「俳優生活は短くないんですけど、ここまでやったのは初めて。もう、俳優としての範疇を超えていましたね(笑)」
困惑半分、愉快さ半分で話し始めてくれたのは内野聖陽。11月22日公開の映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』に主演している。
「新しい若い才能と一緒に何かを作れる面白いチャンス」
演じているのは熊沢二郎。税務署勤めのマジメな男で、詐欺師・氷室マコト(岡田将生)に大金をだまし取られてしまう。何とかマコトを追い詰めると“おじさんが追う権力者を詐欺にかけて、脱税した10億円を徴収してあげる。
だから見逃して”。公務員倫理に反するこの提案に熊沢が乗った理由とは? そして、ふたりのタッグの行く末は? 監督・脚本は『カメラを止めるな!』(’17年)の上田慎一郎。
「“この役は絶対に内野さんで見たい”と熱いラブコールをいただいて。気の弱いキャラクターがはじけたときの振り幅。それを外連味をもって表現できる、と言ってくださって」
そのオファーを受けたのは、『カメ止め』がヒットして、しばらくたってからのこと。
「僕自身も新しい若い才能と一緒に何かを作れる面白いチャンスだなと思って。“いいよ!”とふたつ返事だったと思うんですけど、その後がちょっといろいろ大変で(笑)」
台本打ち合わせ、という名のもとのミーティングを何度重ねたかわからないと振り返る。
「もう年がら年中(笑)。最終的に14稿と言っていたかな? 僕に声をかけたのは5稿目だったそうですけど、それ以降全部(笑)。“また書いてきたの?”みたいな感じで。僕のほうも“これって面白いの?”といった素朴な疑問に毎回、めちゃくちゃ付箋をつけて。
上田監督はその付箋に戦々恐々だったらしいんですけど(笑)。そして“もういいじゃん”とどこかで音を上げそうになったんですが、彼があまりにも熱心で。最終的には“もう地獄の底まで付き合うよ!”と、とことんやりましたね」
一役者というよりも監督の理解者であり、共犯者になってしまったと笑う。
「そして僕の食指が動いたのは、熊沢が“自分の辞書にあったかな?”くらい、怒りを去勢されているキャラクターだったことかな。詐欺師と出会ったことで、抑圧されていた自分の衝動や欲望、快感などに目覚めていき、最終的に怒りを原動力にして復讐をする。そんなお話に面白みを感じましたね」
「“引き出し演技”になってきたらもうアウトだと思う」
徹底的に役と向き合うことで知られる内野。『風林火山』(’07年)の山本勘助から『きのう何食べた?』(’19年など)のケンジまで、変幻自在。
本作での熊沢は“ザ・おじさん”。そのオーラは完全に消し去られ、イケてない。しかし愛らしく、非常に新鮮だ。改めて、役作りで大切にしていることを聞いてみると、
「やっぱり演技って作り物でしょ、しょせん。その作り物の中に自然の摂理を見たい。カッコいいことを言うつもりはなくて、ちゃんとリンゴが重力に従って落ちる、みたいな。人間はやっぱりその中で生きていて、自然なものに心を動かされたりする。
だから自然であることが、僕は演技でとても大事だなと思っているんですね、これでも(笑)。僕の演技はトゥーマッチで、演劇くさいとか言われることもあるんだけど、それでもくじけずやっているんですよ(笑)」
近年は特に、挑戦的な役柄が多いようにも感じる。
「その意識はないけどなぁ。でも怪獣(『鋼の錬金術師 完結編』’22年)もやったし、確かにね(笑)。やっぱり、まとまっていってしまうことは嫌い。あるいは“引き出し演技”になってきたらもうアウトだと思う」
だから、似たような役を提示されたときには、あまり食指が動かないのだと本音を語る。
「やっぱりこの年になっても、新しいものが眠っているはずだって思いたいんですよ。“へぇ、僕にこんな役が来るんだ。面白いじゃん!”っていうね。内野聖陽の中からまた新たな何かが出てくるかもしれない。でも、そういう役を選んじゃうとやっぱり苦しむんだけど(笑)。でも苦しみの中からのほうが、いろいろな発見ができるんですよね」
安易なほうは選ばない。新たな苦しさに挑み続けている。
内野聖陽に聞いた「怒ることってある?」
理知的で穏やかなイメージの内野だが、怒ることはあるのだろうか?
「理知的? それはね、間違ってます(笑)。基本的には抜けているといいますか、結構ズッコケ系の失敗や、大事なことを忘れていたりしていますよ(笑)。上田監督も言っていたけど、歴史を変える瞬間には必ず怒りがあり、大きなことを成し遂げる人にとって怒りは大事なパワー。
だけど社会生活においては毒薬。人間関係で“あれ?”と思うことがあっても、やっぱり抑えちゃうことが多いですね。たとえ腹の中で“ふざけるんじゃない!”と思っていようとも“はい、ですよね〜”って(笑)」
『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』
11月22日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
配給:NAKACHIKA PICTURES JR西日本コミュニケーションズ