今年も残り1か月弱。年末の大掃除に向けてまずは断捨離を……と思っても、やる気はなかなか出ないもの。「片づけが気持ちいいくらい進み、おまけに脳トレにもなるマル秘テクがありますよ」と、教えてくれたのはお掃除のプロ! 用意するのは紙とペンだけでOK。いったいどうやるの?
「片づけや断捨離をした後に、なんだか疲れたな、と感じる人は多いと思います。その理由は体力的な問題もありますが、脳を活発に使うことによる疲労が大きいためといわれています。片づけは選択と決断の連続なので、脳を常にフル稼働させている状態。裏を返せば、片づけること自体が最高の脳トレだといえます」
と話すのは、片づけサービスの専門家として多くの片づけられない家のお悩みを解決してきた高橋和子さん。
「例えば『いる、いらない』を判断しつつ、いるものをどこに保管するかを考えるのは、複数のことに注意を払い物事を実行する『注意分割機能』を鍛えられます。この機能は脳の認知機能と呼ばれるもので、これらの機能が低下することで認知症を発症するリスクが高まるともいわれているんです」
脳の認知機能にはほかに『計画力(思考力)』という、必要なものや行動を選択して、順序よく計画を立てるといった機能がある。
片づけの「Before・Afterメモ」
「この計画力と片づけには密接な関係があると、多くの方の片づけをサポートするなかで実感しました。片づけが苦手な人の大半は、思いつくまま無計画に片づけ始めるので、途中で挫折してしまうのです。そこで試してほしいのが、片づけや掃除の前に『メモを書いて計画を立てる』こと。認知機能の『計画力』を鍛えられ、掃除もスムーズにできるようになります。掃除中は前述のように『注意分割機能』を自然と鍛えられるので、片づけながら2つの認知機能を高める脳トレができるのです」(高橋さん、以下同)
片づけながらの脳トレには、2種類のメモを活用していく。まず、掃除を始める前に「Before片づけメモ」に「いつ・どこを・どのように片づけたいのか」を書く。
「今日は靴箱の掃除と決めたら、『靴を減らしてスムーズに出し入れができるようにしたい』など、片づけた後のイメージを膨らませて計画を立てていく。すると、そのためにどのくらい靴を減らせばよいかなど具体的に考えられるようになります。これが、計画力が鍛えられ、効率よく掃除が進められる理由です」
片づけをした翌日には、「After片づけメモ」を記入する。「いつ・どこを・どんなふうに片づけられたか」を振り返るのだ。After片づけメモは、物忘れが気になり始めた人こそ実践してほしい。
「一晩おいて『思い出す』ことで、短期記憶を司る脳の『海馬』を刺激できます。慣れないうちは、片づけ前後の写真を撮っておいて、見ながら振り返ってみてください」
メモを振り返ることで達成感も味わえ、モチベーションアップにもつながるという。
脳トレしながら年末の断捨離を
片づけが苦手な人は、一度にたくさんの場所に手をつけようとせず、難易度の低いところから始めると、挫折しにくい。
「年末の大掃除で“あるある”なのが、いつかまとめて片づけようと放置していたクローゼットや書類の整理に手を出して、かえって散らかしてしまうといった失敗。この2か所は『いる、いらない』をパッと判断するのがむずかしいので、最初に手をつけると挫折しやすい。まずは、20~30分で簡単にできる場所から始めれば波に乗れます」
高橋さんのおすすめは、キッチンのカトラリーの整理。収納できるスペースも限られていて、「この箸はずいぶん前から使っているので手放そう」など判断もしやすい。
「座りながらでも短時間で断捨離できて、うまくいかなくても引き出しに戻せば必要以上に散らからないので、気も楽です」
その後は、肌着や靴下を収納している引き出しなど、少しずつアイテム数が多い場所へステップアップしていくと失敗しにくい。また、親戚など来客も増える時期なので、マストで片づける必要がある玄関から始めても。
「玄関は毎日目にする場所なので片づけに成功すれば、達成感もぐんと大きくなります。『Beforeメモ』には、『お客さんが来るので、何も出ていないすっきりとした状態にしたい』と目標を設定し、出しっぱなしの傘をしまう場所をつくったり、靴箱の上に置いたままの小物を整理していきましょう」
洗面所も絶好の片づけスポットだ。
「目標はホテルの洗面所をイメージするといいかもしれません。『来客時に石けんや歯ブラシ以外は、全部引き出しや棚の中にしまえるよう、スペースをつくる』といった具合に計画を立ててみてください」
親にすすめるなら“一緒に”がポイント
メモをつけながらの片づけに慣れてきたら、冷蔵庫やキッチン全体へと少しずつエリアを広げていこう。特に冷蔵庫は、年末年始の食材を買い込んで保管することも多いので、いまの時期から整理できていると余裕が出る。
「冷蔵庫やキッチンは、賞味期限が切れたものや使わない調味料や家電などを潔く処分し、『食材をすぐに使えるようにしたい』といった目標を立てて断捨離を」
片づけるアイテムが増えてくると難易度がグッと上がるが、片づけの基本である、いったんすべての物を出して、いる、いらないを判断し、必要な場所へ収納するという3つのステップを意識して進めよう。捨てるか残すかの判断が苦手な人は、一時的な保管場所をつくって。
「3秒以上迷ったら放り込む『一時保管ボックス』をつくりましょう。ボックスではなくゴミ袋を活用するのもよいです。半年くらいたった後に見返すと、意外と手放す決心がついているもの。ゴミの分別に注意をしつつ、大丈夫そうならそのままポイです」
また、家の中をキレイにしながら脳トレにもなると聞けば、思いつくのは高齢の親世代。ただ、高齢になるほど片づけは体力の低下がネックになりやすい。それに加え、メモをするというひと手間をハードルに感じてしまう人もいるだろう。
「親御さんにすすめるときは、ただやり方を教えるのではなく、計画を立てたほうがスムーズに片づくと伝えつつ、一緒にやってみるのがおすすめ。ここでも、断捨離しやすいカトラリーの整理から始めてみましょう。やりながら、メモを書くことで脳トレにもなる、とさりげなく伝えるのがよいと思います」
メモ作りも強制せずに、片づけだけでも十分な脳トレになることを伝えれば、モチベーションアップにもつながるはずだ。
「もちろんメモを書いてもらったほうがよいのですが、それを負担に片づけが進まないのなら本末転倒。まずはご自身でメモを活用しながら自宅を片づけて効果を実感していただき、そのうえで、年末年始の帰省の際に親御さんにもすすめてみてください」
教えてくれたのは……片づけ上手塾 代表理事。整理収納、片づけサービスの専門家として、1400軒以上の片づけられない家の問題を解決。親と自分の家を片づける「大人片づけ(R)」や脳を鍛えて家も片づく「脳ササイズ片づけトレーニング」を考案。メディア出演多数。
取材・文/オフィス三銃士