8月30日、元総合格闘家の朝倉未来が自身のYouTubeチャンネルに『大阪で路上喫煙注意してみた』という動画を投稿。朝倉は、大阪市内の路上喫煙が禁止された区域でたばこを吸う人々に声を掛け、注意してまわった。
“路上喫煙注意”の企画は、朝倉のYouTubeチャンネルの人気企画であり、この動画も170万回以上の再生回数を記録。朝倉は大阪市内の路上喫煙者の数、ポイ捨てされたたばこの吸い殻の多さを憂うと共に、喫煙者に対して聞き取りを実施。彼らが口にしたのは“喫煙所の少なさ”に対する不満だった――。
2025年4月の開幕まで残り半年を切った大阪・関西万博。海外パビリオンの建設の遅れや建設費の増大、メタンガスの爆発事故など、開催に向けた課題は山積みだった。しかし、8月には会場のシンボルとなるリング状の木造建築物、「大屋根リング」がつながるなど、徐々にその全貌が明らかになってきている。
「喫煙所ないんすよね」
『週刊女性PRIME』では、2月に大阪・関西万博にまつわる課題のひとつとして、“喫煙所不足”を取り上げた。その際、取材に対応した大阪市の担当者によれば、万博開催までに市内に140か所の喫煙所整備を進めていく予定であることを明かしていた。
しかし朝倉の動画をみるに、大阪市内で路上喫煙をしていた人々は喫煙所について、
「この辺無いんすよね」
「めっちゃ遠いんですよ。15分くらいかかるんで歩いて」
などと口にしており、喫煙者が喫煙所の充実を実感するに至っていないことが窺える。
果たして大阪市による喫煙所の整備は進んでいるのか。大阪市環境局事業部事業管理課路上喫煙対策担当の担当者に話を聞いた。
「2024年9月27日時点で、市が維持管理している公設喫煙所の数は13か所です。5月に、6か所の公設喫煙所を新設しました。整備中のものもございますので、具体的な件数等はお伝えできませんが、今後さらに数を増やしていく予定です。令和7年1月の市内全域の路上喫煙禁止が実施されるまでに、目標の140か所の整備を終えたいと考えております」
公設喫煙所の数が13か所で、目標は140か所。半年での到達は不可能に思えるが、大阪市は公設喫煙所の整備のほかにも、民間事業者に対して『大阪市指定喫煙所設置経費等補助金制度』を令和5年4月28日に創設している。こちらの進捗はどうなのか。
「令和5年度の申請状況については、審査の結果40件の申請を受け付けましたが、民間事業者さまのご都合により取りやめになったものもございました。結果としては、令和5年度中に34か所の整備が完了し、運用開始されている状態です。内訳といたしましては、新設が27か所、改修が7か所です。
今年度については、昨年度と同等以上に申請を受け付けたいと考えております。9月末で申請を締め切らせていただき、現在はその集計中のため問い合わせの合計件数についてはお答えいたしかねます。
民間事業者さまの申請状況や、市が維持管理する喫煙所の整備進捗状況を鑑みるに、目標達成は可能だと見込んでおります」
目標達成に担当者は自信を覗かせており、140か所の喫煙所整備が実現する可能性は高そうだ。だが、この目標数値については、大阪市の商店会総連盟の独自調査によると、必要とされる喫煙所数は367か所と出ており、遠く及ばない。
実は朝倉は、路上喫煙注意の企画の翌日に吉村洋文大阪府知事と対談を行なっていた(YouTubeには9月4日に投稿)。ジムで筋トレをしながら語り合い、朝倉は大阪市内での路上喫煙注意の体験を踏まえ、“喫煙所増設”の希望を伝えたところ、知事は、
「じゃあ、喫煙所増やします」
と約束したのだった。
動画内では、140か所という目標にも言及しており、
「それがあんま多くないよってことがいっぱい言われているんで。今日も朝倉さんからそういう意見を聞きましたし、喫煙所をもっと増やせるように」
と、さらなる喫煙所の整備に含みを持たせていた。
吉村知事の発言の真意を確かめるべく、大阪府健康医療部健康推進室健康づくり課の担当者に話を聞いた。
「大阪府では、大阪市のように主体となって喫煙所を整備する取り組みは実施しておりません」
いったいどういうことなのか。
「大阪府が実施している路上喫煙対策には、屋外分煙所のモデル整備事業がございます。令和元年9月に、『「屋外分煙所」整備の基本的な考え方』を取りまとめ、市町村や民間事業者さまが屋外の喫煙所を新設、改修する際に、考え方に基づきモデル整備を進めるようコーディネートを行います。
大阪市の喫煙所整備施策について、大阪府が直接関わることはございませんが、モデル事例の共有やPRを通じて、支援を実現していきたいと考えております。また、民間事業者さまから大阪府の方に、大阪市に喫煙所設置の相談等があった際に、内容を確認し、大阪市の担当者にお繋ぎしております」
つまるところ、大阪府が直接的に喫煙所の数を増やすことはないという。では、吉村知事が朝倉と交わした約束は実現不可能だということか。
「来年1月からの大阪市内の路上喫煙全面禁止と、4月からの大阪府の受動喫煙防止条例の全面施行により、喫煙者の方が外出時にたばこを吸える場所がかなり制限されることが予想されます。そこをフォローすべく、大阪市と大阪府でそれぞれの役割をもって、喫煙所を増やしていくというのが知事の発言の意図であったと思われます」(大阪府健康医療部健康推進室健康づくり課担当者)
担当者が語ったように、大阪府では来年4月より『大阪府受動喫煙防止条例』が全面施行される。これにより、経過措置の適用で喫煙可能となっている飲食店のうち、客席面積が30平米以下でない飲食店では全面禁煙に。これは、国が定めた健康増進法よりも厳しい基準であり、多くの飲食店で喫煙が制限されることとなる。
外国人からも、吸う場所が「足りない」「わかりづらい」
“足りない”という声があがり続けている喫煙所の整備と、着々と進む喫煙者への制限。もちろん路上喫煙が問題であり、吸わない人の健康を守ることは大事だが、身近に吸える環境がないことは喫煙者にとって大きな悩みの種で、それが路上喫煙を引き起こしている側面は否めないだろう。
日本の都市部の喫煙所の少なさとわかりにくさは外国人観光客にも不評なのだという。訪日旅行情報サイト『地球の歩き方GOOD LUCK TRIP』が昨年6月に発表した調査では、「日本旅行中に困ったこと」として外国人観光客の回答者の14.4%が「喫煙できる場所の少なさ・わかりにくさ」を挙げている。
万博開催を機に海外からの観光客増加を見込み、きれいな街づくりを目指し始まった大阪市と大阪府の喫煙対策。だが、肝心の大阪・関西万博の会場には、場外に1か所しか喫煙所は設置されない予定。喫煙の制限の一方、喫煙所の整備が追いつかない状況では、外国人含めて「喫煙所難民」とポイ捨てを増やし、旅の思い出にも水を差してしまうことになりかねない。