一見すると仲の良い夫婦だが、レス状態。離婚は考えていないため、婚外恋愛許可制とする─。そんな30代夫婦の姿を描いた漫画を原作とした『1122(いいふうふ)』が今夏、Prime Videoで実写化。大きな話題となった。
レス夫婦の熟年離婚が増加
「データを見るかぎり、日本は大半の夫婦がレス状態。中高年同士で会話しても表向きか、本音はさておき、“夫婦生活はもういい”と答えます。しかし実際には“レス”で悩んでいる男女は相当多いと感じます」
と話すのは夫婦仲アドバイザーの三松真由美さん。
2022年に離婚した夫婦で、同居期間が20年以上だった「熟年離婚」の割合は23・5%となり、過去最高の数字となった。寿命が延びて「長い老後」を考えたとき、スキンシップも愛情もない相手とはムリ……そう考えるのは自然の流れ。だが、子どもがいたり、世間体を気にしたり、はたまた経済面のことを考えると離婚まではできない場合、互いの中でくすぶる異性への恋愛願望や性欲を「公認」もしくは「黙認」という形で処理するケースも実際にあるという。
「レスの夫婦だと、もう相手の身体が生理的に受け入れられない、ごめんなさいというケースがあります。相手を性の対象として見られないから、性欲の発散は外でお願いします、という人も。女性は家事や子育て、介護などで忙しいですし、更年期などもあって夫とはそれどころではないというのが実情。あとは、過去に夫婦どちらかが浮気をしていた場合、“あなたがしたんだから、私もいいでしょ”という開き直りがあったり、長く相手の親を介護しているなどして“負い目”がある場合なども、“暗黙の了解”として浮気を互いに認めるという素因に」(三松さん、以下同)
三松さんが相談依頼のあった実際の例を紹介する。
妻の不倫見て見ぬふりのワケ
A子さんは40代後半、30代の年下男性と不倫中。以前、夫が1年ほど不倫をしていたが子どもが小さかったため、離婚を思いとどまった過去がある。夫の浮気はA子さんのトラウマとなり、その後レスとなった。
そのA子さんに気になる人ができたのは40代半ば。
「相談に来たのが、恋仲になってすぐのこと。本格的な不倫関係に至る前でした。不倫は許されるものではないから、彼との仲を進めたいなら離婚するなり、夫とはなんらかのけじめをつけたほうがいい、と伝えたんです」
これに対して「夫が先に裏切ったのだから、これでおあいこ」と言い、彼との仲に溺れていったという。
「お子さんはすでに自立して家を離れていたこともあり、A子さんはなんの気兼ねもなく朝帰りをしたり、一日中外出したりして家を空けるように。さらにはボディラインも締まり、メイクや服装もあか抜けていきました。そういったあきらかな変化に気づいても、家でごはんを作らなくなっても夫は一切、文句を言わないといいます」
夫婦関係を継続するための割り切りとはいえ、何らかのトラブルに発展することはないのだろうか。
「性欲を発散させる目的のはずが、いつのまにか外の恋人を本気で愛してしまうこともあるでしょう。肉体関係を持つことは、妊娠や中絶、出産のリスクも発生します。費用はどうするのか、産むなら誰が育てるのか、養育費はどうするかなどのさまざまな問題が起こる可能性もあります」
たとえ、うまく公認不倫の関係を続けられていたとしても、周囲からは違和感を覚えられる。まだ小さな子どもがいたとしたら、親が思っている以上に、親の心境やストレスなどを感じ取り、子どもは精神的な影響を色濃く受けてしまうことも。公認不倫をしてまでも、子どものために離婚を踏みとどまっていたとしたらそれは逆効果になりうるのではないか。
公認不倫で慰謝料の請求は原則NG
一般的には不倫が明るみに出れば、配偶者から慰謝料を請求されるリスクがあるが、公認不倫の場合はどうなるのだろうか?
「不倫が公認であれば、原則として慰謝料請求は認められません。なぜなら、不倫を認めているため、それによって侵害される利益がない、とみなされるからです」
と話すのは、リバティ・ベル法律事務所の弁護士である籾山善臣さん。公認しているのだから精神的損害はないと思われるため、「不倫や浮気を原因とする離婚」の慰謝料を請求することは難しいそう。しかし、これには例外もあるとのこと。実際の判例で、夫婦ともに互いの不倫関係を認める誓約書も作ったがその後、片方からの慰謝料請求が認められたケースがある。
「結婚する際に公認不倫の誓約書を作成していました。ただ、妻側は結婚したくて、言われたままに誓約書を渡したものだったんです。判例では、真意を反映したものではなく、弱みにつけ入り交付させたものだとして、夫へ300万円の慰謝料請求が認められました」(籾山さん、以下同)
公認不倫に至るには、意図せずそうなっていくということも多いという。パートナーの浮気に気づいたが指摘するタイミングを見失い、流れのなかで公認状態になってしまったという場合も。
「相手の不倫に対して心底納得しているわけではない、ということも多いのではないでしょうか。認めたはずの浮気に傷つき許せなくなり、浮気はやめてとお願いする。お願いされたパートナーは当然不満を感じる。夫婦の気持ちがバラバラに壊れていくことは容易に想像がつきます」
慰謝料請求をされてしまうケース
後になって公認が無効になり、慰謝料請求をされてしまうというケースは少なからずあるそう。
「無理やり、あるいは嘘をつかれて認めさせられた場合や感情的になっていた場合は、慰謝料が請求できることがあります。公認不倫の判決は細かな事実によって結果が大きく変動します。裁判となる場合、過去にさかのぼって夫婦の言動の変化や浮気相手とのことをつまびらかにしなくてはならず、精神的にもつらいものとなるかもしれません」
W不倫の場合、当人同士だけでなく、それぞれの配偶者から慰謝料を請求されるおそれもある。
「不倫はたとえ公認であっても、お金のみならず社会的信用を失います。例えば親族や知人が偶然、不倫現場を目撃すれば、批判の目を向けられることは避けられません。会社に知られ処分を受けたり、周囲と疎遠になってしまったりすることも考えられます」
公認でも非公認でも要は、「不倫は不倫」。リスクとは無縁ではないことを理解すべきということだろう。
三松真由美さん
恋人・夫婦仲相談所所長。夫婦仲、恋仲に悩む会員と「結婚・再婚」を真剣に考えるコミュニティーを展開。レス、ED、女性性機能に詳しい。恋愛・夫婦仲コメンテーターとしても活躍しており、講演、メディア取材、連載多数。
籾山善臣さん
弁護士。中央大学卒、2016年に弁護士登録。誰でも気軽に相談のできる敷居の低い弁護士を目指し、現在リバティ・ベル法律事務所に所属。離婚・男女問題、不倫・浮気、レスに関する繊細な事例も多く扱う。
<取材・文/中西美紀>