「小学校2、3年のときかな?学習塾の課外行事でアイヌの集落に泊まりに行く機会があり、2週間ほど滞在しました。そこでアイヌというものを認識し、約20年を経てこの企画のオファーをいただいた。
これも縁だと思ったし、アイヌについてより深く知りたかったので“ぜひ、やらせてください”とお返事しました」
と話すのは、9月13日公開の映画『シサム』に主演している寛一郎。自然と調和し、共存しているアイヌの暮らしは東京生まれ、東京育ちの都会っ子の印象に残ったという。
垣間見える“肉体美”は撮影地で
江戸時代前期。蝦夷地と呼ばれた現在の北海道を領有したのは松前藩。主たる収入はアイヌとの交易品で、藩士の息子・高坂孝二郎(寛一郎)は兄(三浦貴大)とともにその仕事に従事。
しかし兄は使用人・善助(和田正人)に殺害される。敵討ちすべく、善助を追うと……。
「冒頭とラストでは孝二郎を全然違うように見せたかった。最初は細々しく、ナヨッとした姿勢の悪い感じ。だけど後半に向けてがっちりと大きく見せることは意識しました」
撮影は北海道の白糠(しらぬか)町で1か月強。現地で、筋トレ用のダンベルとベンチプレスをネットオーダーしたという。
「到着にはちょっと時間がかかったんですけど。僕の部屋で、共演者のみんなで筋トレしていましたね」
いくつかのシーンで垣間見える肉体美には目を見張る。食事制限は特にしなかったよう。
「町の人もすごく協力的で、いい経験でした。その分、僕らは毎日外で飲み食いして、たくさんのお金を赤字になりながら落としていました(笑)。
大きな町ではないので店舗は限られていて。居酒屋さん、焼き肉屋さん、洋食屋さん?行けば絶対、スタッフや演者の誰かがいて。結局、みんなで飲んで(笑)」
その際にはアイヌ料理も?
「劇中ではカジカ汁を食べました。命をいただく感覚だけでなく、決められた役割のもとに部位が与えられる儀式のような意味合いもあって。おいしかったですよ。町では焼き肉が多かったかな」
価値観が180度変わった経験
森で負傷し、アイヌの民に救われた孝二郎。コタン(集落)で暮らす中で、その価値観は180度変化。従来の自分とはまったく違う生き方を選ぶ。
価値観がガラリと変わった言葉や出会いについて尋ねてみると、
「あると思います。映画や本、それこそ役であったり。自分の価値観を構築していくうえで、いろいろ教えてくれますし、出会う人によってもやっぱり変わっていきますよね。
孝二郎は当初、無知だった。それゆえの行動が多かったんですが、知らないものに出会うことで視座が高くなっていった。
自分の考えがしっかりとした状態で出会う人たち、一緒に仕事する人たち、友人……そんな存在によって、自分の人生はだいぶ変わっていくと思いますし、これからもそうだと思います」
28歳を迎え目指している俳優像
8月に、28歳を迎えている。
「基本、年齢はあんまり気にしないですけど、数値化されることによって、指標にはなりますよね。でも、もうすぐ30歳かぁ。僕、まだ24歳ぐらいの気持ちでいるんですよ」
今後、目指す俳優像は、
「ひとつはやっぱり自分が興味を持って、知りたいと思ったことをやっていきたいなと思っています。今回の作品もそう。なおかつ、それが文化として残していけるものだとしたら、光栄なことですし」
最後に、芸名の“寛一郎”について、名字を冠しない理由を尋ねてみた。父(佐藤浩市)の名前に左右されたくなかったのだろうか?
「最初はそれもありました。そして、そもそも(名前が)長いって理由も。1回それで始めちゃうと、(名字を)付けるタイミングがわからなくて。海外に行くと、名字があったほうが便利なんだろうなと思うこともありますけど。
はたして、自分が納得して付けられるタイミングが来るのかどうかすらもわからないですし。どのタイミングで入れるのか、一生入れないのか、それはわからないですけど。でもあんまり今、特に気にしてないです(笑)」
リベンジしたいこと
殺された兄の復讐のために孝二郎は動き始める。復讐とはいわずとも、リベンジしたいと思っていることは?
「たくさんあります!まずは英語、あとは楽器。全部、三日坊主になっている気がするので(笑)。ギターかピアノをやってみたいですね。音として好きなのはベースなんですけど、ひとりでベースを弾けるようになっても……というところがあるので(笑)
やっぱりピアノかな?やりたい気持ちはあるんですけど、すぐ挫折しちゃうので、何度もリベンジしなきゃいけない感じです(笑)」
『シサム』
9/13(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
配給/NAKACHIKA PICTURES (c)映画「シサム」製作委員会