度重なる再発を乗り越え、最後の治療から10年以上たった子宮頸がんサバイバーの善本考香(としか)さん。いまは再発することなく、元気に過ごしているという。
最初に異変に気づいたときの様子や、“生存率0%”とも言える状況から助かった経緯について話を聞いた。
膣から大量の鮮血がドバッと
善本さんが最初に異変に気づいたのは2011年のこと。当時は40歳で、シングルマザーとして一人娘の優花(ゆうか)さんと2人で暮らしながら病気とは無縁の日々を過ごしていた。
「夏になって、陰部から鼻をつくような酸っぱく異様な匂いがするようになり、病院に行ったほうがいいかなと思っていました。それから少しして、お風呂場で髪を洗っていると、膣から大量の鮮血がドバッと流れ出たんです。
不正出血はそこまで珍しいことではありませんでしたが、出血の色と量を見て、もしかしてがんかもしれないと、強い恐怖に襲われたのを覚えています」(善本さん、以下同)
国立病院の婦人科を受診すると、医師から「命の危険がある。子宮体がんか、子宮頸がんかもしれない」とあやふやな“がん宣告”を受け、恐怖で頭が真っ白に。振り返ってみれば当時は目がチカチカしたり、変な汗が出たりすることもあった。
また、しばらく前から性交時にも異変が起きていたという。
「毎回痛みと出血がありましたが、あまり気にしないようにしていました。数年前から生理も2週間続くようになって、出血が日常になっていたんです。今思えば、どれも異常な症状ばかり。体は明らかにSOSを発していました」
それから新しい病院を受診し、再検査を受けると子宮頸がんが見つかり、子宮と卵巣、膣周辺の摘出手術を受けることに。
「ようやくがんの状態が正確にわかって手術で取り除けることになり、ホッとしました。なので、女性特有の子宮や卵巣を失うことに抵抗は感じませんでしたが、手術の前日に急に生理がきたときは驚いて……。まるで子宮が自分の運命を悟り、最後の生理を起こしたかのように感じたんです。声を上げて泣きました」
治療を終えても繰り返す“再発”
その後に行った手術でリンパ節の転移も発覚。子宮と卵巣に加え、骨盤内のリンパ節も切除した。
「術後は卵巣欠落症の症状で、急なほてりが数日おきに起こりましたが、排尿障害などの後遺症とは幸い無縁でした。でもその後の抗がん剤は、吐き気や倦怠感、脱毛など、辛い副作用が続いて本当に苦しかったです……」
必死の思いで抗がん剤の最後のクールを終えた2012年の春、善本さんの願いも虚しくお腹のリンパ節に再発が見つかってしまう。
「あれだけの思いをして抗がん剤を終えたばかりなのに、なぜ?という失望と不安、恐怖でいっぱいでした。気持ちの整理がつかないまま、すぐに2回目の抗がん剤治療、そして放射線治療も行うことに。がんになってからなぜか臭いに敏感になっていたので、放射線室特有の臭いが嫌で嫌で仕方なかったのをよく覚えています」
放射線治療を乗り越えた善本さんに待っていたのは「3度目の再発」。検査で肺などに見つかったのだ。
「主治医は抗がん剤ならまだできると言ってくれましたが、どう考えても抗がん剤だけでは治らない。実際、あとから主治医に聞いたところ、このとき“生存率0%”と言ってもいい状態だったとのこと。命の危機を本当に実感して、助かる方法を探すために必死で勉強しました」
そしてセカンドオピニオンを受け、その後、さまざまな治療法を受けたという。
「転移した肺の手術をはじめ、高濃度の抗がん剤を病巣に入れる治療や、加速した炭素粒子を病巣に照射する重粒子線、高周波の電流で病巣を焼き切るラジオ波焼灼術など、5種類もの治療を受けました。その間にも肝臓など全身の転移が2度発覚しましたが、2013年12月にすべてのがん細胞を消滅させ、“残存病変ゼロ”になりました」
特別な“抗がん剤の使い方”が奏功
善本さんが受けた治療のなかで特に注目なのが一般的ではない抗がん剤の使い方だ。本来、抗がん剤は全身のがん細胞を攻撃するために使われるのが一般的だが、善本さんの場合は直接がん病巣に流し込んで攻撃したのだ。
「これは動脈化学塞栓療法という治療法で、血管内に細いチューブを入れてがん病巣に直接抗がん剤を流し込み、そのあとがん病巣につながる動脈を塞ぐというもの。濃度の濃い抗がん剤を長い時間、病巣に滞留させることで、高い効果を得られる場合があるようです」
この治療法はもともと肝臓がんの治療として開発されたもの。肝臓がんでは一般的な治療法だが、それ以外のがんでも一定の効果があり、保険診療でできる場合があるという。この抗がん剤の使い方によって善本さんは根治への足がかりをつかむことができたのだ。
現在は自分の闘病体験を少しでも役立てたいと、がん患者をサポートするNPO法人『スマイルステーション』を立ち上げた善本さん。もう少し早く病気に気づいていればと悔やむこともあるという。
「いまから思えば、性交時の異変について我慢せずにパートナーと話していればよかったなと思います。出血や痛みを伝えるとパートナーの性能力を否定することになり、パートナーが性行為に自信を持てなくなってしまうかも、と思ってしまったんです。でも、異変は命に関わることもあるので、遠慮せずにパートナーと話してほしいと思います」
がんは早期に発見できれば、その分、助かる見込みも増える。気になる症状がある場合は早めに受診したい。
また、がんが再発や転移してもあきらめないでほしいと善本さん。
「医者から手の施しようがないと言われても、まだ自分のがんに有効な治療はないか探してみる価値はあると思います。私はそれで実際に助かりましたし、10年たったいまも再発することなく、ぴんぴんしていますから」
社会の高齢化に伴い、がん患者は増え続けている。がんになっても早く見つけて対処することで安心して暮らせたり、たとえがんが進行しても少しでも長生きできる社会になってほしいーー。
善本考香さん●1971年、山口県生まれ。NPO法人『スマイルステーション』代表理事。共著に『このまま死んでる場合じゃない! がん生存率0%から「治ったわけ」「治せるわけ」』(講談社)。