ながえ・けんじ 1964年、大阪府生まれ。'81年『欽ドン!』で本格デビュー。番組共演者の山口良一、西山浩司とともに「イモ欽トリオ」を結成。シングル『ハイスクールララバイ』は160万枚を超える大ヒットに。俳優としても、ドラマや映画で活躍。還暦を迎えた今年、ニューアルバム『BacktoBaby』が発売中 撮影/矢島泰輔

「欽ちゃん&香取慎吾の全日本仮装大賞」(日本テレビ系)の記念すべき第100回が来年1月に放送予定。萩本欽一さんといえば、忘れてはならないのが欽ちゃんファミリー! “フツオ”こと長江健次さんは今、どうしてる? そして、萩本さんの忘れられない教え、思いとは―。笑える中にほろりとくる、まさに萩本イズムのお笑いのようなエピソードが満載でした!

「一番大将から嫌われているんじゃないかな」

『欽ドン!』の第2シーズンとして始まった『良い子悪い子普通の子』でフツオ役に抜擢された長江さん。現在は、歌あり笑いありのライブステージを届けるため、毎週のように日本各地を飛び回っている。

「5年くらい前に大将(萩本欽一さん)とお会いした際、僕の目をじっと見て、『おまえはダメ。目が汚れてる』って言われました(笑)。欽ちゃんファミリーの中で、僕が一番大将から嫌われているんじゃないかな」(長江さん、以下同)

 自虐を込めて苦笑する。

「僕は関西人だったからウケたもん勝ちだと思っていた。僕みたいに前に出ようとするタイプを大将は嫌うんです。番組では大将の指導どおり演じていたけど、当時16歳の僕には理解できなくて悶々としていたところもあったんです。大将の有名な言葉に『聞いちゃダメ』というものがありますが、本当に教えてくれない。何度もリハーサルするのに答えがわからない。ヨシオ役の山口良一さんはリハーサルを免除されていたから、何度うらやましいと思ったか(笑)」

「調子に乗っていた」

 長江さん、山口さん、西山浩司さん(ワルオ)からなる「イモ欽トリオ」は、『ハイスクールララバイ』の大ヒットもあって、一躍“時の人”となった。

「実は、僕たちは歌手ではないという理由から、賞レースはすべて辞退しているんです。歌番組も、『夜のヒットスタジオ』と『ザ・ベストテン』に出たくらい。よく3人で、『紅白に出たかったよね』なんて話すんですけど、大みそかに裏番組を担当していた大将ですから出演できるはずがない(苦笑)。もっと自分の可能性を試したかったという気持ちもあって、番組を降板し、イモ欽トリオも脱退したんです」

 表向きは学業に専念するという理由だった。だが、しばらくして大阪をメインに芸能活動を再開。事の経緯を伝えなかったため、不義理を働いたと見なされた長江さんは、萩本さんから「破門」を言い渡された。ファミリーでも異端の存在だ。

「調子に乗っていたんですよね。ただ、後ろめたさもありましたから、自分は欽ちゃんファミリーに参加する資格はないと思っていましたし、関連するような話も一切話さないようにしていました」

インタビューに応じた長江健次さん 撮影/矢島泰輔

 萩本さんとの和解は、番組降板から20年以上たってから。「なんだかんだ言って、自分のことを気にかけてくれているような気はします」。家出したやんちゃ坊主ほど、親は気になって仕方がないのかもしれない。

「現在、僕は全国のライブハウスを中心に音楽活動をしていますが、すべて自分で手配して、出演者の交渉も行っています。音楽に加えて、トークも楽しんでもらえるように構成も考えています。自分でやってみて、あのとき大将が言いたかったことの意味がわかるんです。フリがあってオチがあるから、前に出ればいいというものではない。1+1が2とは限らなくて、現場の空気次第で1・5や2・5になる。答えは自分で考えろということ。大将から教わったものが今に生きていると、最近は強く思うようになりました」

 ライブでは、定期的にイモ欽トリオを結成し、『ハイスクールララバイ』も歌う。

「『目が汚れてる』んじゃなくて、こっちもさまざまなものを見て、しぶとく生き残ってきたという自負もありますから(笑)。いろいろな人に助けてもらって、今があります。繰り返しやり続ける。その意味が今はわかります」


取材・文/我妻弘崇