年末が近づき、飲み会や忘年会のお誘いが増えてくるこの季節。無理をせずに、お酒の席を楽しむためには“肝臓の健康”に目を向ける必要があるという。
「肝臓には、主に『代謝』『解毒』『胆汁の製造』という3つの働きがあり、私たちの健康維持には欠かせない臓器です」
そう話すのは、肝臓専門医の浅部伸一先生。肝臓における「代謝」とは、体内のブドウ糖の量の調整、筋肉づくりに必要なタンパク質を構成するアミノ酸と血管に必要なコレステロールの産生を指す。
働き者の臓器・肝臓の病は気づいたときには「手遅れ」
「『解毒』は、その名のとおり、毒出しです。肝臓は、代謝の過程で作られた不要なものや有害な物質を毒性の低い物質に変えます。例えば、お酒に含まれるアルコールは『アセトアルデヒド』という有害な物質に変えたのちに、より無害な“酢酸”に分解してくれるのです。
ちなみに、アセトアルデヒドは肝臓を含め、いろいろな細胞にダメージを与えますし、アルコール自体にも毒性があることから“お酒は肝臓に悪い”とされています」
そして「胆汁の製造」。胆汁は、食事からとった脂の消化・吸収を助ける消化液であり、肝臓でのみ作られるという。このように、肝臓の働きはとても複雑で多岐にわたるため、浅部先生は「肝臓は身体の化学工場」と言い表す。
「多くの仕事を抱える肝臓は体内の臓器の中でもっとも大きく、重い臓器。さまざまな役割を果たすには、それだけ多くの細胞が必要なのです。その分、肝臓はとても丈夫で予備力があるので、多少無理をしても音を上げません。ただし、長期間の暴飲暴食がたたり、脂肪肝や肝炎を発症しても、かなり悪化するまでは自覚症状が出ないのが特徴です。また、肝臓の細胞はダメージを受けても痛みを感じにくく、機能が弱っていても悪化するまで症状が出にくい。これこそが『肝臓は沈黙の臓器』と呼ばれるゆえんでもあります」
もしも「お腹が張る」「疲れがとれない」などの自覚症状が肝臓由来の病だった場合、すでに深刻な状態になっていることも。
お酒を飲まない女性も注意、50代以上に増える脂肪肝
肝臓の機能低下=お酒の飲みすぎというイメージが強いが、中高年以降の女性は、お酒を飲まずとも「脂肪肝」のリスクがある。
「実は、女性ホルモンと脂肪肝には深い関わりがあります。女性ホルモンには、皮下脂肪を蓄える一方で、内臓脂肪をつきにくくする作用があります。しかし、閉経を迎えた女性は女性ホルモンが大幅に減るため、内臓に脂肪がつきやすくなってしまうのです。
皮下脂肪は外見に影響しますが、健康リスクが少ない脂肪です。一方内臓脂肪は脂肪肝や糖尿病につながる脂肪でもあります。単純な脂肪肝は深刻な病気ではありませんが、そのまま放置すれば重篤な病につながるため、注意しなければなりません」
脂肪肝が炎症を起こすと「脂肪肝炎」になり、いずれ「肝硬変」に進行する。最悪の場合「肝臓がん」を発症して命を落とすことも。
「個人差はありますが、若いころと同じ食生活や運動量でも、体重が変わっていない人は筋肉が落ちた代わりに、内臓に脂肪がついている可能性があります。その場合は、見た目はやせていても、健康診断で“隠れ肥満”と告げられるケースもありますね」
まさに、百害あって一利なしの“脂肪肝”。予防・改善する方法はあるのだろうか?
