栃木、長野、群馬の各県で凶悪な強盗事件が相次ぐなど、何かと物騒なニュースが目立つ今日このごろ。事実、警察庁が公表した去年1年間の犯罪情勢によると、一昨年と比べ、殺人・強盗の割合が今年は30%増加しているとの報告がある。
なかでも危険視されているのが山間部の一軒家で、5月14日には福島県の住宅で1人暮らしの60代女性が強盗被害に遭っている。
「夏の暑さが和らいでくると、窓を開けっぱなしにする人も。夏の終わりから秋は空き巣被害が多発する傾向です」
と言うのは、平松建築社長で家の防犯対策に詳しい平松明展さん。
比較的田舎で増加傾向の強盗事件
「地方のほうが危機感が低く、無施錠が習慣になっていることも多い。特に家と家が離れていて周りに何もないような場所は人目につきにくく、泥棒にとっては仕事がしやすい」
どんな防犯対策が有効なのか。
「目立ちたくないというのが泥棒の心理。逆を言えば、泥棒対策のためには家を目立たせればいい」と平松さん。そのためにできる工夫があるという。
「まずは人目につくようにすること。家の周りの生け垣や塀は外からの視線を遮らない程度の高さにする、防犯ライトや防犯カメラの設置も有効です。もう一つが音で、家の外回りはコンクリートではなく防犯砂利を敷けば、歩くとじゃりじゃり目立つ音がするので泥棒は嫌がります」
防犯性と居住空間の快適性、そして予算の兼ね合いを考える上でも、泥棒対策は新築やリフォームの際に行うのがベスト。
「2階も泥棒が入る」
泥棒対策で見落としがちなのが勝手口で、つくるのは極力避けたほうがいい、と平松さん。
「勝手口は上げ下げ窓がついていることが多くありますが、勝手口の鍵がかかっていても、窓が開いている状態だと裏から手を回して簡単に外せてしまうこともある。私もお客様にはなるべく勝手口をつくらないようにおすすめしています」
カーポートや物置の配置場所にも配慮が必要だ。場合によっては2階へ侵入させる足がかりになることがあると指摘する。
「2階はどうしても危機意識のガードが下がりがち。泥棒に入られるわけがないと思って雨戸を付けなかったり、窓を開けっぱなしという家も多い。でも身軽な人間ならさっと上がれてしまうので、2階といえど注意をする必要はある。2階も泥棒が入ると想定しておいたほうがいい」
泥棒対策はしたくとも、新築やリフォーム時となるとなかなかタイミングが難しい。しかし住み慣れた家にもできることはあるという。
「まずは泥棒が侵入しずらく、かつ仕事がしにくい家にすることが大切。最近の家は鍵が二重になっているのが一般的ですが、少し前の家だとそうでない場合もある。二重の鍵も今は簡単に後付けできるものがあるので、ぜひ検討を。
高い塀や垣根で見通しが悪くなっているのなら、それを思い切って取ってしまうのもいいでしょう。そして、侵入の危険性が高いのが窓。昔ながらの家は侵入しやすい大きな窓が多く、泥棒に好まれがちなんです」
だが、既存の窓にもできる防犯対策はある。
まずは手軽にできる防犯対策から
「窓には防犯フィルムがおすすめ。割れにくくなり、また防犯フィルムが張ってあるというだけで泥棒にとっては一手間増えることになるので嫌がられます。防犯シャッターを設置すればさらに安心です。
その上でシャッターを毎日きちんと閉めるのを習慣にして。この時季はまだ暑くてシャッターを開けっ放しにしがちですが、風が抜ける通風の防犯シャッターもあるので、そういったものを選択するのもいいですね」
窓ガラス用の防犯フィルムはホームセンターのほか通販で購入可能。安いもので2千円台〜と低コスト、かつ自分で張れるものも多く、手軽に防犯対策ができるのが利点だ。防犯シャッターは数万円〜とコストはかさむが、防犯効果は高く、加えて台風など災害対策にも役に立つ。
防犯ライトやカメラも泥棒対策に効果を発揮。こちらもさまざまな種類がある。
「人感センサー付きのライトなら夜間に人が近づくとパッと明かりがつく。後付けができるものが多くあるので、比較的手軽に始められます」
さらに近年は防犯対策グッズの進化が目覚ましい。
「IOTでスマートフォンと連動して玄関を施錠したり、照明をつけたり、カーテンを開け閉めできたり、シャッターを下ろすこともできる。
防犯カメラもただ撮影・録画するだけでなく、今は画像認証で不審者だけを特定して写真や録画で記録したり、というところまできています」
これらも後付け可能で、例えばSwitchBotは数千円〜で購入可能。設定さえすれば、自分のスマホで制御可能に。
「鍵の閉め忘れはもちろん、設定をすればカーテンを毎日自動で閉まるようにすることもできます。また旅行などでしばらく家を留守にするとき、外出先からカーテンを開け閉めしたり、夜間ライトをつけたりすれば、それだけで立派な泥棒対策になります」
ここまで徹底して対策すれば、防犯は万全! と思いきや──。
「残念ながら、絶対に泥棒が入れない家なんて実は、ありません」
と、平松さん。時間と手間をかければどんな家でも入れてしまうそうだ。
「だからこそ危機意識は必要。泥棒が面倒くさがる家にすれば防犯のリスクはかなり下げられる。できるところから始めてみては」
教えてくれたのは……平松明展さん●平松建築株式会社代表取締役。建築歴23年。2009年創業。YouTube チャンネル「職人社長の家づくり工務店」(登録者数は9万人以上)も配信。著書には『住まい大全 ずっと快適な家の選び方、つくり方、暮らし方』(KADOKAWA)がある。
取材・文/小野寺悦子