2024年8月下旬、弟子の段一郎に“青空稽古”をつける市川猿之助

 かつて『劇団四季』で活躍した後、歌舞伎の舞台にも立っていた俳優・下村青さんが、8月15日に急逝した。

「市川猿之助さんはショックを受けているでしょうね。下村さんは猿之助さんと親交が深く『スーパー歌舞伎2』に何度も出演したり、猿之助さんが主宰していた演劇プロジェクトに参加していましたから」(スポーツ紙記者、以下同)

 2人が最後に共演したのは、2023年の5月から明治座で行われていた『市川猿之助奮闘歌舞伎公演』だった。

「公演中の5月17日、猿之助さんは『女性セブン』に自身のハラスメントを告発する記事が掲載されることを知って将来を悲観し、自宅で父親の市川段四郎さんと母親の家族3人で一家心中を図るも、猿之助さんだけが死にきれず、翌朝になって自宅にやって来たマネージャーたちに保護され、後に自殺ほう助の疑いで逮捕されました」

 歌舞伎の名門・澤瀉屋の看板俳優で、ドラマや映画といった現代劇にも多数出演し、スター俳優だった猿之助。彼が起こした前代未聞の事件は大きな波紋を呼んだ。

「公演中だった明治座の舞台は当然、降板。封切り目前だった出演作の映画『緊急取調室』も公開延期に。総合演出を務めて自身も出演予定だった歌舞伎版の『鬼滅の刃』も公演中止となりました」

猿之助との再共演を夢見ていた下村さん

 猿之助との縁で舞台に招かれていたこともあり、心中事件後に出演予定だった歌舞伎の役を外された下村さんは、自身のSNS上で、

《皆さんと、またご一緒できる日まで、頑張ります》

 と投稿するなど、再び歌舞伎の舞台に立つことを望んでいたようだ。

「生前の下村さんは、猿之助さんとの最後の共演が中途半端な形で終わってしまったことを悔しがっていました。そのため、猿之助さんが舞台復帰を果たして、また一緒に歌舞伎の舞台に立つことを夢見ていたそうです」

 2023年11月、猿之助には懲役3年、執行猶予5年の有罪判決が下る。以後、事件を起こした自宅に戻り、ひっそりと暮らしている。

「公判中の供述で“許されるのであれば歌舞伎界に戻り、舞台に立ちたい”と語るなど復帰の意思を見せていました。将来、猿之助の名跡を継ぐとされる市川團子さんに当時猿之助さんが指導していたことを、猿之助さんのいとこで同門の香川照之さんが明かしています。しかし、本人の口から今後の活動に関するコメントは出ていません」

 復帰を待っていた盟友の死に猿之助は何を思うのか。

ベンチに腰を下ろした猿之助の隣には

2024年8月下旬の猛暑の中、木陰になっているベンチに座って、台本を読む市川猿之助と弟子の市川段一郎

 下村さんの死から数日後の8月下旬。太陽が照りつける昼時に、自転車に乗って、自宅敷地内から外に出かける猿之助を目撃。

 ベースボールキャップをかぶり、サングラスをかけて、首元にはタオルを巻くなど暑さ対策万全の猿之助は、タンクトップに半ズボンというラフないでたち。自転車の前カゴには釈放後に飼い始めた愛犬の姿もあった。

 猿之助が向かった先は、彼の自宅からほど近い公園。木陰のベンチに座る彼の横には、弟子にあたる歌舞伎役者・市川段一郎の姿があった。

 かまってほしそうに飼い主に体を寄せる飼い犬をよそに、猿之助は表紙に『双蝶々曲輪日記〜引窓』と書かれた台本らしき冊子を眺めながら段一郎と会話をしている。10月からその舞台の全国巡業が始まることから、どうやら猿之助は同舞台に出演する弟子のために演技指導を行っているようだった。

 セミの鳴き声が響く中、ベンチに座りながら両手を上げるなど歌舞伎の演技らしき動作を続ける段一郎のそばで、アドバイスをするように語りかける猿之助。2人の“青空稽古”を遠巻きに眺めること二十数分。猿之助に声をかけてみた。

 取材と察したのか、猿之助はサングラス越しに記者を見つつ、悠然と無言のままスマホのカメラをこちらに向けた。

猿之助が記者に放った“ひと言”

2024年8月下旬、取材時の市川猿之助と市川段一郎。表情をこわばらせる猿之助と対照的に、飼い犬は記者にじゃれるなど人懐こかった

─舞台への復帰が決まったのでしょうか?

 猿之助に対する問いかけに、横にいた段一郎は、

「まったく関係ございません。今は普通に過ごしておりますので……」

 と、猿之助を守るように横から遮りながら否定。その間、ベンチから立ち上がり、歩き出す猿之助。段一郎も彼の後を追うようについていく。

 歩き出した猿之助に再度、記者が声をかけると、無言だった猿之助が口を開き、

「やめてもらっていいですか」

 と一言。続けて段一郎に、

「車を動かしておいて」

 と指示。そのまま2人と一匹は公園から去っていった。

 復帰についていっさい語らずとも、弟子に稽古をつけるなど歌舞伎とは向き合っているようだが─。

「10月から始まる『双蝶々曲輪日記』は“萬屋”の中村錦之介さんと、その息子の中村隼人さんが中心の巡業。段一郎さんはほかの門流の稽古に入る前に、師匠である猿之助さんから演技の指導を受けたのだと思います」(梨園関係者、以下同)

2024年4月、子犬を自転車に乗せて、自宅から出てくる市川猿之助を目撃

松竹は「復帰を論じる状況ではない」

 事件後も依然として澤瀉屋の精神的支柱を務める猿之助。彼を必要としているのは一門の弟子だけではない。

「猿之助さんは、低迷が続く歌舞伎界で数少ない、チケットをさばける人気役者。歌舞伎興行を取り仕切る松竹側としても必要な存在ですから、執行猶予期間中であろうとも猿之助さんは歌舞伎に関わり続け、再び歌舞伎の舞台に立つことも大いに考えられます」

 松竹は猿之助の弟子への演技指導について把握しているのか。質問を送ると、

「弊社としては認識いたしておりません。特に関与するものでもございません」

 続けて猿之助の歌舞伎界復帰については、

「現時点ではまだ復帰を論じる状況ではないものと考えております。本人も今後の進むべき道を時間をかけて考えているかと思いますが、それ以上は現時点ではご回答いたしかねます」

 推移を見守り続けるという回答にとどまった。

 再び猿之助が表舞台に立つ日がくるのは、いつ─。