※写真はイメージです

「スーパーで買ってきた野菜は、ほとんど捨てるところがありません。葉や皮、根などをカットして捨てている人は、かなり損しています」と話すのは、東京慈恵会医科大学附属病院栄養部・部長の濱 裕宣さん。

 キャベツの葉は光合成により外側に栄養を蓄え、外から3枚目までにビタミンAが8割含まれ、ニンジンは土に近い皮付近にβ(ベータ)カロテンが中心部の2.5倍含まれる。栄養がぎっしり詰まったそんな部位こそ、捨ててはいけない“お宝”だ。

野菜を食べているのに実は栄養がとれていない

「健康のためにと思って野菜をたくさん食べている人は多いと思います。でも、栄養価の高い部位を捨ててしまってはとれていないようなもの。丸ごと使わないともったいないです」(濱さん、以下同)

 また、野菜の栄養価は、数十年前と比べて減少しているという。値上がりする野菜も多くなってきている今、買ってきた食材一つから、賢く栄養をとることがますます重要に。

野菜の栄養価が減っている理由は、大量生産により土壌がやせて吸収できる栄養分が減ったこと、品種改良で苦みや甘みが調整されてきたこと、地球温暖化による気候変化などが関係しています。

 例えばブロッコリー100g当たりのカリウム含有量は、22年の間に53.4%減ったという報告があります

 そんな中、日本人の栄養不足は深刻だ。鉄分は、コロナ後の調査で成人女性の8割近くが不足していることが判明。他にも食物繊維、カルシウム、ビタミンD、タンパク質など、現代人に足りない栄養素は多く、食生活が問題視されている。その背景にはこんな理由がある。

食事の欧米化が進み、魚の摂取量が減ったうえに、鉄分の多い魚の皮や血合いは捨てられることが多い。小魚や牛乳の摂取量の減少、主食が白米や白いパンになり、昔より雑穀類を食べなくなったことなどが関係してカルシウムや食物繊維がとりづらくなっています

 だからこそ、野菜や魚は買ってきたものを「丸ごと使う」のが賢く栄養をとる最大のポイント。野菜の調理は「短時間」「低温でさっと加熱」が肝になる。

「油=身体に悪い」と避けられがちだが、βカロテンは油と一緒にとると吸収率が上がるなど、栄養学的に“お得な”食べ方といえる。

「年齢とともに吸収率が下がる栄養素があり、特に更年期以降はカルシウム不足になりやすく、骨粗鬆(こつそしょう)症のリスクが上がります。筋力低下も避けられません。

 昔より効率よく栄養をとる重要性も高まるので、食材は隅々まで使い、栄養をとりこぼさずに食べて健康な身体を維持しましょう」

野菜(1)

キャベツ

 外側の葉はビタミンCの宝庫

※写真はイメージです

 外側の葉は、日光を浴びて最も栄養素を貯蔵。1~3枚目までは内側の1.5倍のビタミンC、8割のビタミンAが含まれ、ミネラル豊富な芯と一緒に細かく刻んで汁物などに活用。

調理&食べ方のコツ
 長時間水にさらしたりゆでたりすると、水溶性ビタミンが流出。レンチンや蒸し調理ならビタミンCのロスを最小限にできる

ニンジン

 皮むきで抗酸化成分ロス

※写真はイメージです

 皮付近のβカロテンは中心部の2.5倍、ポリフェノールも4倍の量を含有。ピーラーで皮をむくと、それらの栄養素が損失する。抗酸化力をキープするにはむかずにそのまま調理を。

調理&食べ方のコツ
 βカロテンは油に溶ける脂溶性ビタミン。油で炒める、オイルドレッシングやマヨネーズで食べるなど、油と一緒にとると吸収率がアップ

玉ねぎ

 ポリフェノールが皮に9割

※写真はイメージです

 抗酸化力の強いケルセチンというポリフェノールが多く、その9割が皮に。皮を洗って煮ると、黄金色のだしが完成し、汁ものに活用できる。栄養豊富な根もみじん切りにして調理を。

調理&食べ方のコツ
 細かく刻むと、血液サラサラ効果のあるアリシンがアップ。アリシンを100%摂取するなら生、加熱なら短時間で炒めるのがおすすめ

長ねぎ

 栄養が詰まっているのは先端

※写真はイメージです

 先端の緑の部位はβカロテンが多く、その量は白い部位の18倍。ビタミンKやビタミンCも先端に豊富。白い根元は、先端の5倍の甘みがあり風邪予防にも。捨てるところはなし!