「脂肪肝は、食事量の調整と運動の習慣化で解消されます。食事は、糖質を抑えた食生活がベストです。食事でとった糖質は体内でブドウ糖に分解され、血液中に流れます。肝臓は血中のブドウ糖を取り込み『グリコーゲン』という物質に分解して貯蔵。
必要なときにブドウ糖に戻してエネルギーとして使用し、血糖値の上昇を抑えます。しかし、糖質をとりすぎた場合、余ったグリコーゲンは中性脂肪に変えられて血中に放出されたり、肝臓に残ったりするため、脂肪肝の原因になるのでとりすぎはNGです」
12時間のプチ断食で肝臓をいたわる新習慣
肝臓が代謝を行い、血糖値を下げると空腹を感じる。十分な食事をとったにもかかわらず、血糖値低下の空腹感に負けてスイーツや菓子パンを食べると、中性脂肪を増やしてしまうので、なるべく控えたいところ。
「運動量が多い人はエネルギーが必要なので、積極的に糖質をとる必要があります。しかし、デスクワークや運動不足の人が糖質をとると中性脂肪がたまっていく一方なので、自制するのが理想です。
また、お酒は“脂質”に近い飲み物なので、飲みすぎるとアルコール性の脂肪肝を招きます。アルコールの飲みすぎが脂肪肝の原因になっているならば、節酒・禁酒がもっとも効果的な対策です」
また、日頃の運動不足が気になる場合は、1日30分以上のウォーキングがおすすめ。半年ほど続けると成果が表れるという。
「ただ、どの方法も『継続が難しい』と感じる人も多いでしょう。そこでトライしてほしいのが『12時間断食』です。断食といっても週に1日、12時間何も食べずにいるだけ。就寝時間を含めて計算すると、無理なく行える断食法です。
内臓脂肪は、皮下脂肪よりも落ちやすいという特徴があり、12時間の断食でも効率的に肝臓の脂肪が減っていきます。ただし、基礎疾患や肝臓に問題を抱えている人は実施しないでください」
断食中にどうしてもおなかがすいたときに食べるなら「いり大豆などの大豆製品がよい」とのこと。
「大豆には植物性タンパク質と食物繊維が含まれており、噛み応えもあるので空腹を感じにくい食品です。ナッツ類も脂質と食物繊維が豊富なのでおすすめ。ただし、食べすぎると脂質のとりすぎとなるので、5粒ほどにとどめてください」
プチ断食にトライした後は、おかゆやスープなど消化しやすい食事から食べ始めるとなおよし。週に1度、働きすぎた肝臓を“断食”でいたわろう。
「普段の生活の中で、自分の肝機能が低下しているか否かを判断するのは困難です。ただ、今は大丈夫でも、暴飲暴食や運動不足の日々が続けば、将来的に肝臓の代謝や解毒が鈍くなり、さまざまな問題が生じるリスクがあります。健康寿命を延ばすためにも、早めに肝臓を大切にするメリットは大きいですよ」
飲み会シーズンだけでなく、将来を見据えた肝臓ケアを心がけよう。
先生おすすめ「肝臓いたわり習慣」
日頃から気をつけて!
週に1度の12時間断食
肝臓をしっかり休ませるためにプチ断食を。睡眠時間も含まれるので、夕食を夜6時に食べ、翌朝6時に朝食をとる方法でOK。水分は水やお茶などゼロカロリーのものを選ぼう。
血糖値を上げない食習慣に
食事のバランスを保ちつつ、肝臓のために+αで取り入れたい食材は「シジミ」。シジミに含まれる「タウリン」や「メチオニン」などの栄養素が、肝臓の働きを助ける!
糖分をなるべく控える
肝臓が代謝を行い血糖値を下げると、しっかり食事をしても空腹を感じやすい。空腹に任せて糖質が多い菓子パンやスイーツを食べてしまうと「中性脂肪」の産生につながるので、控えるのが吉。
教えてくれたのは……浅部伸一先生●東京大学医学部卒業後、虎の門病院等に勤務。肝炎免疫研究のため米・スクリプス研究所に留学し、帰国後、自治医科大学付属さいたま医療センター消化器内科に勤務。現在はアシュラスメディカル株式会社所属。著書に『長生きしたけりゃ肝機能を高めなさい』(アスコム)がある。
取材・文/大貫未来(清談社)