大谷翔平(2023年)

 10月26日(現地時間25日)に開幕を控えた、ロサンゼルス・ドジャースとニューヨーク・ヤンキースによるワールドシリーズ。大谷翔平投手(30)が出場するとあって連日、ニュースや情報番組、ワイドショーでは“トップ”扱いが続いている。

 特に全試合を完全生中継するフジテレビは力が入る。各番組で特集が組まれる“大谷一色”の様相で、アナウンサーも出演時にドジャースのユニフォームを着込むなど、開幕を待ちきれない様子。がーー、

《今週日曜日って選挙あるんだけど大谷ばかり見せてどうすんのかね》

《衆院選まで残り1週間を切ってもろくな選挙報道を行わず、大谷君のワールドシリーズに興じているのに、選挙特番の宣伝をするから視聴者を舐めているだろ》

《選挙があるのに朝からトップニュースはどの局も全て大谷 しかも延々とやってて本当にしつこすぎる。 日本は自分達の国の舵取りをする人間が決まる選挙より大谷が大事なの?》

 SNS上では各局による“大谷ハラスメント”にウンザリする声と共に、10月27日に投開票が行われる衆議院議員選挙に関する報道が少ないことを疑問視する視聴者も。

「選挙報道」に及び腰になる理由

 特に今回、石破茂首相がいわゆる“裏金議員”12人を非公認とするなど、各区で大荒れが予想される衆議院選挙。朝日新聞による世論調査では、発足から1か月も経たたずに支持率33%まで下降した石破内閣、そして自民党に対する国民の審判が注目される選挙だ。

 にもかからず、選挙報道そっちのけで「ワールドシリーズだ、大谷だ」と騒がれては、テレビ局は「選挙より大谷が大事」と思われてしまったわけだ。

 そんな視聴者のご意見とは裏腹に、テレビ局側にも「選挙報道をしたくてもしにくい事情」もあるようでーー。

地区優勝後の大谷翔平の家族写真。真美子さんの話題はワイドショーで欠かせない(公式インスタグラムより)

「実はNHKも含めた、地上波テレビ局による選挙報道の時間は減っていると言います」とは、選挙事情に詳しい政治ジャーナリスト。

 テレビ局による「選挙報道」は特定の候補者の当選落選、各党の選挙の勝敗を左右しかねない、有権者に大きな影響を及ぼすことがある。そのため公示日を境に、各局に求められるのは、公職選挙法や放送法に基づいた「政治的に公平である」報道だ。

「たとえば党代表や候補者の演説、スピーチを番組で扱う際には時間を平等に測る、といった細心の配慮を怠らない局もあるそうです。番組キャスターが“すみません、お時間になりました”と、途中で切り上げるシーンを見たこともあると思います。

 また特定の政党を支持する視聴者からも、少しでも偏った報道をすると“なんで◯◯党ばかり”などの苦情やクレームが入れられることも」(前出・ジャーナリスト、以下同)

「電波停止を命じる」“政治的圧力”

 2016年には当時、総務大臣だった高市早苗氏が衆院予算委員会で、「放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返し、行政指導しても全く改善されない場合、それに対して何の対応もしないと約束するわけにはいかない」と発言。

 政府が公平性ではないと判断したテレビやラジオの放送局に対して、「電波停止を命じる可能性」について言及したもので、これが“政治的圧力”、“報道の自由を萎縮させる”“国民の知る権利を損なう”として指摘する声も広がった。

「もちろん本来は選挙に関しても自由な報道は認められているところで、2017年にはBPO(放送倫理・番組向上機構)が《求められているのは出演者数や露出時間などの量的公平性ではない》との見解を示したように、露出時間の制限もありません。

 選挙報道に求められるのは《事実を偏りなく報道し、明確な論拠に基づく評論をする質的公平性》としていますが、各方面から“声”を向けられての“自粛”が現実ではないでしょうか。

 それに投開票はともかく、選挙報道は視聴率もあまり期待できないと聞きます。ならば波風を立てず、数字が見込めそうな大谷投手に偏るのは必然のことで、各局にとってはまさに“救世主”なのだと思います」

 全国各地で行われている期日前投票は、前回の衆院選挙と比較して軒並み減少傾向にあるという。政治、選挙に無関心な国民が少なくない現状が招いた“大谷ハラスメント”でもあるわけか。