古村比呂

 放送中の『虎に翼』が好評だ。伊藤沙莉が日本で女性初の弁護士と裁判官を演じ、ドラマチックな物語はいよいよ大団円へと向かっている。60年以上にわたり、お茶の間の朝をワクワクさせてきたNHK連続テレビ小説。国民的ドラマといわれる同番組で、かつて主人公として出演していた人たちに当時とその後の“人生ドラマ”を振り返ってもらった―。

歌を披露してオーディション突破

「私が選ばれたのは“変わっていて面白かった”ことが要因のひとつだったようです」

 当時のオーディションをそう振り返るのは、'87年に放送された『チョッちゃん』でヒロインの北山蝶子役を演じた古村比呂(こむら・ひろ)。ドラマの原作は、黒柳徹子の母でエッセイストだった黒柳朝(ちょう)さんの自伝『チョッちゃんが行くわよ』。昭和初期から戦後までが描かれ、ヒロインが直面するさまざまな苦難を持ち前の明るさで乗り越えていく物語。古村は『チョッちゃん』のオーディションで、自身が作詞をした歌を披露したという。

「歌があまり得意ではなかったので、友達が作った曲に自作の歌詞をつけて歌いました。その曲なら、審査員は知らないはずなので、うまいもへたもわからなかったんじゃないかと(笑)。それも面白かったと評価されたようです」

 合格発表後、スケジュールはすぐに埋まっていった。

「合格を伝えられたときは本当にうれしくて、夢を見ているような感覚でした。ただ喜んでいる暇はなく、すぐに記者会見があるなど、あれよあれよとスケジュールが埋まって、気づけば熱を出してしまいました(笑)。気持ちに身体が追いつかなかったんでしょうね」

「がんとの共存」

 夢だった撮影現場はというと─。

「キャストは個性豊かな人が多く、1人が笑うと、連動してみんなも笑ってしまうような、リラックスした楽しい現場でした」

 放送から25年後の'12年、ある共演者と偶然、再会する。

「蝶子の夫役だった世良公則さんと駅でお会いして、それを機に連絡を取り合うようになりました。コロナ禍で、お会いする機会は減ってしまったのですが、コロナ前は世良さんのコンサートに行ったりもしました」

 再会を果たしたこの年、古村は子宮頸がんを患う。その後、'17年の3月に再発し、11月末には肺とリンパ節への転移が判明。'23年1月には再びがんが見つかり、現在もがんの治療に向き合っている。YouTubeやブログでは自身の経験を生かし、がんにまつわる情報を発信している。

1987年放送『チョッちゃん』(NHKアーカイブスより)

「私も最初は人ごとだと思っていましたが、40代はがんを患う人が多いんです。私の活動がきっかけで、がんへの備えをする人が増えればうれしいですね。“私もがんです、一緒に頑張りましょう”とコメントをくださる人もいて私自身も励みになっています

 今後の目標についても、力強く語ってくれた。

「お芝居はまたやりたいですね。もちろん体調とも相談をしながらですし、受け入れる側の態勢が整うのも時間がかかってしまうと思います。ただ、諦めてはいません!

 がんと共存しながらも社会生活や仕事もできるということを知ってもらいたいですし、私が身をもって体現したいと思っています」

 苦難を乗り越え、前を向こうと奮闘する“チョッちゃん”は今も健在だ。