八木真澄 撮影/矢島泰輔

「お金があることと幸せは比例しないと思っています」

 そう語るのはお笑い芸人のサバンナ・八木さん。先頃、低賃金・高物価時代を生き抜く心構えと節約術をまとめた『年収300万円で心の大富豪』を上梓し、その中でも幸せはお金ではなく心の持ちようだと語っている。

お金持ちが必ずしも幸せではないと気づく

「この業界には、売れてたくさん稼いでいる先輩もいれば、バイトしてる人間もいます。僕も相方と、ギャラの差が6倍ついた時期もあり、最初はうらやましい気持ちもあったんです。

 でも不思議と、お金を持っている人が必ずしも幸せそうには見えないし、バイトしてても幸せそうな後輩もいて。極端な例を見てきて自然とそう思うようになりましたね」(八木さん、以下同)

 多くのお金持ちと接する中で、彼らの行動パターンに気づいたのも大きかった。

「例えばハワイに行くにしても、正月にビジネスクラスで行く。家族連れなら200万円とかかかりますよ。住んでる家が数億円のお宅とかもあって、そういう家庭は教育費もかける。生活を維持するためにずっと稼ぎ続けないとダメなんで、お金持ちも実は大変なんやなって思いました」

 高級マンションに住む先輩や、テレビ番組の豪邸訪問の仕事を通して、さらにその思いは強くなった。

「お金持ちが住む家って、タワマンの高層階にあったり、エントランスも大きくて、建物の入り口までのストロークがめっちゃ長いんですよね。

 コンビニも家の近くにないし、お風呂も大きいからお湯をためるのに時間がかかる……。あれ、これひょっとして不便なんちゃうのって(笑)」

 またお金持ちは、家も車も時計もすでに手に入れているので、「欲しいものの選択肢がほとんどなくなってドキドキもしなくなる。そんな人生、楽しいのだろうか?」と思うようになったという。

見栄を張らずに“お得”を突き詰める

 お金はあるに越したことはないし、実際、八木さんもお金を稼ぐことで幸福度が上がっていった時代があった。

「大阪時代は年収が110万円ぐらいやったんですよ。そんときは、月の食費は1万5000円と決め、1日3食を500円に抑えないとダメで。

 炊飯器でご飯を炊いて冷凍して、楽屋には弁当を持参。移動はすべて原付バイクで、テレビ欄はコピーしてもらって……。このゾーンから抜けたときは急激に幸福度が上がりましたね」

 月収が5万円から10万円、20万円と増える中で、食事も100円の菓子パンから600円のお弁当、さらにその上へとレベルが上がっていった。

「ただ、月収30万円が僕の中では幸福度の天井でした。それを超えると使えるお金は増えても、幸福度は変わらなくなったんです」

 10代のころから、モノに対して“その値段分の価値があるか”という費用対効果で見極める習慣がついていたという八木さん。収入が増えてもそれに踊らされずに地に足のついた生活を送ってきた。

 自著の中でも、「週刊の漫画雑誌は1週間ズラして安く読む」、「高価なウイスキー『白州』は空き瓶に『トリス』を詰め替えて気分を味わう」、など独特な節約術を紹介している。ほかにも倹約術を伺うと、

「外食費は、東京で飲みに行って2軒はしごしても3000円超えないです。ボトルを入れれば安くすむんですよ。あとはおつまみ1品150円ぐらいの激安居酒屋と、月300円払えば食事もお酒もお得になる“サブスク居酒屋”を行きつけにしています」

 家族が住んでいる大阪でも、「たぶん日本でいちばん安い」という激安スーパーを利用して食費を抑えている。

「結局、知ってるか知らないかがデカいんです。そのモノの値段の相場感を頭に入れておくことと、お得なことを知ったら10年間同じことを積み重ねることが大事。

 大阪時代に地下鉄の回数券があって、3000円で3300円分乗れたんです。10年続けるとすごい得になるっていうね。でもなぜかみんなやらないんですよ。居酒屋でもボトルで頼むほうが安いのに、グラスで頼むのもわからないし」

