石井久美子さん 撮影/只石布久美

 ねこ背、巻き肩、反り腰を劇的に改善させるストレッチが、今注目を浴びている。考案者は、世界最高峰のバレエ団で活躍するバレエダンサー・石井久美子さん。このほど初の著書である『胸椎伸展10分寝るだけストレッチ』(主婦と生活社)を上梓した。

効果と実感値が高いから続けたくなるストレッチ

私はもともと身体がものすごく硬いんです。そのせいか、高校生のころから腰痛に悩まされるように。実は、日本のプロのダンサーには、日本人特有の身体のクセが原因で腰痛で苦しんでいる人はとても多いんです

 石井さんは17歳でロシアの名門バレエ学校に留学する。

 超一流のバレエダンサーたちと切磋琢磨する中で、日本人の踊りが「平たんで深みがない」といわれる理由や、「ロシア人ダンサーは、腰痛とは無縁」ということに着眼し、彼らと自分の身体の使い方は何が違うのか、日々、観察と研究を重ねたという。

「バレエでは背中を反らす動きがとても多いのですが、私はいつも、腰から反っていたんです。腰で反るから、腰が痛くなる。では、背中から反ってみたらどうだろうと。背骨の胸あたりの部分に、腰痛にならないヒントや、深みのある踊りの秘密があるのではないかと思いついたのです」

 石井さんが注目したのは、「胸椎」といって、背骨の首のつけ根下から上腹部までの、12個の椎骨部分。

首も腰も、曲げたり反らしたりする部分ですが、胸はどうでしょう? 一説によると、胸椎の可動域は30度。ただでさえ可動域が狭いのに、普段から動かすことがないため、ガチガチに固まっているケースがほとんどなのです

 石井さんは試行錯誤の末、胸椎をしなやかにする方法を考案する。それが「胸椎伸展」というストレッチだ。

胸椎をしなやかにすることで私の踊りは劇的に進化し、腰痛とも無縁になったのです。これを『腰痛がなくなるエクササイズ』として動画で発信したところ、数多くの反響をいただきました。『ぐっすり眠れるようになった』『スタイルがよくなった』などの声も数多く寄せられました」

 今まで動かしたことのない部位を刺激することで、あらゆる不調が改善。

背骨の胸から腰にかけた骨がガチガチに固まって使えていないと、腰痛だけでなく、身体にあらゆる不具合を起こすことが判明!イラスト/原裕子

始めてすぐに感じる一石十鳥の圧倒的な効果

 胸椎伸展は、「前屈み」の姿勢を強制的にリセットするストレッチだ。

 スマホを見ている姿勢を思い浮かべてみてほしい。顔を前に突き出し、首が前に出る。これだけで、慢性的な首や肩のこり、頭痛の原因になる。それが常態化すると、背中が丸まり、肩は巻き、ねこ背に……。

 結果、胸や肺が圧迫され、呼吸が浅くなる。呼吸が浅いと、酸素が十分に行きわたらないので、血流が悪くなり、当然、自律神経にも乱れが生じて、不眠、うつ、倦怠感、疲労の原因につながる。

 胸椎伸展は、前屈みの姿勢を劇的に改善させるエクササイズ。得られる主な効果効能は、次のようなものだ。

(1)反り腰の改善……胸の骨が動き出すので、ストレッチ後すぐに腰のストレスが軽減。

(2)ねこ背・巻き肩の改善……胸が強制的に広がり、起き上がった後、背中が自然とスッと伸びる。

(3)美しいデコルテをつくる……デコルテ部分が開き、上向きになる。それにつれてバストトップの位置がアップ。

(4)深い呼吸ができる……グッと胸が広がるので、ストレッチ後は肺いっぱいに酸素が入ってくる。頭や目までスッキリ。

(5)自律神経が整う……固まっていた背骨が柔軟性を取り戻し、深い呼吸ができるようになることで、自律神経のバランスも整う。寝つきの悪さや眠りの浅さの改善にも役立つ。

 そのほか、ウエストが細くなる、顔が小さくなる、むくみが取れるなど、実践者からうれしい声が続々と寄せられている。

 毎日たった3分寝るだけで、これだけの効果が得られるのだから、やらない手はない!

