第39回 市村優汰
俳優・市村正親と篠原涼子の長男、市村優汰が警察から任意の事情聴取を受けていたと、11月28日号『女性セブン』が報じました。同誌によると、優汰がコンビニで外国人女性の胸を触ったとして警察に通報され、任意の事情聴取に応じたというものでした。事件化には至りませんでしたが、ネットには「典型的二世タレント」と揶揄するような書き込みが見られたのでした。
“二世”は育てる楽しみがない
芸能界にはたくさんの二世タレントがいますが、ひと言で二世といっても業績は人それぞれ。NHKの連続テレビ小説『ごちそうさん』でヒロインを務めた杏は、俳優・渡辺謙の娘ですし、同じく『ブギウギ』の主役を演じた趣里は、俳優・水谷豊と伊藤蘭を両親に持ちます。宇多田ヒカルの母は、70年代に一世を風靡した歌手・藤圭子さんで、彼女たちはもはや親の名前は不必要と言っていいでしょう。
反対に、大きなチャンスに恵まれたものの、期待されたほどの成果を残せなかったり、ごくごく少数ではありますが、警察のお世話になってしまう二世もいます。そこで、今日はなぜ二世はヤバ化しやすいのかについて考えていきたいと思います。
そもそも、今の時代に“二世ウリ”は即していないように思うのです。“推し活”という言葉は大分浸透したように思いますが、ファンと“推し活”との違いは何でしょうか。ある芸能人のパフォーマンスや世界観に酔いしれ、ついていくのがファンだとすると、自分が応援することでその芸能人が成長し、より大きくなっていくのを楽しむのが“推し活”ではないでしょうか。
“推し活”は育てる楽しみと言っていいのかもしれません。しかし、二世タレントの場合、親がビッグネームであればあるほどデビュー直後から大きなチャンスが舞い込むので、「私が育てた」「デビューした時からビッグになると思っていた、私の目に狂いはなかった」という楽しみがないのです。
加えて、現在の日本社会は格差が広がり、“親ガチャ”という言葉が示すとおり、経済力のない親のもとに生まれると大学に進学できないなど、人生の選択肢が狭まってしまうことが明らかとなっています。そういうつらい日常を忘れるためにエンタメがあり、芸能人がいるはずなのに、親ガチャに当たったように見える二世タレントがデビュー直後から大きな仕事をしていると、浮世の厳しさを再度見せつけられるような気がしてしまう。
そうなると、二世タレントに罪はないのですが、「単なる親の七光りじゃん」と揶揄されがちです。二世がデビューすることが悪いという意味では決してなく、話題性や知名度の高さをうまく使いつつ、親とは違うカラーを打ち出してくことがポイントになるのではないでしょうか。
「人の倍は努力せなあかんで」
二世ウリが時代に合っていないことに加え、二世自身にも生育環境由来の欠落している部分があると思います。タレント・IMALUは『しくじり先生 俺みたいになるな!! 3時間スペシャル』(テレビ朝日系)に「親の七光りを1年で使いきっちゃった先生」、キングオブ二世タレントとして出演。
IMALUと言えば、父親は明石家さんま、母親は大竹しのぶという超大物ですが、芸能界入りをさんまに報告すると「一生懸命頑張ってきている人の中に、おまえは親の名前で入るわけやから、人の倍は努力せなあかんで」と声をかけたそうです。オーディションに合格するなどの正統派ルートでデビューにこぎつけた人よりもチカラがないのだから、その分がんばれという意味だと私は理解しました。さんまはIMALUのことはもちろん娘として愛しているけれども、デビューした時点での芸能人としての実力はそれほどでもないと判断していたのではないでしょうか。そして、そのさんまの見立ては当たっていたようです。
IMALUはデビュー1年目にして、ファッションモデル、女優(連続ドラマ)、CM、バラエティー番組のアシスタント、歌手など、売れっ子芸能人のみが手にできる仕事に恵まれます。しかし、結果を出すことが出来ず、仕事を維持することができなかったそうです。こんなことになったら落ち込みそうなものですが、周囲の人が親に遠慮して誰も注意してくれなかったため、IMALU自身に「私、ヤバいかも」という意識はなかったのだそう。さらに父親のコネがだめなら母親のコネとばかりに、仕事が舞い込むために危機感がまるでなかったと言います。
