「その地域にずっと受け継がれてきた県民気質がその土地の“居心地がよい”“住みやすい”といった雰囲気をつくり出し、人を惹(ひ)きつけている部分は大きいと思います」
そう話すのは、県民性をテーマにした著書を数多く持つ岩中祥史さん。
にぎやか地域に人は集まる
病院や学校といったインフラや教育、仕事に対する行政支援、素晴らしい観光名所なども居住の満足度を高めてくれるが、住民の幸福度はそれだけでは測れないと指摘する。岩中さんが注目するのは、Uターン率や子どもの増加率のランキングで1位の沖縄県。
「昔の日本のような“人と人との結び付き”の強さが今も残り、郷土愛の強い県だと思います。おおらかな県民性も手伝って、細かなことにこだわらず、安心して出産・子育てに気持ちが向かうのではないでしょうか。
一方、長崎県はかつて外国との交流も盛んだったことにより開放的でハイカラな気質でどこでもうまくやる。佐賀県や鹿児島県は日本の伝統的な「家」の考えが強く、移住先でしっかり“わが家”を構えるなどして、Uターン率が下位になっているのかなと感じます」(岩中さん)
また、統計ジャーナリストの久保哲朗さんは、あるランキング項目と相関関係を持つ項目を見ると、よりその都道府県の特徴がわかって興味深いと話す。
「例えば、所得が高いエリアは、離婚率が低いなど、1つのプラスが、ほかのプラスと結び付くことも少なくありません。データ上ではありますが、自分の住む地域の傾向を意識してみると面白いかも」
では、「私の住む場所に幸せの種はある?」。さまざまなランキングで都道府県別の幸せを大調査!
「ブランド力のある県は?」
他県から羨望が集まって自己肯定感も高まる!?
誰もが魅力的だと感じる地域に住めば、住民満足度も高いのか。認知度や魅力度、観光コンテンツや歴史や文化といった地域特性などの項目で調査した「地域ブランド調査」では、北海道が15年連続で1位を獲得している。
「1位の北海道を筆頭に、トップ5はほぼ不動。京都府や沖縄県、東京都などが魅力的な都道府県という地位を守り続けていますが今年は大阪が入りました。万博などもあり注目度も高いのでは」(岩中さん)
大きな都市がある都道府県が上位に選ばれがちのなかで、沖縄県もランクイン。
「都市の気楽な個人主義とは異なり、沖縄県民には“みんなで支え合って生きていく”という考えが脈々と受け継がれています」(岩中さん)
「ふるさと納税で潤う県は?」
県が潤えば住民にも還元が!?
受入総額が約1兆1175億円となって、年々右肩上がりに成長しているふるさと納税。寄附先は市区町村だが、それを都道府県別でまとめたランキングを見ると、北海道が断トツの1位。寄附受入総額の約15%を占めている。
「全体的に、農業生産額が高いところが地元の農産物や畜産物を返礼品として上手にPRし、上位にランクインしているといえます」(久保さん)
一方、下位には奈良県(47位)、徳島県(46位)、富山県(45位)が並ぶ。
「“ガツガツしない奈良人”の性格が表れた結果かも。貴族が中心となり、日本で最も古い都を開いた場所ですから、あくせく働いてお金を稼ぐことが美徳ではないという県民気質を感じます」(岩中さん)
「電気代が安い県はどこ?」
固定費が安いほうが住みやすい!
食料品や日用品の値上げが続く昨今、毎月の固定費はできるだけ抑えたいところ。今年の猛暑ではエアコンがフル稼働で、電気代が過去最高を更新した家庭も多いのでは。
昨年の年間の電気代をエリアごとに比べると、やはり冬の寒さが厳しい北陸がトップで約15万7000円、次いで東北が約14万9000円。
電気代が安いのはエリアでは九州が約10万4000円で1位に。電気代が最もかかる北陸と比較すると年間で5万円以上差がある。
トップ5に九州勢が名を連ねるなか、2位には兵庫県の神戸市がランクイン。近畿は九州に次いで電気代が安いが、その中でも神戸市は唯一年間10万円を切る。全国平均の約13万と比べても、約5万円の差が。住民がうらやましい!
「犯罪遭遇率が低いのは?」
犯罪が少ないと安心して暮らせます!
「人口が少ない、いわゆる“田舎”のほうが治安がよい、という世間のイメージどおりの結果に」(久保さん)
東北や九州などの地方が犯罪の少ない場所として名を連ねる一方、ワースト5には、大阪府、兵庫県、東京都と都市が並ぶ。大阪府は突出した1位に。
「他データとの相関関係を見ると、人口が多く、最低賃金が高く、農業従事者が少ない都市部で刑法犯罪が多いことが見えてきます」(久保さん)
「おこづかい額が高い県」
自由に使えるお金はいくら?
