大谷翔平

 パリ五輪でのメダルラッシュに日本中が盛り上がる中、早くも4年後に注目が集まっている。2028年はアメリカ・ロサンゼルスで開催されることもあり、野球が復活し、大谷翔平の出場も期待される。

「パリでは実施されなかった野球ですが、ロサンゼルス五輪では2大会ぶりに追加競技として採用されています。前回実施された2021年の東京五輪では日本が金メダルを獲得。“連覇”にも期待がかかります」(スポーツ紙記者、以下同)

メジャーリーガーの参加は1度もナシ

 昨年3月に行われたWBCでは二刀流で活躍し、日本を優勝へと導いた大谷。4年後の五輪出場について問われ、

「国際大会はもちろん特別だと思うし、五輪も特別だと思う。普段野球を見ない人たちも見る機会は増えてくるので。個人的にも出てみたいなという気持ちはもちろんある」

 と意欲を示した。

 日の丸を背負った戦いは、やはり特別。西武などで活躍し、北京五輪にも出場したG.G.佐藤氏はこう話す。

「国を背負って戦うというのは、どの試合よりもしびれました。緊張もしましたし。WBCのとき、大谷選手は“楽しみたい”と言っていましたが、当時は“やるかやられるか”という雰囲気で、楽しんではいけないものと思っていました。WBCで世界一になって喜んでいる姿を見て、うれしかったですが、同じ気持ちでは喜べなかったです。北京五輪は4位だったので“俺たちも喜び合いたかった”という思いは今でもあります」

 いつまでも心に強く刻み込まれるのが五輪という舞台。大谷が活躍する姿を見たいが、出場へのハードルは高い。

五輪の野球には、メジャーリーガーが参加したことは一度もありません。ロサンゼルス五輪について、メジャーリーグのコミッショナーが7月の会見で“協議の余地はある”と前向きなコメントをしていましたが、どうなるか不透明です」(前出・スポーツ紙記者)

 メジャーリーガーの出場について、G.G.佐藤氏も、

「知らない大学生とかが出るより、メジャーリーガーが出たほうが盛り上がりますし、放映権料も高くできそうです。ただ、シーズン中なので球団が許可してくれるかどうか。特にメジャーリーグの球団は厳しいですから。そういう調整も必要です」

 と話し、課題は多そう。

 大谷らメジャーリーグの選手が出場するには“3つの障壁”があるという。

「まず、日程の問題です。各チームの主力選手が抜けるため、五輪期間中はシーズンを中断しなければいけません。メジャーリーグは162試合を戦います。日程が詰まっているので、中断した場合に試合数を変更するか、さらにハードな日程にしなければいけない。MLBはこれまでもシーズンを優先し、五輪に選手を派遣しませんでした」(在米ジャーナリスト)

 シーズンを中断するのは可能なのか。スポーツライターの小林信也さんはこう話す。

「東京五輪のときに日本のプロ野球が中断したように、メジャーリーグも1週間ほどの中断であればまだ現実的です。そうなればメジャーリーガーの参加も可能だと思います」

カギを握るのは“賭博”と“プライド”

 現地の報道ではシーズンを158試合に減らす案も検討されているという。だが、試合数が減れば、2つ目の問題が発生する。

試合数が減少した場合、162試合を前提で契約している選手の年俸をどうするか、という問題があります。2020年のコロナ禍で試合数が減った際、年俸の比率を巡ってMLBと選手会側が対立したことがあります。試合数が減れば、その分、球団の収益も減りますが、年俸が減ることに納得のいかない選手も出てくるでしょう」(前出・在米ジャーナリスト、以下同)

 3つ目の課題はスポーツに付き物であるケガ。それも球団の懐事情に絡んできて、選手の派遣を嫌がる要因になる。

「WBCでは、各球団が所属する選手のケガに備えて、保険に入る必要がありました。保険料は各選手の故障歴や年俸などで異なり、高額な保険料に球団が難色を示したことで、WBC出場を断念した選手もいました

 年俸や保険など金銭的な事情も絡んできそうだが、説得材料があるという。

「アメリカではスポーツの結果で賭けをするスポーツベッティングが盛り上がっており、約10兆円の規模になっています。メジャーリーグも賭けの対象で、売り上げから一定の割合が分配されます。五輪で注目され、世界中の人が賭けるようになれば、メジャーリーグとしても収益が増えるので、五輪に対する力の入れ方が変わるかもしれません」(小林さん、以下同)

東京五輪で金メダルを獲得した日本。当時、エンゼルスに所属していた大谷翔平は不参加だった(侍ジャパン公式HPより)

 アメリカ・ロサンゼルスで開催されることもあり、大谷の存在が“野球の母国”を本気にさせるかもしれない。

アメリカは国の威信をかけて金メダルを取りにくるでしょう。“日本にはメジャーリーガーを出さないと勝てない”とWBCを通じてアメリカは認識しているのでは。大谷が参加したい意思を表明すれば、アメリカも本気のメンバーで挑んでくるかもしれません」

 G.G.佐藤氏も野球界全体のことを考え、メジャーリーグも含めて、全力でロス五輪を盛り上げる必要性を説く。

「野球の世界的な普及のため開催国がどこであれ実施されるようにならないといけないと思います。そのために魅力をアピールする必要があります。“WBCがあるから五輪はやらなくてもいい”とあぐらをかくのではなく、野球界が一致団結して、これまでとは違うものを見たいですね」

 笑顔でゴールドメダルをかける大谷も見てみたい!

小林信也 作家、スポーツライター。高校時代は投手として活躍し、新潟県大会優勝。野球をはじめ、幅広い分野で取材、執筆活動をしている