手もそこに付いて来ていました。最初のころは、練習場の扉に入ってくるときから “練習、イヤ! 嫌や、行きたくない!”と、お父さんに泣きついていたイメージがあります。でも、練習が始まれば楽しんでいて“お姉ちゃんたちと一緒に頑張る!”という感じでした」(鮭田、以下同)
そんな詩が、柔道に向き合い始めたのは、
「一二三選手が中学生になって頭角を現すようになり、周囲では“絶対、オリンピック行けるよ”と言われていました。 そのお兄ちゃんの姿に憧れて、詩選手も本気になったような印象があります」
それからは四六時中、柔道のことを考えるように。
「練習を頑張るのは当然なのですが、詩選手は練習が終わってからもコーチに相談をして、どうやったらさらに強くなれるのか、ひたすら反省を繰り返していました。
また、細かいことではあるのですが、どこかを痛めたときにできるだけすぐに冷やすとか、食事の管理とか、みんながするべきことを、サボることなく人一倍徹底していて。私とは同階級なので、手を抜いている部分を見せないようにしていたのかもしれませんが……。
練習中も、寝技の補強のために地面を這いながら行うトレーニングがあるのですが、ほかの人に大きく差をつけて1番でゴールしたり、とにかく負けず嫌いで誰よりも努力していたように思います」
トップ選手として戦ってきた経験もある鮭田は、パリ五輪での詩の号泣について、こう推察する。
「詩選手とは背負っている重圧も違うと思いますが、私も海外の試合に出て1回戦で負けたことがあります。そのとき、期待してくれた人がたくさんいる中で、背負っているものが全部、崩れてしまったみたいな感覚に陥るんです。なので、詩選手も悔しくて泣いてしまったのもあると思いますが、ただただ絶望というか……。 試合直後は、何も考えられなかったと思います。賛否両論ありますけど、私はそう思います」
幼いころからの詩を見てきたが、試合で負けて泣く姿は見たことがなかったという。
「そもそも、負けるところをあまり見なかったというのもあると思いますが……。試合ではなく、練習で泣いていたイメージがあります。お父さんやコーチに叱責されて、落ち込んで泣いている姿は見ていました。でも、大学生になってからは涙を捨てて“ダメだったら自分で修正する”と切り替えていったようです」
最後に、詩へエールを送る。
「詩選手は努力の天才です。センスと身体能力があるうえに、あれだけの努力が重なったら誰も太刀打ちできません。それに加えて詩選手は、試合の日にベストコンディションへ持っていって“私は負けない”というマインドが、とにかく一級品。絶対にここで終わる人ではないと思うので、これを糧にして、もっと上を目指して、次のオリンピックでは圧倒的な差で勝ってほしいですね」