世界各国では、児童らにスマホとSNSの使用を制限する措置が続々と取られている ※写真はイメージです

「特にスマホが生活に浸透してからの、ここ十数年で私たちの生活というものは大きく変わってきました。同じく、子どもたちの置かれている生育環境も間違いなく変わってきています」

 こう話すのは、ノンフィクション作家の石井光太さん。7月に、保育園から高校まで200人以上の保育士、教師に取材を重ね『スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)を刊行した。

“教室にいることの圧がすごい”

「僕自身、講演も含めて教育現場に行く機会が多いのですが、授業中に突然、床に座り込んでしまう子や、先生に何も言わずに教室を出て行ってしまうという行動をとる子どもが多いと聞きました」(石井さん、以下同)

 昔からクラスにはこういった“トラブルメーカー”は何人かいたが、その背景にあるものがまったく違う、と石井さんはこう続ける。

「昔は先生や学校への反抗を示すための行動でしたが、今の子どもたちは違うんです。突然出て行ってしまう子に理由を聞くと“教室にいることの圧がすごい”“教科書を見ているのに疲れたから”といった答えが返ってくるといいます。床に座り込んでしまった子も、何かを伝えたいらしいのですが、その伝え方がわからない。なので、座り込むという行動に出ているようなんです

 人とのコミュニケーション能力の欠落。その一因として、社会の急激なデジタル化があるという。

「たぶん、子どもの本質は今も昔も変わっていないと思います。問題は、情報を簡単に手に入れることのできるスマホなとのデバイスを使いこなす能力があるかないかではないでしょうか。

 コミュニケーション能力がある子どもなら、スマホをうまく使いこなせるでしょう。でもそういった土台がない子どもが使ったら、スマホの中で遊びも友達も完結して、その中の世界がすべてになってしまう。依存症ですよね」

“子どもファースト”の弊害

 スマホはひとつの道具でしかない、と前置きして石井さんは親がするべきことをこう話す。

石井光太著『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)※画像をクリックするとAmazonの購入ページにジャンプします

「学校へ行って友達をつくって、その中で遊んで……。ということは昔はある意味、強制的というか、ごく普通のことで、その中で子どもたちのコミュニケーション能力が培われてきました。でも今は“多様性”や“子どもファースト”という言葉で子どもの自主性に任せるという方針になってしまった。

 そうなると子どもがこれまで自然に身につけてきたコミュニケーション能力を、大人が教えなければいけないんです。スマホは与えておけばいいものではなく、もともと持っている能力を伸ばすツール。なので、ある程度親や学校がベースになる力をきちんと育てなくてはいけない。でも結局のところ、親も先生もどうしていいのかわからないのかもしれません

 スマホ育児が悪い、とは言わないと石井さん。ただその使い方を誤ると、子どもの将来にデメリットが生じると警鐘を鳴らす。スマホやITといったデジタルツールがなくてはならない現代、結局は使う人間の能力によって毒にも薬にもなる─。