小泉進次郎氏(9月12日、自民党総裁選所見発表演説会にて)

 9月27日15時30分頃、自民党の新総裁として割れんばかりの拍手を浴びるのは誰なのか。史上最年少の小泉進次郎氏か、史上初の5度目で大願成就の石破茂氏か、はたまた史上初の女性・高市早苗氏か。その新総裁は4日後の10月1日(火)に召集される臨時国会で、首班指名選挙で第102代総理大臣になるのは確実ーー。

 刻一刻とその時が、迫っています。それに連れて国会議員票368票(都道府県連票は47票)をめぐって目下、仁義なき戦いの最終章を迎えています。

 総裁選勝利の行方、そして来月に濃厚視される解散総選挙について選挙プランナーとして数々の候補を当選させてきた永田が語ります。

高市氏に大逆転された小泉氏、大どんでん返しへ最後の勝負

 9月24日、小泉氏は支援を求めて麻生氏と会談し頭を下げました。小泉氏の後ろ盾となるキングメーカーは麻生氏と不仲とされる菅義偉前総理だったのになぜ。

 事態の急変は、決戦前夜の情勢にあります。既に自民党員は、9月24日の午前中に投票用紙を投函し終わっています。今、開票作業の真っただ中であり、発表は27日の議員投票の直前なので、あくまで一つの予測値です。5回目の挑戦で地方の津々浦々まで回ってきた、石破元幹事長が浸透し約100票で首位。人気抜群の小泉元環境大臣は約65票、政策論争を得意とする高市経済安全保障大臣が約90票と逆転。

タイトルは『THEMATCH』。自民党総裁選のPR画像(自民党公式サイトより)

 反対に議員票は、初当選以来15年も細やかな気遣いを欠かさなかった小泉氏65票と圧倒。対極的に、深い人間関係より政策研究に没頭してきた高市氏45票、石破氏35票と引き離されています。

 合計すると、石破氏、高市氏が135票で並び、小泉氏が130票。決選投票には石破氏と高市氏が進み、小泉氏は敗退です。

 大相撲に例えるなら、横綱小泉氏が、大関高市氏に逆転のうっちゃりを食らい土俵際に追い詰められてしまった。小泉陣営は、明日昼までに死に物狂いで議員票一票一票をを積み上げるしか逆転の術は無い。

麻生太郎氏

 ここで最大のキーマンに浮上したのが、青色吐息と思われていた麻生太郎副総裁。自身は麻生派の河野太郎氏を応援し、義弟の鈴木俊一財務大臣は上川陽子氏を応援していますが、2人とも決戦投票にはほど遠い。2012年の自民党政権復帰以来、安倍晋三・菅義偉政権では副総理兼財務大臣、岸田文雄政権では自民党総裁に次ぐ副総裁、12年も政権の中枢の座にありました。

 それはひとえに「キング」つまり総理の生みの親である「キングメーカー」であったから。裏を返せば、押した候補を「総裁選で勝たす」のが絶対条件。菅義偉前総理が後見となり付け入る隙の無い小泉氏、ましてや仲の悪い石破氏には乗れない。今回、高市氏を決選投票に押し上げ、そこでの逆転に望みを託すしかなくなりました。

 岸田文雄政権の根幹は、総理の兄貴分である麻生氏そして麻生氏が引き入れた茂木敏充幹事長の「三頭政治」で行われてきました。政権運営が行き詰まるにつれ、この3人の間に距離ができてしまいました。しかしこの3年間、手を携えてきたのは事実。この土壇場で麻生氏が、岸田氏と茂木氏に「やっぱり、あんた達しかいねえ。もう一回一緒にやってくんねえか」と同盟をもちかける。今ひとたび「三頭政治」を復活させれば、高市氏を「クイーン」に押し上げるには十分、キャスティングボートを握れます。

 保守の巨頭安倍晋三元総理という後ろ盾を亡くした高市氏にしてみれば、議員票の拡がりが薄いのが最大の弱点。安倍氏の兄貴分であった麻生氏に「安倍政治の正統な継承者」として認めてもらい、活路を見出したい。当初劣勢であった高市氏は、得意の政策論争で党員の心に刺さり、議員票の大きな塊さえ乗れば総理の座に手が届くところまできました。