拷問!?ストレッチを実践

今まで動かしたことのない骨を伸ばすイメージ

 胸椎伸展は、1日3~10分、寝転ぶだけ。唯一のポイントは、道具(フォームローラー)を使用すること。

効かせたい部位に、確実に、効果的にストレッチをかけるには、道具を固定して負荷をかけるのが手っ取り早く、効率がいいのです

フォームローラーは硬すぎず、表面が適度にやわらかい素材のものがおすすめ。石井さん愛用のメーカーは「トリガーポイント」 撮影/只石布久美 ※画像をクリックするとAmazonの商品ページにジャンプします。

 道具を使わずにやろうとすると、つい自分の動かしやすい部位を使ってしまう。

「胸を反るストレッチをしていても、胸が硬くて動かないので、腰が反ってしまうのです。そうなると腰に負担がかかってしまい逆効果なので、私は必ず道具を使います」

 ちなみに、胸椎伸展は、身体に柔軟性のあるプロのダンサーでも、初回は「拷問かと思うほど痛い」という。

 これまで何十年も動かしていなかった部位は、筋膜が癒着してガチガチに固まっている。それをじっくり動かすので、どうしても痛みが出てくるのだ。

 しかし、この程度の反る角度ではケガはしないのでご安心を。首や背中が折れそうな感覚を味わうかもしれないが、自分が思うほど実際はたいして反っていないのだ(鏡に姿を映してみれば一目瞭然)。

 注意点としては「痛い!」と感じると、筋肉に緊張が走って息を止めてしまう人が多いので、そんなときは落ち着いて「息を吸って、吐いて」を繰り返すこと。

「今まで動いていなかったところが動いている」と思って、意識的に、痛い部位の力を抜こう。痛かろうが苦しかろうが、息を吐いて、痛みを解放する。そうすることで、骨がしなって、しだいに、しなやかにやわらかくなっていく。

 できる範囲でコツコツと。「継続は力なり」で毎日行うことが重要だ。

1.ヨガマットの上に座って足をヨガマットの幅にセットし、
膝を立ててあおむけに寝る

1.ヨガマットの上に座って足をヨガマットの幅にセットし、膝を立ててあおむけに寝る 撮影/只石布久美

2.フォームローラーを配置するため腰を上げる

2.フォームローラーを配置するため腰を上げる 撮影/只石布久美

3.腰を上げて、一番下の肋骨にフォームローラーの下側の端を当てる

3.腰を上げて、一番下の肋骨にフォームローラーの下側の端を当てる 撮影/只石布久美

4.フォームローラーの上に身体をおく。後頭部がヨガマットについた状態をキープする。身体が硬いと、お尻が浮くが、最初は浮いたままでOK

4.フォームローラーの上に身体をおく。後頭部がヨガマットについた状態をキープする。身体が硬いと、お尻が浮くが、最初は浮いたままでOK 撮影/只石布久美

5.両腕を上げて両手を頭の後ろで組む。ゆっくり息を吐き出しつつ、股関節の力を緩め、身体がしなってくることを感じながらお尻を徐々に沈めていく

5.両腕を上げて両手を頭の後ろで組む。ゆっくり息を吐き出しつつ、股関節の力を緩め、身体がしなってくることを感じながらお尻を徐々に沈めていく 撮影/只石布久美

※肩は床につかなくても大丈夫なので、まずはお尻を床につけられることを意識
※通院中の人は医師の許可を得て行ってください

胸椎伸展ストレッチQ&A

Q.お尻をムリにつけようとすると首が反りすぎて痛みます!

A.お尻を床につけるために首を反らせることはしないこと。少しずつお尻を沈めてください。頭とお尻の重みで胸椎を伸展させていくことを目指します。
 難しいようであれば、最初は頭の下に本や枕を置いて、後頭部をつけることを意識しましょう。

Q.お尻をムリにつけようとすると首が反りすぎて痛みます!イラスト/原裕子

Q.終わったら動くのが怖くて、フォームローラーが取れません!

A.みなさん、そうおっしゃいます(笑)。しっかり背骨が伸びている証拠です。急に動かそうとせず、とにかくゆっくりと息を吐きながら身体を起こしましょう。
 また、終わった後に、腰があまりに痛む場合はフォームローラーを当てる位置が下すぎる可能性が。フォームローラーの位置が下すぎないか、曲がっていないか確認して行ってみてください。

Q.終わったら動くのが怖くて、フォームローラーが取れません!イラスト/原裕子
石井久美子さん●1994年生まれ。ロシアの国立ワガノワバレエアカデミー卒。マリインスキー・バレエ団にアジア人女性として初めて入団し数多くのソリスト役を演じる。日本でバレエ学校を主宰、2023年にはオンラインバレエスクールも開校し、大好評を得ている。撮影/只石布久美

教えてくれたのは……石井久美子さん●1994年生まれ。ロシアの国立ワガノワバレエアカデミー卒。マリインスキー・バレエ団にアジア人女性として初めて入団し数多くのソリスト役を演じる。日本でバレエ学校を主宰、2023年にはオンラインバレエスクールも開校し、大好評を得ている。

石井久美子さんの著書『腰痛・ねこ背・巻き肩を解消!胸椎伸展10分寝るだけストレッチ』(主婦と生活社)※画像をクリックするとAmazonの商品ページにジャンプします。

取材・文/萩原曜子