収入が多いほどおこづかいが多いとはいかないようだ。香川県、秋田県といった地方のほうが比較的物価が安く、おこづかいにお金が回しやすい現状が見えてくる。
「大都市は入るお金も多いが、生活費、教育費など出るお金も多いので余裕度は低くなると感じます」(岩中さん)
また、家計の余裕とは関係なく、“お金がある”と見せたい県民の腹の内も。
「香川県人は、四国で一番の娯楽好きですからおこづかい額も高いのかと。秋田県民は周りからの見え方を気にする傾向があり、外で恥をかかないために多めに持つのかもしれませんね」(岩中さん)
「女性の家事時間が短いのは?」
家事の分担を徹底し、男女平等!
15歳以上の女性の1週間の総平均家事労働を短い順に並べると、東北地方が上位にズラリ。
「福島県、山形県、岩手県というのは、共働きが多い県なので、分担をして、女性の家事労働時間が少なくなっていると思います。というのも、東京など都市部の共働きとは異なり、東北地方では夫婦で農業に従事する働き方が多い。比較的時間が自由に使える分、隙間時間で効率よく家事を行っているという面が想像できます」(岩中さん)
逆に家事労働時間が最も長いのは172.5分の奈良県。
「奈良は前述したとおり、あくせくしない、優雅な県民性があるので、家事もマイペースにゆったりと時間をかけて行っている可能性はありますね(笑)」(岩中さん)
家事労働時間の内容の濃淡はいずれにせよ、都市部ほど睡眠時間が短いという相関データもあると久保さんは指摘。
「睡眠時間を削って家事をしている女性が多い可能性も考えられ心配です」(久保さん)
「休養・くつろぎ時間が多いのは?」
癒しの時間を大事にして心も元気!
コロナ禍を機に、全国的に家族だんらんの時間は増えている傾向に。
「通勤時間が短い地域のほうがくつろぎの時間が多いという相関データもあるので、通勤時間がくつろぎの時間の長さに大きく作用していると考えられます」(久保さん)
では、ブレイクタイムに何をしているのか。例えばテレビ、ラジオ、新聞、雑誌に触れる時間は北海道が最も長い。
逆に、自宅でのんびり過ごすことをせず、友人や知人と会う時間を優先しているのは沖縄県。くつろぎの時間は下位だが、交際・付き合いに費やす時間は全国トップクラス。家にこもるより、外で楽しく飲むことが沖縄県民にとっては休養になるのかも。
「平均寿命が長いのはどこ?」
幸福感を得るほど長生きする!?
男女共に平均寿命の長さの上位にランクインし、最も長寿県といえるのは滋賀県(男性1位、女性2位)。医学的なエビデンスがあるわけではないが、と前置きしつつ、岩中さんは滋賀県の地理的な要素が長寿に影響しているのではないかと分析する。
「穏やかで雄大な琵琶湖が身近にありますから、自然と心が落ち着いて、心身共に健康が保てるのではないかと。また、近年は経済的にも発展している県なので、自分の健康に投資できる素地が整ってきた。その両面が平均寿命を押し上げていると感じます」
「幸せな人は長生きする」といった研究結果はさまざまな国で報告されており、心の安定が長寿につながるのか。また、女性の1位である岡山県は、いい意味で“自分ラブ”なところが健康面にプラスに働いているとも。
「岡山県や長野県というのは、江戸時代から寺子屋の数が多く、勉強に熱心な人が多い。特に岡山県民はそれを誇りに思っており、自分の意見に絶対の自信を持つ人が多いのです。だから、自分が健康のためによいと思ったことは、とことん継続でき、長寿に結び付いているのでしょう」(岩中さん)
「うつ病患者数が少ないのは?」
ストレス少なく心晴ればれ!
65歳以上の1万人あたりのうつ病患者数を比較すると、最もメンタルヘルスが良好といえるのは徳島県。今や全国区となった阿波踊りが、ストレス発散に大いに役立っているのかも。
2位は奈良県。岩中さんが前述したとおり、あくせくしない県民性はここでも効果を発揮しているようだ。また、トップ10までみると3位の栃木県を筆頭に、6位に茨城県、8位に群馬県と北関東勢がそろってランクインしているのも興味深い。
一方、ワースト3は福岡県、千葉県、鳥取県。とりわけ福岡県は、全年齢においても最下位という結果に。
「分布地図を作成すると、首都圏や九州北部、北日本の日本海側に高齢者のうつ病患者が多いことがわかります。日本海側に多いのは、雪や気温と関連があるのではないか、という意見もありますが、今のところデータ的には相関関係があるとはいえません」(久保さん)
何をストレスと感じるかは人それぞれだが、ここまでのデータを参考に、自分の住む地域の“幸せの種”を見つけてみよう。
教えてくれたのは……
岩中祥史さん●出版プロデューサー、ノンフィクション作家。編集企画会社エディットハウス代表取締役を務める。県民性にも精通し、『新・出身県でわかる人の性格』(草思社)など関連著書多数。
久保哲朗さん●統計ジャーナリスト。都道府県別統計を比較したサイト「都道府県別統計とランキングで見る県民性[とどラン]」の管理人でもある。著書に『47都道府県の偏差値』(小学館)など。
取材・文/河端直子