約30年で100以上の選挙を統括し、国会にも豊富な人脈を持つ選挙プランナーの永田太郎が政治の深層を語ります。
12月4日、元グラドルとの不倫問題を受け、国民民主党・玉木雄一郎代表に同党両院議員総会は全会一致で役職停止3か月の処分を下しました。
今まで不倫問題で議員辞職に追い込まれた事案もあったことを考えると、軽い処分といえます。しかし国民民主としてはこれで乗り切れるとの判断だったのかもしれません。この間、何があったのでしょうか。
政界屈指の陽性コンビに、敵失も重なって高支持率
それはひとえに、国民民主党の支持率の破竹の勢いが止まらないからです。
玉木氏の不倫発覚から数日後の11月15日~17日のテレビ東京・日本経済新聞社調査では政党支持率は11%(前回比10ポイント増)。2020年9月に現在の国民民主党が結成されて以来、過去最高でした。
そこから半月経っても陰りを見せず、11月30日~12月1日のTBS系のJNN調査に至っては8.8%(前回比0.3ポイント減)。遂に立憲民主党と逆転し、自民党に次ぐ2位に浮上したのです。
これは自公合わせても過半数を越えないハングパーラメント(宙づり国会)で開かずの扉だった「年収103万円の壁」が開く手ごたえを国民が感じている、その牽引車である玉木代表を失う訳にいかないという事情でしょう。
その玉木代表は党のイメージカラーである黄色が似合う、大きな目の長身イケメンで物腰も柔らかい、明るいキャラクターで不倫の負のイメージを中和しています。
そして見逃せないのが、これまで玉木代表に一歩下がっていた榛葉賀津也幹事長の存在。ヤギを飼ったりひょうきんなイメージだったのが、さながら武蔵坊弁慶が源義経を守るかのように、タッグを組む玉木代表を支えています。この榛葉氏、「趣味は玉木雄一郎」と公言しているのです。
玉木代表の「やさ男の政策マン」キャラと、野球部出身で「男っぽくオープン」な榛葉幹事長のキャラが噛み合っているのです。実際、距離の近い写真が撮られたり、共同の会見では記者を指名するタイミングが被っていたり、微笑ましい“ニコイチ”ぶりに一部では「ボーイズラブ?」と妄想をたくましくする向きもいるようです。
毎週金曜日の榛葉氏の定例会見は、「爆笑あり、記者からプレゼントあり、本音あり、謝りあり」と見所満載で、回を追うごとに目が離せなくなっています。
私も長年永田町を見てきましたが、笑いや驚きに事欠かないこのライブな記者会見は新鮮です。真骨頂は、玉木代表にからんだとある記者へのリベンジ。あの小池百合子都知事が2017年に希望の党を作った際、転落のきっかけとなった「(政策の合わない議員は)排除します」という発言を引き出した名うての記者に物おじせず、一喝したのです。
今回、玉木代表は針のむしろとなったメディアに出続け「お詫び」から入る姿勢を貫いています。その潔さもむしろ好印象となっているのかもしれません。
また他の注目株達が、相次いで大きなエラーを連発しています。
玉木氏の不倫発覚から4日にして、APEC首脳会議での石破茂総理の外交マナーが物議をかもしました。その2日後には兵庫県知事選で、まさかの斎藤元彦知事の大逆転劇、美酒を呑んでいる間に折田楓氏の選挙違反疑惑が勃発。いずれも外目にも大変に分かりやすいミスで、国民の印象も濃かった。にも関わらず出番であった立憲民主党は主役を張れておらず、日本維新の会は代表交替で身動き取れず。
政治には「天の時」も大事な要素ですが、まさに神風が2回も吹いた状況になりました。「下半身の問題も良くないが、他と比べてどうか」という空気感に変わっていきました。