 “絶対お得”にもかかわらず、多くの人がやらなかったり知らないと感じることが多かったのが本を書くきっかけにもなったという。

「まずは芸人に教えたかったんです。楽屋だと、“また言ってるわ”って聞いてもらえないんで(笑)」

八木真澄 撮影/矢島泰輔

国の制度を利用しないのはもったいない

 八木さんは先日、難関のFP1級の学科試験に合格、9月にはその実技試験に挑む。その勉強の過程で世間的にはあまり知られていないお得な制度を知ったという。それが「労災保険の特別加入制度」。

「会社員(労働者)が対象だった労災が、芸人や一人親方でも加入できて、この11月からはフリーランスの人も対象になるんです。仕事で家を出て帰るまでの事故が全部保障されるんですよ」

 八木さん自身も、早速お世話になった。

「仕事でゲンゴロウを食べて喉に詰まらせ病院に行った際、労災が適用されて治療費がかからなかったんです。家族がいる場合は、亡くなったら遺族が保障されるので対象の人は入ったほうがいいです

 他にも、個人型確定拠出年金(iDeCo)や、個人事業主なら小規模企業共済もおすすめだと教えてくれた。

「国の制度は使ったほうがよくて、それでフォローできないところを民間の保険でサポートするのがいい。保険は、意外なことが適用されることもあるので細部まで目を通しましょう」

 さまざまな情報があふれているからこそ、それをどう見極めるかも大切。

「例えばNISAは、“税制が優遇されるから”“周りがやってるから”で始めるのはリスクだと思っていて。それよりも“自分に適しているか”“これから上がるのか下がるのか”などをしっかり意識して本人が納得してやるのが大事だと思います」

 このご時世を乗り切る秘訣を伺うと、「物価高だろうが工夫はいくらでもできる」とキッパリ。

「メーカーをかえて安いものを買うとか、なんぼ家賃を上げられても高いところに住まなきゃいいんだし。僕も家族は住み慣れた大阪におり、東京は働くところと割り切って狭い家を借りてるんです。いまはFaceTimeとかでオンラインでつなぎっぱなしにできるから家族と離れてる気もしないし」

 見栄を張らずに「お金がない」と言ってしまえば生きるのがラクになると語る。

「高いゾーンに入るとずっと高いゾーンにいなきゃと思うんですよね。年収1000万円の人なら、お父さんがゴルフ行くのに軽自動車じゃ行きにくいからある程度の車に乗る、お店もワンランク上になって、旅行だっていいホテルに……ってぜんぜんお金が残らない。自分をどうよく見せるかとか、負けないぞって張り合うんじゃなくて、自ら安いゾーンにいかないと。もっと言うとそのレースから降りたほうがいいんです

八木真澄 撮影/矢島泰輔

家なら髪のカットもマッサージもタダ

 老後を見据えては、家庭内でできるサービスを増やすのもポイントだという。

「僕は妻に髪の毛を切ってもらってるんです。失敗してもいいからってやり出して、4~5年たったら上手に切れるようになったんですよ。美容師の見習いの修業より妻のほうが長なってます(笑)」

 ぜいたくに感じるお寿司やマッサージも自前だ。

「1万円のお寿司屋さんに行くお金はないんで、それならばシャリとネタで作ろうと。そんな簡単ではなかったんですけど、自分が納得するものは作れたんです。マッサージも10分1000円はするんで、60分を夫婦でお互いにやったら1万円以上浮くじゃないですか。

 あと、“キャンプ”って呼んでるんですけど、旅行気分を味わいたいときは枕と足の向きを逆にして寝ると雰囲気変わりますよ(笑)」

『年収300万円で心の大富豪』(KADOKAWA)著者=八木真澄※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします
八木真澄●1974年生まれ、京都府出身。立命館大学産業社会学部卒業。高橋茂雄とお笑いコンビ・サバンナを結成。1000個以上のギャグを持つ。'23年、2級ファイナンシャルプランニング技能士取得。近著に『年収300万円で心の大富豪』(KADOKAWA)。

取材・文/荒木睦美