たるみやしわなど、気になる老化のサイン。紫外線によるダメージや乾燥など気をつけていても、次第に目立ってきてしまい、その変化に悩む人は少なくない。とはいえ、美容医療となるとやはり怖いかも……。そこで、外科手術を必要とせずに美容効果を得る最新の切らない治療法を注入療法の第一人者である征矢野進一先生に聞いた。
「世界的に美容医療はメスを使う手術よりも、注入治療などの“非手術”のほうが治療数は多いです。ダウンタイムも短く、人に知られず治療することができます。ランチタイムなどを利用して短時間で施術を受けることができる……そんな即効性も魅力です」
そう語るのは、注入療法の第一人者、神田美容外科形成外科医院院長で医学博士、征矢野(そやの)進一先生。注入治療とはメスを使わずに皮膚に直接注射することで、しわやたるみなどの改善を図るもの。
「切らない治療」が美容医療の主流
ヒアルロン酸注射、ボツリヌス注射など種類はあるが、一般的に使用されているのは非侵襲性(生体への負担がなく身体を傷つけないこと)であり、安全性も高いという。
「ほとんどの人の治療に安心して使えます。例えば現在、治療に使われるコラーゲンは仔牛由来のもので、日本のメーカーで製造されており、30年以上しわの治療に使われています。コラーゲンはもともと体内にあるタンパク質。
外から注入しても体内のコラーゲンと結びつきやすいため仕上がりが自然で違和感がありません。アレルギーを起こす人が3%ほどいますが、必ずアレルギーテストを行いますので問題ありません」(征矢野先生、以下同)
すぐに効果がある注入治療だが、半永久的なものというわけではないことは覚えておきたい。
「個人差はあるものの、コラーゲンやヒアルロン酸による治療の効果はだいたい半年から1年ほど。ボトックスにいたってはもっと短く、3か月から半年です。ヒアルロン酸やコラーゲンは代謝によって体内からなくなり、ボトックスも分解吸収されるからです」
注入された薬剤は身体が本来持っているものと同じであると判断すればこそで、安心安全な治療の証拠でもある。
「ヒアルロン酸は吸水性があるため、体内に入ると組織の水分を含んで膨らむという性質があります。そして、強固に絡み合い結合して硬い性質にする架橋(かきょう)という化学反応をさせることにより、硬く持続効果の長いものにします。
製品によりその硬さが違うのですが、それを利用して最適な部位に注入できるよう各種類の製品を製造しています」
硬くなったものをヒアルロン酸分解酵素を使うことである程度戻すこともできるという。一方で、すぐには元に戻せない製剤もあるので注意が必要。
「コラーゲンは自然な見た目になるけれど、ごくまれに注入部位が浮き出ることが。ボトックス注射による治療も、表情筋そのものの動きを止めてしまうので無表情になるケースがあります。コラーゲンやボトックスの場合、分解吸収されて効果がなくなる数か月を待つしかありません」
表情をつくらなくても存在するクセになったしわはコラーゲンが最も自然な治療ではある。しかし、「筋肉によるしわ」と「表情をつくると出るしわ」にはボトックス注射が、「肌のボリュームダウンによるしわ」と「無表情でも残るしわ」にはヒアルロン酸注入もおすすめだとか。
たるみの悩みも諦める必要なし
たるみの解消に対して有効な「切らない治療」の方法として、糸リフトも人気が高まっている。特殊な糸を皮膚の下に挿入してたるみを改善する治療法で、メスを使用しないためダウンタイムも短い。
「スレッドリフト(糸リフト)は、たるんだ顔にギザギザした『かえし』のついた糸を入れ、かえしで引っ張ることでたるみを引き上げます。6~8本ほどを入れますが、強く引っ張るほど長く持ちます。ほどほどならば、治療直後でも自然でわかりません」
身体に吸収される糸を使い、効果は半年から長いと2年ほどあるそう。
「引っ張る力のないかえしのない糸でも体内に置くだけでも効果があるんです。身体の炎症性反応で瘢痕(はんこん)化し、皮膚がキュッと縮まることで効果が得られます」
せっかく行うなら、効果を1日でも長持ちさせたいところ。そのためにはどうしたらいいのか。
「現実的ではないのでおすすめしませんが、なるべく無表情でいること。よく笑う人など表情豊かな人は戻りやすい傾向にあるので。ですがそれより、正しく健康的な生活を心がけてください。
例えば、ヒアルロン酸は水分を吸収するので、水分が過剰摂取されると、注入したヒアルロン酸が膨らむ傾向があり、影響を受けることも。コラーゲンの場合はダイエットなどで体重を落とすと吸収が速くなってしまうことも。規則正しい生活で健康な状態を保つと急に減少したりせず、通常の減少スピードになります」
ちなみに日本人に多い鼻の悩みにも、ヒアルロン酸を注入する「切らない治療」がある。
「鼻筋をちょっと通しただけで、顔の印象が相当変わることも。わずか0.4から1ccでも自然な印象で変化を感じられると思います」
満足度の高い治療は医師次第
患者1人あたりの治療時間が短いことは、医院の経営面から見ても予約が増やせるというメリットがありそうだが、治療に対する“満足度”が得られないことも。
「同じような仕上がりでも、満足される方もいれば、微細な肌の凹凸が気になるとおっしゃる方もいます。満足できる治療にするためには、医師との意思疎通が大切になります。どうしたいかを医師に把握してもらい、そのためにどんな治療を選ぶべきかを見極められなければ納得のいくものにはなりません」
医院によっては、医師とはあまり話をせず、ほぼカウンセラーの説明だけで進んでしまうことも珍しくはない。
「満足のいく注入治療は医師次第、といえるでしょう。やはり医師の知識や経験、技術が非常に大切。
例えばボトックス注射では、一気に強く打つと、下の筋肉まで動かなくなることもある。浅く広く打つ微妙なさじ加減は医師の腕次第です。しわの原因がどの筋肉でどう動いてどこにあるか深く理解している医師を選ぶべきだと思います」
よい医師選びについては形成外科学会認定医の資格を取っていて、医院も長く営業しているようなところ、というのも目安だと話す。ちなみに、征矢野先生は自身の身体でも効果を実験的に試しているのだとか。
「経験を積むには治療回数をこなしながら学ぶことが一番ですが、私は自分自身の腕の内側に、各種製剤を打ってどのように変化していくか経過や効果を見ます。新しい製剤に出合うたびに欠かさず確かめて比較します。
鏡を見ながら、ほうれい線や下眼瞼(かがんけん)のくぼみにコラーゲンを自分で打ってみたりもしています」
手軽になった「切らない美容医療」だが、満足のいく治療のためにも親身になって寄り添ってくれる医師と出会いたい!
教えてくれたのは……神田美容外科形成外科医院院長 征矢野進一先生●東京大学医学部卒業後、大学病院や総合病院で形成外科、美容外科を中心に専門領域を深める。1988年、神田駅に『神田美容外科形成外科医院』を開院。35年の実績で多くの患者から信頼を得ている。
取材・文/千羽ひとみ