放送当初は各方面から絶賛されていた『虎に翼』が、ここにきて失速している。
相次ぐ“カミングアウト”
「日本で初めて誕生した女性弁護士の一人にして、初の女性判事、初の女性裁判長となった三淵嘉子さんをモデルとした主人公・寅子を伊藤沙莉さんが演じ、女性の生き方を丁寧に描いて好評だったのですが、戦後あたりから雲行きが怪しくなってきて……」
と話すのは朝ドラに詳しいライター。続けて、
「戸塚純貴さんが演じる轟太一が、ドラマ中盤の6月あたりで同級生の花岡(岩田剛典)に惹かれていたという設定が明らかに。8月16日放送回では轟が寅子に、恋人の遠藤(和田正人)を紹介し、カミングアウトするシーンも描かれました。それはいいのですが、ヒロインを含めた周囲の反応が明らかに現代風なんですよね。当時は同性愛が当然のことと受け止められる土壌はなかったはず」
8月21日放送回では性転換手術を受けたバーのママ役として、トランスジェンダーであることを公表している中村中が登場。SNSを中心に賛否を呼んだ。
「三淵さんをモデルにしたオリジナルストーリーといえども、三淵さんの人生を見たくて視聴している人々にとっては“何を見せられているんだ”感が強い。史実どおりにする必要はないけれど、再婚をした三淵さんを事実婚に改変したり、現代の女性が抱える問題を盛り込みすぎて、しらけてしまうんです」(同・ライター、以下同)
史実とはかけ離れたモデル像に違和感を抱く視聴者は多いよう。さらに脚本を担当する吉田恵里香氏についても。
朝ドラの“原点”とは
「吉田さんはしっかりと時代考証をしていて、実際にあった裁判や出来事をうまく脚本に入れ込み、ドラマ通の人たちを唸らせてきました。ただ、自身のSNSで長文の補足をすることが多い。トランスジェンダーの女性が登場した回には《当時、性転換手術はなかっただろ》などと視聴者の声が上がり、それに対して吉田さんは性別適合手術を受けた人がいた事実を『X』で説明しました。脚本家のSNSを見ないと疑問が残るというのは朝ドラとして不親切」
別のドラマウォッチャーは、朝ドラの原点についてこう指摘する。
「『おしん』や『春よ、来い』の脚本家、橋田壽賀子さんは、家事に忙しい主婦が手を止めないでもわかるようにドラマを作っているとおっしゃっていました。登場人物が説明口調なのはそのためです。
“ながら見”でも内容がわかり、朝忙しくて見られなかった主婦は、一息ついた昼間に再放送を見る。そんなコンセプトだったのに、ドラマ通が好む玄人ウケする作品を持ってこられても……」
ヒロイン・寅子へのこんな批判も。
「みんなが寅子を好きなのですが、視聴者には彼女の魅力が伝わってこない。岡田将生さん演じるパートナーの航一とも不釣り合いなんですよね。最初の夫、優三とはお似合いだったのですが。でも朝ドラヒロインというのはどんなに自分勝手でもわがままでも魅力がなくても、無条件にみんなの人気者という設定なんです(笑)」(同・ドラマウォッチャー)
9月の放送では、物語のクライマックスとなる原爆裁判も始まる。再び好感度が上がるのか、それともこのまま「さよーなら」となってしまうのか─。