手術後すぐの病室で撮影に応じた恩田千佐子アナ(本人提供)

 中京テレビの看板アナウンサーである恩田千佐子さん。2017年に乳がんが見つかり手術。現在も治療を続けながら夕方の報道番組を担当している。つらい抗がん剤治療や脱毛の精神的なダメージ……。家族と職場があってこそ乗り越えられているという闘病のリアルを伝えてもらった。

 恩田千佐子さんは、中京テレビで夕方に放送中の報道番組『キャッチ!』のメインキャスターを12年にわたって担当。東海3県の夕方の顔として、“おんちゃん”の愛称でも親しまれている。そんな恩田さんの右胸に、乳がんが見つかったのは7年前、2017年のことだ。

「年に一度の人間ドックで、マンモグラフィーとエコーの両方の検査を欠かさずに受けていました。2015年だったかな。マンモグラフィーの検査のときに分泌物が乳頭から出てきて……。精密検査の結果、そのときは問題なし。でも、2017年に再び分泌物が出て、精密検査で乳がんと診断されました。定期的に検査を受けていても、油断はダメだと改めて実感しましたね」(恩田さん、以下同)

術中の検査でリンパ節への転移が発覚

 恩田さんは番組内で乳がんの手術のために一時休むことを自ら公表。一方で、局に相談をし、治療経過を映像として記録したいと申し出た。

「これは“伝える”ことが仕事である私にとって、とても自然な決断でした。乳がんは女性の9人に1人がなる病気。自分の経過をリアルに伝えることで、一つの例として多くの人に参考にしてもらえればいいなと思ったんです」

 カメラは、診察室や手術室にも入り、病室での長女との会話なども撮影。そこには、恩田さんが治療に冷静に向き合う姿と同時に、不安に涙ぐむ表情も捉えられていた。

「治療中は本当にさまざまな感情が心をよぎりました。早期だから大丈夫と楽観的になったり、治療がうまくいかなかったらどうしようと落ち込んだり……。そんな感情のゆれも現実として伝えたいと、さらけだすことにしたんです。このとき長女は二十歳で長男は高校生。この先のことを考えると、心配や不安で胸が痛みました」

 手術では、右乳房の全摘出と、そこにシリコンを入れる再建手術が同時に行われた。しかし、術中の検査でリンパ節に転移が見つかり、ステージ2Bと診断された。

「リンパ節にがんがあったということは、リンパの流れに乗ってがんが転移している可能性があるということ。落ち込んで泣きましたね」

 番組には術後約2週間でいったん復帰したが、乳房再建手術の際の傷口がふさがらず、シリコンを除去する再手術を受け、抗がん剤治療も開始する。

「抗がん剤の副作用については、脱毛は95%、吐き気は35%の人に発症すると事前に説明を受けていました。それでも仕事はなんとかなるだろうと軽く考えていましたが、抗がん剤点滴をした日の夕方にはどうにも気持ちが悪くなってしまい……。脱毛も始まり、結局、抗がん剤治療を終えるまで約3か月間休職しました」

 手術室にまでカメラを入れた恩田さんだったが、脱毛した自分の姿は、撮影する気持ちになれなかったという。困難を強いられたのは副作用だけではない。

「手術の傷が気になって右肩を動かさないでいたら、右腕が上げられない状態に。3か月の休職期間中からリハビリのために整形外科に週2回、計40回ほど通いました。でも、療養中はせっかく家にいるのだから動かせる範囲でと思って無理をしすぎましたね。もっと身体を休めればよかった。普段ではできない家事をしようとつい動き回ってしまって」

 次々と想定外の出来事が起こっても、恩田さんが治療に向き合うモチベーションになったのは、「仕事に復帰する」という目標だったという。

がんだからといって仕事は辞めないで

「必ず番組に復帰する!という気持ちが強かったので、焦りはありませんでしたね。それよりも、番組で後輩が頑張っている姿は頼もしく、私も頑張ろうと励まされました。この対応はいいなと思えることもあったりして、すごく勉強になりましたね」

 再手術を乗り越え、抗がん剤の副作用も落ち着いてきたころ、ショートスタイルのウィッグ姿で『キャッチ!』の生放送に。最初の乳がんの手術から、実に4か月ぶりの本格復帰となった。恩田さんの治療に密着してきたドキュメンタリー番組も放送され、大きな反響を呼んだ。

 多くの励ましや共感が寄せられた中で、恩田さんがいちばんうれしかったのは、「番組を見て検診を受けた」という声が多かったこと。

「2人に1人ががんになるといいます。治療のスタートが早いほど治療の負担も軽減されますから、定期的に検診を受けることが第一。がんだったら怖いからと避けるのではなく、安心するために受けてください。異変を感じたらすぐに受診することも大事ですね」

 現在、恩田さんは再発予防のためのホルモン療法を、術後10年間続ける予定で継続中。また、がんに関する情報発信にも力を入れている。“がんになっても仕事を諦めないことの大切さを知ってほしい”と強調する。

恩田千佐子アナ(本人提供)

「今や“がん=死”という時代ではありません。一方で治療の長期化による治療費の問題もあります。つまり、がんになっても仕事を続けることが、何より大切な時代になっているのです」

 ただし、病状も薬の副作用も、職場の環境も人によって千差万別。がんに対する理解が十分ではない職場がいまだに多いという現実もある。

「私の知人も、がんになって退職を促されたと落ち込んでいましたが、早まらないでと励ましたことがあります。その後、会社と話し合って仕事を続けられることになったと聞き、ほっとしました。がんになると弱気になりがちですが、仕事についてはぜひ強気で! そして、職場と患者双方で、できること、できないことをよくすり合わせて、無理なく働き続けられる道を探すことが大切だと思います」

恩田千佐子さん●1967年、東京都生まれ。中京テレビ放送アナウンサー。夕方の報道・情報番組『キャッチ!』のキャスターなど“局の顔”として活躍。2017年、乳がんの手術を受け、治療継続中。所属の中京テレビでは、乳がんの知っておくべき知識や、セルフチェック方法などを発信している。


取材・文/志賀桂子