斎藤元彦兵庫県知事

「公職選挙法などに違反することはないと認識している」

 12月2日、報道陣にこう語ったのは斎藤元彦兵庫県知事。今年、日本全国から注目を集めた一人だ。

 騒動は今年3月、県民局長がマスコミに宛てて、告発文を送ったところから始まる。

「告発文には、パワハラ、おねだりなど、斎藤知事のさまざまな暴挙が記されていました。斎藤知事は、これらの疑惑を否定。本来であれば公益通報をした局長は保護されるべきなのに、県の幹部による直接の聞き取りが行われたうえで、懲戒処分がくだされました」(報道記者、以下同)

 その後、元局長が自死したことが明るみに。4月にも別の県職員の男性が自死しており、2人の命が失われる異常事態に発展。県議会では9月に斎藤知事への不信任案が全会一致で可決した。

 斎藤知事は、出直し選挙で民意を問う選択をするが、さすがに再選は厳しいだろうと目されていた。しかし、

「SNSで“斎藤知事はハメられた”などの言説が飛び交うようになるのです。これによって、少しずつ県民の支持が拡大していきました。選挙戦の最後には、街頭演説で大勢の聴衆が斎藤知事を囲むまでに。選挙は、斎藤知事の圧勝で幕を閉じました」

キラキラ社長の“自慢”で新疑惑が

 これで県政も落ち着きを取り戻すかと思われたが、

「今度は選挙戦で、PR会社に約70万円を支払って、SNS戦略を任せたことが公選法違反であるとの指摘を受けたのです。これはPR会社の女性社長が、選挙戦のSNS戦略を一手に担ったといった趣旨の記載を『note』に投稿したことで火がつきました」

 その女性とは、PR会社『merchu』社長の折田楓氏。慶應大学を卒業後、フランス留学を経て外資系銀行に就職。その後、地元・兵庫県にUターンして起業したというピカピカな経歴の持ち主。折田氏のSNSは、眩しいほどキラキラした投稿であふれる。

眩しいほどのキラキラした日々を公開している折田楓氏(本人のSNSより)

  再びメディアの集中砲火を浴びる斎藤知事だが、疑惑については冒頭のように否定。しかし、12月2日、神戸学院大学の上脇博之教授らが、斎藤知事を公選法違反で刑事告訴するなど、混乱は一向に収まる気配を見せない。

 ここで気になるのは斎藤知事を再選させた兵庫県民のホンネだろう。疑惑が噴出する現状に何を思うのか。

兵庫県民は「それでも支持する」のか

 週刊女性は12月4日、兵庫県に住む18歳以上の男女1000人を対象にネットアンケートを実施。現在も斎藤知事を支持しているのか否か、選択肢を設け、その理由を回答してもらった。結果は、支持するが433人に対し、支持しないは424人と、支持する人がわずかに上回った。

「支持する」と回答した人からは、「斎藤知事が本当にパワハラなどを行ったのか疑問。政策自体はいいと思う」(20歳・女性)、「ちゃんと戦っている。既得権益に負けないで!」(58歳・女性)、「県職員のうまみを削ろうとして、それに反発されているようにしか思えない」(56歳・男性)、「マスコミなどの報道を見ていると、斎藤知事おろしのように感じ、事実かどうかわからない」(57歳・男性)など、利権集団と戦っているとする意見やマスコミ報道を疑問視する声が大多数を占めた。

 一方で「支持しない」と回答した人からは、「パワハラに加え、公職選挙法違反も判明して信用できません」(38歳・女性)、「説明を怠っており信用に欠ける」(36歳・女性)、「公益通報者の保護に関する認識に問題があることは否定できず、この点だけでも知事としての資質を欠く」(66歳・男性)、「パワハラがなかったとはいえない。身内や知人が県職員でつらい思いをした人がいる」(52歳・女性)、「県政に多大な停滞が起きて県民は安心して生活できない」(74歳・男性)など、疑惑に関する適切な説明がないことや県政を混乱させた責任から辞職を求める声が。

知事選に出馬したNHK党の立花孝志氏

 こうした県民の声について、刑事告発した上脇教授はどう思うのか。話を聞いた。

ネットの不確かな情報を信じ込んでいる人が大勢いるようですから、今も支持する人が多いのでしょう。先の知事選は異様だったと思います。斎藤知事は選挙で、公約のうち着手した政策と達成した政策の合計が99・8%だと訴えていましたが、ネット上では“達成率が99・8%”とする誤った情報が拡散されました。さらに選挙の論点が、元局長のプライベートに設定されてしまったことや、NHK党の立花孝志氏が斎藤知事を応援するために立候補するなど、とても民主的な選挙とはいえない状況でした」

斎藤知事の話題は視聴率がとれる

 斎藤知事の疑惑を告発した元局長の不倫疑惑が一部で報じられたことから、ネット上では元局長の告発内容に疑いを持つ声も拡散された。こうした真偽不明の情報が流布された影響によって斎藤知事が再選したと見る向きもあり、批判を続けた新聞やテレビなどの“オールドメディア”が敗北したとする声もある。

「そのオールドメディアは、47都道府県あるうちの、たった1つの県政の話を連日、全国ネットで報じ続けています。斎藤氏を支持する人からすれば、テレビが執拗に斎藤氏を攻撃していると思うのでは」(ITジャーナリスト)

 兵庫県政について、テレビが連日、報じるのはなぜか。かつてテレビ朝日で報道番組の制作に携わった経験のあるフリープロデューサーの鎮目博道氏は、

「この騒動は、次々と新たな展開が起き続けています。何より登場人物のキャラが立っていて、発言内容も面白い。私も過去に報道番組を担当していたのでわかりますが、番組責任者として自分が担当した曜日の視聴率が落ちることは避けたいもの。だからこそ視聴率が取れそうな斎藤知事の話題を扱うのでしょう」

 と話し、こう続ける。

斎藤元彦氏Xより

「兵庫県政の話としたら兵庫県民にしか関係のない話に見えますが、パワハラや公益通報といったキーワードは、昨今の社会情勢から世間の関心が高く、国民全員が考えるべきことで、公益性もある。視聴者も、自分には直接の関係はないけれど、出てくるキーワードを見ると、まったく無関係なわけでもない。対岸の火事のように、視聴者が高みの見物をしたくなるニュースだと感じます。とはいえ、量として報道しすぎというのは間違いない。ほかに報じるべき大切なニュースがあるのも事実でしょう」

支持でも不支持でもない『その他』は

 斎藤知事の代理人弁護士は11月27日に会見を開き、折原氏が投稿した『note』の内容は「盛っておられる」と説明し、疑惑を否定。

 前出の上脇教授は、

「選挙戦で斎藤知事を支援したある議員が、折原氏の『note』は真実だとする趣旨をXに投稿している。そのため弁護士がいくら“違う”と言っても信ぴょう性はない」

 と指摘する。

 アンケートでは『支持する』『支持しない』のほか、143人が『その他』と回答した。その多くが「きちんと調査報告が出たら判断したい」(49歳・女性)、「調査が終わるまで結論は出せない」(54歳・男性)と、事態の推移を見守る姿勢を示す。

 支持・不支持を覆すには、適切な説明が必要となる。

鎮目博道 テレビプロデューサー。1992年、テレビ朝日に入社。報道番組プロデューサーなどを経て、『ABEMA』立ち上げに参画し2019年に独立。著書に『腐ったテレビに誰がした?「中の人」による検証と考察』(光文社)など