菅義偉氏

 党員投票が始まってこのかた、小泉氏は眠れぬ日を送ってきました。前回の総裁選、岸田候補の出馬により、菅総理は不出馬に追い込まれ、丸3年間も冷や飯暮らしを強いられました。菅氏の寵愛を受けてきた小泉氏も、一連托生で窓際に追いやられた。本来プリンスとして熟成栽培中の小泉氏の急な出馬を菅氏が求め、勢いそのままに「政権中枢」の奪還を目の前としました。しかし、重要閣僚や党三役といったキャリアを積む前の43歳での電撃的出馬があだとなり、よもやの決戦投票前の敗退という悪夢が現実化しそうです。また不遇をかこつぐらいなら、一時の恥を忍んででも…。

 そこで冒頭のように、自分を追い落としかけていた相手方の大将麻生氏に「助けを求める究極の一手に出ました。それも恥を忍んであえて報道陣にそれとなく知られる形をとった。政界のプリンスとして常に世間にもてはやされた男が、ここまで身を屈するのは並の度胸でできるものではない。

 大ヒットドラマ『半沢直樹』で、堺雅人演じる半沢が香川照之演じる宿敵大和田常務に屈辱の土下座を強要されたが、それをバネに逆転した「倍返し」が流行語となりました。世界史で「カノッサの屈辱」という名シーンがありますが、明日蓋を開けて見れば「9月24日の屈辱」と後世に語り継がれるような運命の分かれ目となった可能性があるのです。

 私は、麻生副総裁が小泉氏を支援し、1次投票、決戦投票でも勝利させる可能性がかなりあると考えています。

現実の権力闘争の答えは「勝つ」より「負けぬ」こと

 なぜなら政治とは、「理想」より「現実」にあるからです。

【1】小泉氏と菅氏の理想は勢いそのままに「完全勝利」、負けた麻生氏は高齢もあって引退もちらつく事態に。

(表1の丸1参照 理論的に知りたい方向けの図解です)

 

【2】しかし麻生氏が劣勢だった高市氏をかついで逆転すれば理想的な「完全勝利」、負けた菅氏は高齢で復権の目はなくなる。

(表1の丸2参照)

 つまり、【1】【2】とも、麻生、菅両キングメーカーがギャンブルに出て、負けた側が全てを失うシナリオ。しかし、政治とは常に「理想」よりも「現実」が優先されるもの。手を握れる可能性を最後まで追い求めて成功は分かち合う道が残されています。

(表1の丸3参照)

 【3】それは、麻生副総裁があえて小泉氏を支援、当選させることで、小泉・菅ラインに恩を売り、共存を図るというシナリオです。

 そこで今ギリギリの交渉となっているのが「小泉氏勝利で得た成功をどうシェアするか」なのではないでしょうか。その最たるものが新政権の人事、象徴は総裁に代わって党運営を預かる自民党幹事長そして新内閣の扇の要となる官房長官。

(表2参照)

 両巨頭を副総理もしくは副総裁で処遇するのか。

 そして麻生派に次いで数の多い、岸田派と茂木派の動向も鍵を握っている。であれば岸田派の林芳正氏を副総理、茂木派の領袖、茂木敏充氏を官房長官など三顧の礼で迎え挙党体制を築く。刷新感あふれる小泉総理は来月の総選挙を勝ち抜き政権を維持する、もし年明けの通常国会で立憲民主党野田佳彦代表の重厚感に押し切られたら、安定感抜群の林・茂木氏がピンチヒッターに立てる。

 己の信念を確固として持つ高市氏と石破氏は「理想」家肌、対する小泉氏は置かれた状況を打開できるなら己のプライドをかなぐり捨てられる「現実」主義者=リアリスト。人間の持つ二面性が、激しくぶつかり合う最終章となっています。

最後の最後に

 政治とは、目の前の刻一刻と変わる「現実」に応じて、最善の一手を投じるもの。このシナリオは、議員票を集めまくれば小泉氏が逆転できると信じればこそ。開票作業中の党員投票の途中経過が漏れ伝わるにつれ、実は小泉氏が逆転不可能なほど引き離されていったなら、根底から覆ってしまうのです。

 しかし、えてしてそう簡単に白黒ははっきりしません。来月にでも総選挙があれば、当落線上ギリギリの議員の応援に小泉氏が応援にくるのはデカい。私の30年の選挙経験からして、僅か数百票の「超僅差」の選挙区が逆風下の今回は増える。

(表3参照)

 

 選挙基盤が盤石でない若手にとって、小泉人気はやっぱり垂涎の的なのです。

 彼らは高市氏で「勝ち馬になりかけてる方に乗るか」、いやいや負け戦覚悟で小泉氏で「選挙の顔」を作る方に賭けるか。そこで揺れる心の内をえぐり「どうやら小泉氏は善戦してるぞ!」「違うもうムリかもしれない」など虚々実々の情報戦が展開されます。最後に微笑むのは果たしてーー。