2008年の元日に公開された天皇ご一家(当時)の写真。中学生の佳子さまにとって、祖父母と過ごす時間は安心できるひとときだったという

 秋篠宮ご夫妻の次女、佳子さまの祖母にあたる上皇后美智子さまは10月20日、90歳、卒寿の誕生日を迎えた。誕生日の2週間前の10月6日夕、美智子さまは、住まいの東京・元赤坂の仙洞御所で転倒した。右大腿骨上部を骨折して「骨接合術」という手術を受けたが、報道によると、経過は順調で、仙洞御所の中で毎日2回、合計約1時間の歩行訓練に励んでいるという。

祖父母が大好きだった佳子さま

羽田空港で、ベトナム訪問に出発する美智子さまに言葉をかけられる佳子さま(2017年2月28日)

 佳子さまは、少女のころから祖父母が大好きだった。学習院女子中等科1年生だった2007年11月22日、誕生日を前にした秋篠宮さまの記者会見が行われた。当時、天皇、皇后両陛下として皇居内の御所に暮らしていた上皇ご夫妻が、佳子さまたち孫にとって「安心できる場所」「ほっとするような場所」なのだと、ご両親は、次のように紹介した。毎年、秋篠宮さまの記者会見が行われている中でも、心が温まる祖父母と孫とのエピソードのひとつである。

 両陛下と佳子さまや眞子さんが一緒に過ごす様子について、記者から尋ねられた秋篠宮ご夫妻はこのように答えた。

ときどき御所に家族皆で行くわけですけれども、両陛下と子どもたちの会話を聞いていると、やはりそれぞれの関心事とか、年齢に合った話題というのが多いように思います。それは旅行のことであったり、それから趣味のことであったり、学校のこともあるように思います。

 それでまた、それに関していろいろな話をしてくださるわけなんですけれども(略)もう一つ前の世代と触れるということは、娘たちにとってもそれだけより多くのことを知る機会になっているように思います。親が経験してないけれども、もう一つ前の両陛下の世代が経験したことを話していただけるわけですね。

(略)あれは数年前でしたでしょうか。那須の御用邸に行ったときに、両陛下が満蒙開拓に行った人たちが戻ってきて、那須の原野を切り開いて、そこに千振の開拓地を造っておられた所を視察されたんですけど、そのときに上の娘も一緒に連れて行っていただいたんですね、私も行きましたけれども。

 そういうこともやはり先ほどお話ししたような、親よりも一つ前の世代の経験というのを知らせておきたいというお気持ちからだったのではないかというふうに私は思います」(秋篠宮さま)

ほっとするような場所

身元不明の戦没者を慰霊する式典にご出席(2023年5月29日)

「眞子と佳子は幼いときから御所へ参内させていただきました折に、両陛下は優しい笑顔でいつもお迎えくださいました。幼い娘たちは、うれしそうに両陛下にかけ寄り、ご一緒にお庭を散策したり、またお部屋ではご用意くださいました絵本やおもちゃで楽しく遊ばせていただきました。

 小さい悠仁も娘たちと同じように、お日さまが照らすような温かさの中で、楽しく過ごさせていただいております」(紀子さま)

「安心できる場所という感じはありますね」(秋篠宮さま)

「ほっとするような……」(紀子さま)

「ほっとするような場所だと思います」(秋篠宮さま)

「娘たちは、今は高校生、中学生になりまして(略)両陛下より歴史、文化や自然など、また時代時代の人々が経験してきた苦労、困難や喜びなど、折にふれて貴重なお話を静かに伺わせていただき、また多くのことを学ばせていただく機会に恵まれております」(紀子さま)

上皇ご夫妻は歴史の生き証人

 戦前、戦中、戦後、そして、現在に至るまで、日本が激動した時代を生き抜いてきた上皇ご夫妻は、優れた「歴史の生き証人」でもある。12月23日の誕生日で91歳となる上皇さまは特にその思いが強い。

 昭和天皇の長男として生まれ、1世紀近くもの間、先の大戦から平和な日本までを見てこられただけに、上皇さまが語る体験に裏打ちされた言葉の一つひとつは、ずっしりと重く、私たちの心の奥底まで響く。2019年2月24日、退位を目前に控えた中で政府主催の「天皇陛下ご在位30年記念式典」が開催された。式典で、上皇さまは平和への熱い思いを次のように語っている。

「平成の30年間、日本は国民の平和を希求する強い意志に支えられ、近現代において初めて戦争を経験せぬ時代を持ちました」

 明治時代から始まり、大正、そして昭和の20年まで、日本人は悲惨な戦争を経験した。その後、昭和の40数年間と平成時代、平和な社会を国民は築き上げてきた。丸々、平和だった時代は、上皇さまの言葉どおり、まさに「平成」だけなのだ。

 これから先、令和、そしてその次の時代へと平和な日本が長く続いていくことを上皇ご夫妻は強く願っている。ウクライナで続くロシアの侵攻や中東地域での戦火拡大など、世界では、きな臭い日常が絶えることがない。こうした状況だからこそ、佳子さまたち若い世代が、肉親らから戦争体験を受け継ぐことは特に大切なことだと思う。

《お怪我前の上皇后さまは、陛下との朝夕のご散策で、お庭に咲く草花や木々の移り変わりを楽しまれ、御用地に飛来する鳥や昆虫に目を留めていらっしゃった、とお供した者から聞いています。身近な自然について、陛下とお話になる時間を大切にされ、楽しんでおいでなのではと感じています》

 10月20日、上皇職はこのように発表した。美智子さまが回復し、また、ご夫妻で赤坂御用地を散策できるような穏やかな日常が早く戻ってきてほしいと、佳子さまだけでなく、多くの国民もそう願ってやまない。元気になった祖母や祖父に会い、戦争体験に限らず、直接、いろいろな話を聞くことが佳子さまや悠仁さま、そして、愛子さまにとって、得難い体験となるはずである。

<文/江森敬治>

えもり・けいじ 1956年生まれ。1980年、毎日新聞社に入社。社会部宮内庁担当記者、編集委員などを経て退社後、現在はジャーナリスト。著書に『秋篠宮』(小学館)、『美智子さまの気品』(主婦と生活社)など