愛らしい姿や驚きの芸をこなすイルカは、水族館を訪れた人たちにとって人気者なのだが……。2024年7月から、福井県の海水浴場で遊泳客が野生のイルカに襲われる被害が続出。
7月21日に中学生が噛まれてケガ。8月3日は10歳の男の子がイルカに噛まれ20針を縫う大けがを負った。イルカに体当たりをされた人もおり、8月15日までに被害者は延べ16人。
生死に関わる重篤なケガを負う可能性も
ドラマやアニメでは人間を助ける存在としても描かれるイルカだが、野生のイルカは非常に危険なのか……。東海大学海洋学部の山田吉彦教授に話を聞いた。
「実は、イルカ自体は攻撃的ではないんです」
でも、多数の被害者が出ている。どういうこと?
「イルカというのは、好奇心が旺盛で、人間を見つけたので近寄って、遊んでいるだけだと考えられます。人間が危険な存在だと認識していれば、近寄ったりはしてきませんから。ただ、イルカは時速40kmぐらいで泳ぎますから、その速度でぶつかってくるのは、軽自動車が突っ込んでくるようなもの。小さな子どもであれば、内臓破裂をしたり、あばらが折れて内臓に刺さったり、生死に関わる重篤なケガを負う可能性も考えられます」(山田教授、以下同)
噛みつかれ、何針も縫う怪我を負った人もいる。
「イルカにとっては、甘噛みをしているだけなのでしょうが、噛まれた人はびっくりして、手を引っ込めようとする。するとイルカの歯は、するどいですから、歯が刺さってケガをしてしまう。イルカは小魚を食べますから、小さなお子さんの場合は、手を持っていかれてしまうこともありえます」
2022年には1件、2023年は5件ほどの被害だったが、2024年はどうして16件もの被害者が出たのか。
「おそらくイルカも慣れてしまって、好奇心を満たそうと活発になってしまっているのでしょう。福井県あたりは海水温も高く、エサも豊富です。イルカにしてみれば、遊んでくれる人間もいて、非常に居心地がいいのだと思います」
そう話したうえで、今すぐに対処が必要だと訴える。
「お盆も過ぎて、クラゲも出る時期に入ってきましたから、海水浴のシーズンは間もなく終わりを迎えるはずです。しかし、2025年はさらに被害が拡大する可能性があります。人をケガさせているのは、おそらく同一個体のイルカ1頭だと思われますが、仮に仲間を引き連れてきた場合は大変なことになりかねません。イルカが苦手な音を流して遠ざけているようですが、別の海域に出没するだけなので、捕獲したうえで離れた海域にまで連れていく必要があるでしょう。命を落とす人が出てからでは遅いですから、すぐに行動に移すべきです」
さらなる自然の驚異が人間に襲いかかってくる可能性があるというが、これは福井に限った話ではないとも。
見つけたらどうすればいい?
「今回、被害を出しているのはミナミハンドウイルカと推測されますが、このイルカは活動範囲が非常に広いのです。福井よりも以南の日本列島は、すべてがイルカの活動範囲と思って構いません。最近では、日本の沿岸部にイルカが多数出没しており、静岡県にある清水港にはイルカが住みついています。港は、人が泳ぐことはないので大丈夫でしょうが、そのうち海水浴場に出没するようになる可能性は十分にあります」
しかし、さらに危険な生物が出没するかもしれないと、山田教授は続ける。
「イルカだけでなく、サメが海水浴場に入ってきてもおかしくない状況です。最近では、鹿児島の近海にメジロザメが多数出没しています。ただ、サメも危害を加えるか、血のニオイをさせなければ、基本的に襲ってくることはありません」
では、海水浴中にイルカやサメを見つけたらどうすればいいのか。
「泳いでいて、イルカを見つけたら、すぐに海からあがってください。気がつかないうちに近くまでイルカが来た場合は、イルカの好奇心を誘うような激しい動きをせず、静かに陸へ移動しましょう」
イルカは遊んでいるつもりでも、人間にとっては命取りになる可能性もあるのだ。