調理&食べ方のコツ
 ビタミンCは加熱に弱く、生で食べるのがベスト。白い部位に多い硫化アリルは、細かく切ると活性化するのでみじん切りがお得

野菜(2)

ブロッコリー

 ビタミンUは茎に最も多い

 茎にビタミンUが最も多く、胃腸にいいキャベジンやビタミンCも豊富。茎に深さ1cm程度の切り目を入れ、ラップで包んで電子レンジで1分加熱すると、硬い部分がぐるっとむける。

調理&食べ方のコツ
 水溶性ビタミンの多いブロッコリーはゆでると栄養をロス。ビタミンCやがん抑制成分スルフォラファンをキープするなら蒸し調理

小松菜

 ミネラル豊富な根元は捨てずに

※写真はイメージです

 捨てることもある根元は、葉よりもミネラルが豊富で、成長に関わる栄養素を蓄えている貴重な部位。下から十字の切り込みを入れて砂を洗い落とし、細かく切れば食べられる。

調理&食べ方のコツ
 洗ってラップで包み、冷凍保存すると長持ち。栄養価はほぼ変わらない。加熱する際は、油と一緒に炒めてビタミンを吸収

かぼちゃ

 βカロテンが皮に約3倍!

※写真はイメージです

 日光が当たる皮はポリフェノールなどの抗酸化成分が多いうえ、βカロテンは果肉の約3倍量を持つ。皮つきのまま調理して栄養を丸ごと摂取。ミネラル豊富なワタも一緒に。

調理&食べ方のコツ
 レンチンならβカロテンやビタミンCをほぼ100%キープ。火を使う場合、切ったかぼちゃをザルにのせたフライパン蒸しが手軽

れんこん

 ポリフェノールが皮にぎっしり

※写真はイメージです

 黒くなるのでむくことが多いれんこんの皮は、ポリフェノールの宝庫。実の2倍含まれていて、むかずに調理するのがお得。節はもっと多く、5倍のポリフェノール量。捨てるのはNG!

調理&食べ方のコツ
 ポリフェノールが流出するので、水にさらしアク抜きするのはダメ。薄切りか、すりおろしにして生で食べれば抗酸化力をキープ

きのこ&魚介類

きのこ

 軸を捨てると栄養ダウン!

※写真はイメージです

 切るのは、石づきの黒く硬い部分だけでOK。しいたけの軸には全体の約6割のアミノ酸が含まれ、捨てるとうまみ成分を損失。えのきやしめじも、石づきのギリギリでカットして調理を。

調理&食べ方のコツ
 冷凍して細胞を壊すと、うまみ成分のグアニル酸が活性。特にえのきは冷凍するとダイエットに効果的なキノコキトサンが12倍に 

 皮と血合いを残さずにDHA・EPAを摂取

※写真はイメージです

 魚の血合いや皮は、身体にいい脂の不飽和脂肪酸「DHA」「EPA」が身よりもはるかに多く、鉄分も凝縮。魚を食べるなら残さず食べたほうがお得な部位。特に血合いは、脂肪が少なく高タンパク質で◎。

調理&食べ方のコツ
 魚焼きグリルでなく、フライパンで焼き、落ちた魚の脂をソースに活用するとパーフェクト。DHA・EPAを取りこぼさず摂取

エビ

 頭部にはタウリン2倍!殻を捨てると抗酸化成分半減

※写真はイメージです

 エビの赤色はアスタキサンチンという抗酸化成分。しかも頭にはタウリンが身の2倍、カルシウムや鉄分も多く、捨てるのは損。みそ汁に入れてだしを取るか、揚げてサクサク食べるのもおすすめ。

調理&食べ方のコツ
 頭と殻は水分が抜けるまでフライパンでいったあと、フードプロセッサーでパウダー状にすると、うまみと栄養が詰まったふりかけに

※ジャガイモの芽、モロヘイヤの茎など有毒部位は除く

濱裕宣さん●東京慈恵会医科大学附属病院栄養部部長。管理栄養士。日常生活で生かせる健康と栄養のアドバイスをメディア等で発信。

教えてくれたのは……濱 裕宣さん●東京慈恵会医科大学附属病院栄養部部長。管理栄養士。日常生活で生かせる健康と栄養のアドバイスをメディア等で発信。『完全版 その調理、9割の栄養捨ててます!』(世界文化社)を監修。

濱さんが監修した『完全版その調理、9割の栄養捨ててます!』(世界文化社)※画像をクリックするとAmazonの商品ページにジャンプします。

取材・文/釼持陽子