洋の東西を問わず、どんな大物芸能人も最初から売れたという人はおらず、下積みを経験しています。そういう日々の中で、彼らは自分の見せ方を変えたり、社会的な立ち回りも習得して「選ばれる人」になるべく努力していくことでしょう。今はテレビ局がコンプライアンスを強化していますから、テレビに出たい人は不倫や警察沙汰など、不道徳に聞こえることは全力で避けるのではないでしょうか。未成年のことですし、事件化していないことを深堀りするつもりはありませんが、芸能活動をしていながら、市村優汰がこういうことをやらかしてしまうのは、IMALU同様、二世特有の危機感の無さ、鈍さだと思うのです。
二世のリスクについて、ある大物芸能人がこんなふうに言っていました。ONE OK ROCKのボーカル・Takaのお父さんは演歌界の大御所・森進一、お母さんは森昌子さんです。昌子さんはすでに引退されていますが、国民的な演歌歌手でした。その昌子さんの著作『母親力 「息子を飯が食える男」に育てる』(SB新書)によると、Takaが音楽をやりたいと言い出した時、両親そろって大反対したそうです。
その理由は「いいこともありますが、悩みや苦労はその何十倍もあります」「周囲からは、親の七光りだと絶対に言われる。それで間違った方向に行く子も大勢いる。長男がそうなってしまってからでは、とり返しがつかない」からだそうです。二世としてデビューすることは、親の七光りという揶揄を受け入れ、悪いとりまきをはねのけ、売れてからも悩みを抱えることを覚悟するという相当強いメンタルが必要ということでしょう。芸能界の頂点を極めた人だけに、かなり重みのある言葉だと言えるのではないでしょうか。
高級ブランドで身を固めた写真を投稿
優汰はインスタグラムで、ルイ・ヴィトンなど高級ブランドで身を固めたコーディネートを投稿しています。自分を誇示したい年頃でしょうし、こういった投稿がきっかけで、ファッションの仕事につながる可能性もありますから、アピールは不可欠です。しかし、仕事に関係ない、大多数の人には“カネ持ってるアピール”に見えないこともない。
こうなると、おこぼれに預かりたい悪い人が近づいてきてしまう可能性があります。また、今回彼が注目されたことで、彼と親しいフリをしてプライベートを手に入れて、週刊誌などに売り込んだり、YouTubeチャンネルであることないこと暴露する人が絶対にいないとも言いきれません。二世ほど、冷静で人を見抜く力が必要なのかもしれません。
その他にも、彼独自の抱える事情も見逃せないところがあります。それは両親の年の差婚と離婚です。2024年4月9日放送の『踊る! さんま御殿』(日本テレビ系)に出演した優汰は、「中学に入ってから骨が伸びて、お父さんの身長を抜いて、今まで親子ゲンカしてたんですけど、親子ゲンカがなくなって、自分が大きくなったからか、おびえてて……」「ケンカできなくて、僕が何か言うと言い返してこないので、口をずっとモゴモゴしてて」と発言しています。
ミュージカル界のレジェンドをけなすことができるのは、実の息子の特権でもあり、テレビ用に多少盛っている可能性もあるので鵜吞みにはできませんが、この発言から伺えるのは、市村の父親としてのパワーダウン、もっとはっきり言うと、老いなのです。
一方の母親である篠原涼子は、離婚の何年も前から、篠原は男性との会食や朝帰りを週刊誌に報じられています。男性との会食イコール不倫ではありませんし、母親にも、いや、母親こそ気晴らしは必要です。しかし、この後、別居を経て離婚したことを考えると、篠原の外出は単なるお付き合いや気晴らしではなく、家庭から興味を失いつつあった証拠にも思えてくるのです。もしそうなら、頼りがいをなくしつつある父と、行き場のない女ざかりをもてあますような母の間で、優汰は誰にも言えない孤独を抱えていたのかもしれないと思うのです。
一般論ですが、子どもの問題行動には、なんらかのさみしさが起因していると言われています。思春期であること、二世という恵まれているけれども、リスクもあるポジションであること、そして両親の離婚と、彼はまだまだ大人のケアを必要としているように思えてなりません。
両親を含めた周囲は、二世だからこそ、彼から目を離さずにゆっくり育て上げ、「ヤバい二世」への転落から守ってあげてほしいと願わずにいられません。
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」