佐藤夕美子

 放送中の『虎に翼』が好評だ。伊藤沙莉が日本で女性初の弁護士と裁判官を演じ、ドラマチックな物語はいよいよ大団円へと向かっている。60年以上にわたり、お茶の間の朝をワクワクさせてきたNHK連続テレビ小説。国民的ドラマといわれる同番組で、かつて主人公として出演していた人たちに当時とその後の“人生ドラマ”を振り返ってもらった―。

 '97年度後期放送の『甘辛しゃん』でヒロインを務めたのは、佐藤夕美子

 ヒロインの父が亡くなり、母親は酒造家の当主と再婚。これをきっかけに、ヒロインが杜氏を目指す物語で、今でも根強い人気を誇っている。

母親役の“全力ビンタ”宣言

 当時、佐藤は大学1年生。朝ドラの撮影のため、入学早々、休学したという。

「大阪で撮影していたので、約1年10か月間、初めての1人暮らしを経験しました。その期間はみなさんが支えてくれて、全員がお父さん、お母さんという感じ。スタッフさんが野球大会を開いてくれたり、母親役の樋口可南子さんも声をかけてくれたり。家政婦役の紅壱子(くれない・いちこ)さんも、私の声に異変を感じると“アメちゃん舐めや”と飴をくれたりと、常に気にかけてくれていました

 放送から間もなく27年となるが、今でも忘れられないシーンがあって……。

「お母さんに、義理の弟への恋心を打ち明けるシーンがすごく印象に残っています。今までずっと我慢してきた感情を“いけないとわかっているけど……”と、お母さんに向き合って言葉にして、頬を叩かれるんです」

 撮影前、樋口からある言葉をかけられたという。

「“顔が赤くなるから、お芝居で力を入れないこともあるけど、私は叩くよ”と。それを聞いて“全力で来てと言ってくださっているんだ!”と思って、すごくうれしかったです。実際の撮影では“頬が痛い”のではなくて、心がすごく痛かった。芝居だけど芝居じゃないような一瞬でしたね」

現在は子ども向けの活動も

 その後、佐藤は'18年度前期の『半分、青い。』で朝ドラにカムバック。ヒロイン永野芽郁の幼少期の担任役を演じた。

「私がヒロインをやったときは、楽しんではいましたが、心の余裕はまったくありませんでした。でも、約20年ぶりの朝ドラでは、当時の自分に思いをはせながら、周りの状況を見る余裕もあって。あと、撮影機材の進化にも感動しっぱなしでした(笑)」

 現在はドラマや映画に出演しながら、創作演劇の“ファシリテーター”としても活動している。

主に子ども向けに行っていて、表現することで楽しさや学びを得てもらうのが目的です。じゃんけん遊びや鬼ごっこから始まり、ジェスチャーゲーム、伝言ゲームとステップアップして、ワンシーンを写真で表現してみたり、何かになりきってみたり、少しずつお芝居を紡いでいきます。セリフや役を与えるのではなく、普段の会話などから、子どもたちに自由に表現してもらうのです」

1997年放送『甘辛しゃん』(NHKアーカイブスより)

 そこに参加するのは俳優を目指す子どもたちだけではない。小学校の授業としてワークショップをしたり、さまざまな国籍や年齢の人や、ハンディキャップを持つ人も参加しているという。

「初めて会ったときは目も合わせられなかった子が、少しずつ大きな声で話せるようになったり、主張や提案ができたり、誰かを受け入れることをできるようになったり。そうした子どもたちの成長を間近で感じられることが、すごく幸せです

 現在は小学6年生の娘と小学1年生の娘の母でもある佐藤。

私が小中学生のころに出ていた舞台の映像を、私の母が娘たちに見せることがあるのですが“ママ、すごいじゃん”と言ってくれます(笑)。今の私が出ている作品よりも、娘たちと近い年齢のころの私のほうが響くみたいで。娘たちは、俳優や芸能の仕事は今のところ興味がないみたいですが、これからやりたいことを見つけたときには全力で応援してあげたいです」