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 年を経るごとにやせにくくなり、ダイエットに対するお悩みはつきない。あまり食べていないのに、着実に体重が増加しているのはいったい……?その原因が実は「口の中」にある、と指摘するのが栗原医師。食欲の秋、脂肪がたまりやすくなるこれからの季節に備えてまずは「歯みがき新習慣」を始めてみよう。

 歯周病が、脳卒中や認知症、動脈硬化などの深刻な病気の引き金になることは、近年、広く知られてきた。それだけではなく、歯周病はダイエットを阻害し、肥満を招きかねないことをご存じだろうか。

やせられないのは脂肪肝が原因!?

 その関連性について説明する前に、まず知っておきたいのが「脂肪肝」について。これは、肝臓に中性脂肪がたまりすぎて、フォアグラのようになった状態を指す。原因はお酒の飲みすぎによる場合と、糖質のとりすぎによる場合の2通りがあるが、日本人では糖質のとりすぎによる場合のほうが多いという。

「日本人の3人に1人が脂肪肝だといわれています」

 そう話すのは肝臓の専門医、栗原毅先生。そして、脂肪肝こそがやせられない原因だと語る。

「通常、肝臓にはエネルギー源として3~5%の中性脂肪が蓄えられていますが、糖質などのとりすぎによって中性脂肪が20%以上になると脂肪肝の状態になります。すると肝細胞が炎症を起こして壊れ、中性脂肪が血液中に流出し、身体のあちこちに脂肪がたまり肥満へとつながります」(栗原毅先生、以下同)

 脂肪肝になると肝臓の機能が半減するため、やせるためのエネルギー代謝も落ちてしまう。さらに、糖尿病のリスクも高まるという。

「糖質を摂取すると、血糖値の上昇を抑えるために膵臓からインスリンというホルモンが大量に分泌されます。インスリンは増えすぎた糖を肝臓へ送り、肝臓はそれを中性脂肪に変えて蓄えますが、脂肪肝の状態では、蓄えきれずに糖のまま血液中に排出されてしまうのです。そうなると糖尿病は進行し、脂肪肝も悪化していく……と負のスパイラルに陥ります。脂肪肝と糖尿病は表裏一体なのです」

 自分が脂肪肝になっているかどうか、簡単に推測する方法があるという。

「おへそまわりではなく、おへその下の下腹がポッコリと出ている方は、脂肪肝の可能性が高いです。特に、更年期を迎えた中年期以降は内臓脂肪がつきやすくなるうえに、運動不足で腹筋が弱くなるため、内臓が本来の位置から下がり、下腹がポッコリと目立ってくるようになります。他にも、毎日甘いものやフルーツを食べる習慣があったり、味の濃いものが好きな人は気をつけたほうがよいでしょう」

 肝臓が健康でなければダイエットは成功しない。やせる体質に変わるためには、脂肪肝への対策が重要なのだ。

やせられない“負のスパイラル”

 脂肪肝、糖尿病と、さらにこの負のスパイラルに拍車をかけるのが「歯周病」。

「歯周病はあらゆる病気のリスクを高めますが、脂肪肝や糖尿病との関連も深いのです。歯周病で口腔内に炎症が起きると『炎症性サイトカイン』という物質が発生します。この物質はインスリンの働きを阻害するため、血液内に糖があふれて血糖値を上昇させます。

 すると余分な糖は肝臓へと送られ、中性脂肪をどんどん蓄え、脂肪肝を悪化させていき、さらに糖尿病のリスクも上がり、糖尿病になると歯周病もさらに悪化し……と、まさに負の連鎖に陥るのです」とは、歯科医師の栗原丈徳先生。

 歯周病をケアしないと、インスリンが正常に働かず、ダイエットを阻害するどころか病気にもなってしまうのだ。

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 歯周病菌は、歯茎から血管に入って血流にのり全身をめぐってさまざまな病気を引き起こす原因になるが、近年は消化管からも侵入することがわかってきた。

かつては、口の中の有毒な悪玉菌は、食べ物や唾液と一緒に体内に入っても、胃酸で死滅すると考えられていました。しかし一部に腸まで届く菌もいて、それらが腸内環境のバランスを崩し、悪影響を及ぼすことがわかっています。その結果、身体の代謝機能も低下して、やせにくい身体になります。