ネット世論調査のパイオニアであるJX通信社・米重克洋代表取締役が、選挙ドットコムちゃんねるで意識調査結果を公開しました。玉木氏の不倫問題を踏まえて、【1】個人的な問題より政策実現が重要だ 【2】政策実現より個人的な問題のほうが重大だ 【3】わからない、答えないという3つの回答を用意しましたが、電話、ネット調査いずれでも【1】は5割越えで【2】にダブルスコア以上をつける結果となりました。
「国民民主党の支持層が増えたが、それでも圧倒的に20~40代の男性が多い。その男性がこういった問題にやや寛容である」としています。こちらの動画で米重氏の対談相手を務めたスピーチライター株式会社カエカ千葉佳織代表は「クリーンを標榜する公明党だったら、別の結果だったかも」としています。
軽い処分は党内事情と世論の合作
それでは国民民主党は、どうして3か月の役職停止という軽めの判断を下したのでしょうか。
同党では、党員は「政治倫理に反し、または党の品位を汚す行為、言動」を倫理規範に反し、行ってはならないとしています。(倫理規則第2条1の一)違反があったら、榛葉賀津也幹事長は以下の5つの処分から選べます。(同規則第4条1)一、幹事長名による注意 二、総務会名による厳重注意 三、党の役職の一定期間内の停止または解任 四、党公認または推薦等の取り消し(衆議院議員選挙または参議院議員選挙の比例名簿からの登録抹消を含む) 五、公職の辞任勧告。
一、二では単に注意するだけで何の足しにもならない。四、五では玉木代表を追放するのと同じこと、党の根底を揺るがす事態になります。はなから三ありきだった訳です。
さらに、「総務会は、党員の倫理規範に反する行為・言動が、党の綱領基本理念、規約等に反し、本党の運営に著しい悪影響をおよぼすと判断した場合、幹事長の発議に基づき、以下の各号に掲げる処分を行うことができる」としており、一、党員資格停止 二、離党勧告 三、除籍が挙げられています。
不倫問題が党運営に著しい影響を及ぼすどころか、本当に玉木代表を失ってしまったら党運営どころか党の存亡に関わってきます。榛葉幹事長は、処分明けの3月4日に玉木代表の復帰を示唆しています。玉木代表も会見で、その時も党の判断に従うと述べています。
他党では役職停止処分は1か月、3か月、半年、1年など様々です。自民党の党紀委員会は、政治資金パーティー不記載問題で、不記載額が5年間で2000万円以上なら1年の役職停止、1000~2000万円なら半年間の役職停止、500~1000万円の議員に戒告の処分を下すも、甘いと世の指弾を浴びました。
自民党において、3か月以上の党の役職停止は、8段階の処分で軽い方から3番目であり、戒告(厳重注意に近い)より厳しい程度です。
かようによく出る「役職停止」処分ですが、今回の玉木氏のケースで6か月の期間にしてしまうと、来年7月の参院選前まで人気者玉木代表のポスターも使えず、甚大な影響が生じるでしょう。
党内事情でおそるおそる役職停止3か月の落とし所を考えていたところ、ライバルたちの失策が「渡りに船」となったわけです。
これでみそぎ 「玉木ロス」の3か月間は一兵卒で辛抱
国民民主党は同時に、メディアとの軽妙な対話で人気を博す、榛葉幹事長に、既に記者会見を一本化すると発表。今後は榛葉氏が「玉木の地道な姿も見てやってよ」と、笑いを取りながら代表復帰の機運を作っていくはずです。
ハイライトとなる年収103万円の壁の与党折衝では、古川元久代表代行がピンチヒッターとなります。元大蔵省の実直でクレバーな政策通、永田町通の中では既にキャラは立っており、ちまたにもブレイクする可能性があります。年末にかけてこの2人はさらに脚光を浴びていくでしょう。
所得の手取りが来年4月分から増えるかの正念場、一兵卒となった玉木「前」代表が下支えしていれば、「玉木ロス」現象が起きるかもしれません。