 また最新の研究で、腸内環境が変わることで、骨格筋の代謝異常による脂肪化が促進することもわかってきました。筋肉が脂肪化すると、筋力の低下や肥満を促す可能性があるのです」(栗原丈徳先生、以下同)

 しかも、50代以上では歯周病菌を持っていない人はいない、と思ったほうがいいと先生。やせるのはもちろん、身体のためにも正しい歯周病ケアは待ったなしだ。

「歯周病菌は寝ている間に増えやすいので、寝る前は念入りに。加えて絶対にやってほしいのが起きてすぐの歯みがきです。寝ている間は唾液の分泌量が減るために起床時は歯周病菌がいちばん増えています。その状態で飲食をしてしまうと菌が体内に入り込んでしまい、腸内環境を乱す原因に。いくら“白湯や野菜ジュースを飲む”といった健康習慣や腸活をやっていても、それでは台無しです」

 みがく際は歯ブラシだけでなく、歯間ブラシやフロスを併用することも必須。

「時間をかけて丁寧にみがいたとしても、プラーク(細菌の塊)は60%ほどしか除去できないことがわかっています。みがき残しのプラークのほとんどは、歯と歯の間や歯と歯茎の間にあるので、歯間ブラシやフロスを併用することでみがき残しを最小限に抑えてほしいですね」

「起きてすぐの白湯」は絶対にNG

 次に、盲点なのが“舌みがき”だ。

「歯周病菌は嫌気性菌といって、酸素を嫌う性質があります。舌の上は溝があるため酸素が届きにくく、歯周ポケット並みに居心地のいい場所。そのためいちばん細菌が繁殖しやすい場所でもあります」

 普段からまめにみがくべきだが、舌の表面が白い苔状になっていたら危険のサイン。

「それは“舌苔”といって、舌で増えた細菌などが堆積してできたもの。細菌は寝ている間に舌の上から歯周ポケットに戻るといわれるので、いくら歯のケアをしっかりやっても、舌をみがかないと意味がありません」

 また、正しくお手入れをしていてもプラークを完全に除去することは難しく、やがて歯石となってたまっていく。歯石はセルフケアでは除去できないので、歯科医院での定期的なケアもお忘れなく。

 一見、無関係に思える口の健康とダイエット。「やせにくくなった」「食べてないのにやせない」と、挫折を繰り返している人は、新たな歯みがき習慣でやせやすい身体を手に入れて。

コレがやせるための新・歯みがき習慣!歯周病リスクをゼロにせよ!

・起床後すぐにしっかり歯をみがく
就寝前は当然だが、太る原因となる歯周病菌は就寝中に増えやすく、朝、歯をみがかずに食べたり飲んだりすることで、食べ物と一緒に身体の中へ入り込んでしまうおそれが。

・歯ブラシは小さめのヘッドを選ぶ
歯ブラシは隅々までみがける小さめのヘッドで、毛先が平らで普通の硬さ、ハンドルがまっすぐのものがオススメ。

・歯間ブラシ、フロス、舌ブラシを使ってみがく
プラークは歯と歯茎の境目にたまりやすい。歯ブラシだけでは落としきれないので、歯間ブラシやフロス、舌ブラシの併用を。

口臭の原因にも! 舌には細菌の塊が潜んでいる! 舌ブラシのやり方

舌ブラシ

 舌みがきをやったことがないという人も多いのではないだろうか。

「舌苔は細菌の塊で、口臭の原因にもなるので、朝一の習慣にするといいです。みがき方のポイントは、この3つ。

(1)舌を思い切り前に出す
(2)必ず奥から手前に一方向に引く
(3)やさしく真ん中を10回こする

 また、歯ブラシでのついでみがきは舌を傷つけ細菌を繁殖させることも。必ず専用の舌ブラシを使い、1日に1回だけ行いましょう」(栗原丈徳先生)

 

栗原毅先生●前東京女子医科大学教授、前慶應義塾大学大学院教授。栗原クリニック東京・日本橋院長。日本肝臓学会専門医。『1週間で勝手に痩せていく体になるすごい方法』(日本文芸社)など著書多数。

栗原丈徳先生●栗原ヘルスケア研究所所長・歯科医師。「予防歯科医療」と「食と健康」をテーマに活動。近著に栗原毅先生との共著で『眠れなくなるほど面白い 図解 血管・血液の話』(日本文芸社)など。


取材・文/荒木睦美